第6話 異世界軽トラ、斯く戦えり。
スライムを見つけた。
多分、あれをたくさん倒せばレベルが上がるはず。
倒す―――どうやって?
オレは軽トラから降りれば死んでしまう。
よしんば降りられたところで剣もなければひのきの棒すら持っていない。
仮に倒せたところで、オレが倒したのならばオレに経験値が入ると思う。
今、経験値を与えたいのは『軽トラ』だ。
「やっぱり……こうするしかないよな……」
ぐちゃぐちゃぐちゃ~
何とも言えない感覚だ。日本では魔物はおろか、人はもちろん動物も轢いたことなどない。タイヤ越しに伝わってくる感覚は、なんというか、道端に落ちている大きなウ〇コを轢いたような感じがした―――。
「やったー、まものをたおしたぞー(棒)」
初めての経験なのだが、そこに感動はない。
これで経験値が入ったのだろうか?
ダッシュボードを見るも、経験値バーのようなものは見当たらない。
現在の経験値が見えないタイプのRPGなのかな?
ちなみにHPメーターもMPメーターも全然減っていない。
どうやら当方ノーダメージだったようだ。
ふとバックミラーに、きらりと光るものが見えた。
スライムを
軽トラを取り回し、その場に向かうと小さな光る石のようなものが落ちている。
「これは、魔石ってやつかな?」
おそらくはスライムのドロップ品と思われる石を―――慎重に軽トラから降りて、1メートル以上離れないように拾う。
いまのところ何の役に立つかはわからないが、とりあえず拾っておくべきだろう。
無事にスライムを倒し、ドロップ品も手に入れた。
とりあえず、この調子でどんどんいこう―――。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
オレはスライムを探した。
しかしなかなか見つからない。エンカウント率が悪いのだ。普通の旅人であれば望ましい事なのだろうが、レベル上げしている身としてはたまらない。
それでもどうにか探し当て、4匹くらいは順調に轢いて倒していった。
そして5匹目を見つけた時の事だった。
これまでのスライムはただふよふよしていて、ただただウン〇のようにつぶされていったのだが、そいつは違っていた。
そのスライムは、まっすぐ軽トラのほうに跳ねながら突進してきた。これまで同様轢きつぶそうとしていたオレはその動きに気を取られ反応が遅れる。
びちゃっ!
つっこんできたスライムは、軽トラに打撃を与えた―――と思いきや、そのまま前面のヘッドライト付近に張り付いている。
そして、その付近からシュワシュワと何かが溶けるような音と、白い煙が上がり始めた。
すると、HPメーターを指し示す針が、緩やかに下方に動いていく。
「やっべ! 溶かされてる!!」
どうしよう。オレは焦った。スライムを引きはがそうにも軽トラから降りられないし―――いや、1メートル以上離れなければ大丈夫か? でも、どうやって引きはがす? 素手? そうすればオレの手が溶かされてしまう。棒切れのようなものも見当たらない。
「ええい! こうなったら!」
視界の隅に移った立木に向かって軽トラを走らせる!
時速30㎞/hくらいまで加速し、そのまま木に突っ込む!
軽トラと木の幹でスライムを挟み込んでつぶしてやる!
ドガーン、ぐちゃっ
スライムを倒した! 軽トラは前部がつぶれた!
HPメーターは3分の1くらい減ってしまったが、どうやら危機は去ったようだ。
そして―――
軽トラ全体が一瞬、淡い光に包まれた。
どうやら、軽トラのレベルが上がったらしい。
某有名RPGのようにファンファーレが―――鳴った……。
そして、音声で
『けいとらはれべるがあがりました。れべるが1になった!
と、またもや色々ツッコミどころ満載な無機質な機械音声アナウンスが流れてきた。
この音声はどこから? と思い周囲を見渡すと、カーステレオのあたりに違和感を感じる。
BluetoothどころかCDどころか、FMすらないAMラジオだけのカーラジオに電源が入っている。
ふむ。さっきの音声はラジオのスピーカーから聞こえたのだろう。どこかからAMのラジオ電波が入ってきて音が鳴ったのだろうか? いや、それは考えにくい。
おそらくは軽トラの異世界仕様に合わせてラジオの機能も単なるアナウンス機能としてカスタマイズされたのだろう。
異世界にラジオ放送があってたまるか。
カーラジオのインターフェイスを確認してみる。外見上は日本にいた時と同じように、ボタン一つで放送局を選択できるボタンが5つほどついていた。
今、ボタンが押された状態でONになっているところには『適時』と小さな文字で書かれている。
一番左のところには『全て』、『適宜』のボタンを挟んで右の方に『戦闘』、『オプション』、『交通情報』と続いている。
……交通情報ってなんだろう。
交通情報のボタンを押してみる―――。
……まったく反応はない。
軽トラを発進させてみる。
……まったく反応はない。
どうやら実装されていないようだ……
たしかに田舎だと放送局が少なくて、ボタンの数ほど放送してないから死にボタンがあるけれども……。
せめて『空き』の表記とか、なにも表記なしにしてほしかったよ。変に期待した自分をたしなめたい。
気を取り直して、今度は『全て』のボタンを押してみる。
そのボタンを押すと、ほかのONの位置に押された状態になっているボタンが「カシャン」と音を立ててOFFの位置に戻った。
なんてアナログな機能を再現してくれているんだ。
そして、軽トラを走らせてみると――
『ぎあがいちにはいりました! くらっちを48パーセントつなぎました! あくせるを37ぱーせんとふみこみました! けいとらがぜんしんしました!
じそく3きろ……14きろ……38きろ……』
いちいちうるさかったのでOFFにする。
ラジオ? は『適時』と『戦闘』だけをONにしておこう。
さて、予想外のレベルアップアナウンスで検証が寄り道してしまったが、いよいよ
【ふりーわいふぁい】を検証してみよう!
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