第5話 第一魔物発見。

 オレは軽トラの【取り扱い説明書】を読み進める。

 


 この説明書を読破すれば、


 とりあえずはこの異世界で生きていく方法のヒントや、

 

 この世界に飛ばされてしまった原因解明の一助になるのではないか。





 そう思っていた時期が私にもありました。



 次のページをめくったオレの身に飛び込んできたのは―――




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               Now Printing



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――






「はい?」


 

 そして次のページには―――







――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


   続きはWebで! 


 説明全部書くのめんどくさいから、

    下のバーコードからアプリ入れてその都度ヘルプで質問してね~



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 おいゴラァ!


 めんどくさいってなんだよ! 



 アプリ入れろったって、こんな異世界でスマホなんて使えるわけが――― ん?

もしかして……使える……のか……スマホ?


  



   異世界=スマホの電波はない



 という思い込みがあって、スマホはせいぜいバッテリーが切れるまでの時計機能か電卓、ネットのオフラインページを見るくらいしかできないと思っていた。



 慌ててポケットからスマホを取り出す。

 

 その画面には、〈4G〉のアンテナがバリ4で立って―――


 



 なかった。


 圏外表示だった……。






 ならばWifiの電波はどうだ?


 たしか軽トラ内部の空間は日本のTOKYOとおんなじ環境と書かれていたはずだ。


 もしかして、フリーのWifi電波が飛んでいるかもしれない!


 そんな都合のいい解釈があってたまるかという、心の中にいるもう一人のオレの言葉を丁重に無視しながら、スマホの設定→Wifiと進んでみると、




――この機能は現在の軽トラのレベルでは使用できません――



……そうきましたか。


 何気にスマホまで異世界仕様になっている気もするが多分些末なことだ。


 とにかく、軽トラのレベルさえ上げれば、異世界でもスマホは使えるようだ。

 

 まあ、どこまでの機能が使えるのかはその時にならないとわからないのだが、田舎者とはいえ現代社会に生きる人間としては朗報である。


 ということで―――


 軽トラのレベルってどうやってあげるんだい?



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 どうやら、この異世界でもスマホが使えるらしい。

 

 だがしかし、スマホを使うには軽トラのを上げる必要があるようだ。


 ならば、レベルはどうやってあげるのだろうか?


 まあ、異世界ファンタジー物の定番とすれば、魔物を倒して経験値をためていくのだと思うが……魔物っているのかな?


 

 これまで人間どころか魔物どころか植物にしか出会ってない。


 今いるところは街道脇の樹木のあるちょっとした広場でいかにも旅の途中の休憩に適した場所。


 少し考えてみれば、この世界に危険な魔物や動物などがいたとして、その出現頻度が高そうなところに休憩所は設けないだろう。街道も同様だ。


 ならば、街道から外れてみるか。




 

 オレは、軽トラを街道から遠ざかるように走らせる。現在位置を見失わないように、広場に生えている樹木の形を覚えておく。


「あー、カーナビとか、スマホのグー〇ルマップとか使えればいいのにな~」


 カーナビはもともと軽トラについていないのであれだが、スマホアプリのマップについては、軽トラのレベルを上げてWifiが使えるようになればもしかしたらという希望がある。


 まあ、ないものねだりばかりしていてもしかたがない。今は、今できそうなことをするべきだ。


 軽トラは草原を走る。草原はとうぜん舗装などされておらずそれなりに起伏があるのだが、極端な凹凸などはなく、樹や大きな岩などを避ければ軽トラでも十分移動することが出来た。


 目の前のダッシュボードを確認する。転移直後は気が動転してろくに確認していなかったが、いざ改めて見てみると現代日本にいたころのそれとは若干異なる様相を見せている。

 

 燃料計の表記は『FUEL』でなはく『MP』になっているし、その上にはMPメーター同様、針の位置が残量を示すアナログの『HP』メーターがある。回転計や速度計もある軽トラのアナログダッシュボードには似合ってはいるが、ゲームで緑色のバーになっているHPゲージを見慣れている身からすれば、アナログのHPメーターは逆に新鮮である。

 

 ちなみに、体感では10数㎞走行しているがMPメーターはまだ減少の気配を見せない。燃費最悪のクソゲー仕様ではないようで少し安堵する。


 視点を進行方向に戻すと、視界の隅になにかうごめくものを発見する。

 


 第一印象は『揺れるゼリー』



 向こう側が透けて見える半透明の水色の物体が、ゆっくりと体を震わせながら移動している。




 間違いない。


 あれは、スライムだ。





 ――第一魔物発見。

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