第4話 軽トラの謎。

 オレは期待を込めて、助手席のダッシュボードから「取り扱い説明書」を取り出した。

 

 オレはなぜ、軽トラから離れると死にそうになるのか?

 オレはなぜ、異世界に転移してしまったのか?

 オレはなぜ、軽トラと共に転移したのか?


 もしかしたら、そのすべての謎がこの「取り扱い説明書」で解消されるかもしれない。

 

 震える手で、車検証が入っているビニールのカバーの中から冊子を取り出しすと、その表紙には―――


 


        【軽トラ 異世界仕様車】


 


 こう書かれていた。


 


 うん。とりあえず取扱説明書が地球に居た時のまんまの内容でないことが分かったのには安心した。ここまで期待をもたせて「ハイ〇ェット 取り扱い説明書」とか書かれていたら落胆していただろう。


 期待を込めて表紙をめくる。



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               ごあいさつ


拝啓


 この度は異世界転移おめでとうございます。

 また、転移のお供に当社謹製の【軽トラ 異世界仕様車】をお選びいただき誠にありがとうございます。

 さて、すでにお気づきのことと思いますが、ここ異世界の環境では所謂【地球の人間】は生存することが出来ません。この世界に広がる【魔素】が人間にとっては毒となるためです。

 このような過酷な環境でのオーナー様の快適性を高めるべく、当社の製品には様々な機能スキルを搭載しております。

 また、拡張性ゆたかなオプションパーツも充実しており、オーナー様の異世界ライフに彩を添えることが出来ると自負しております。

 それでは、当製品がオーナー様の充実した異世界生活の一助となることを祈念致しまして、ごあいさつに代えさせて頂きます。


                                   敬具

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「……なんじゃこりゃ……」


 とりあえず。この世界では魔素というものが充満していてそれが毒になる。さっき軽トラから降りた時に激しく苦しくなったのはそのせいだということは分かった。


だが、更に疑問は増えた。

 

【異世界仕様】【当社謹製】【オーナー様】などという気になる文言。



 この文言の意味するところは、この軽トラを作った、もしくは異世界仕様にカスタマイズさせた、がいるということ。


 そして、オレが地球で乗っていたのは普通の軽トラだったので、この軽トラをオーナーであるオレにあてがった、またはカスタマイズしたいるという事だ。


 その両者は別の存在なのか、それとも同一の存在なのか。もし同一だとすれば、そいつはオレが異世界に転移させられたことについても事情を知っているか、その原因となった張本人である可能性が高い。



 仮にその人物? を「X」エックスと呼称しよう。



 「X」はオレの前に姿を現すことはあるのだろうか?


 はたして、「X」は敵なのか? それとも味方なのか?


 現時点ではわからないことだらけだ。


 


 とりあえず、今できることとして「取扱説明書」の続きを読んで「軽トラ 異世界仕様車」についての理解を深めていこう。


オレは軽トラの取り扱い説明書を読み進めていく。




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【燃料について】

当軽トラは、〈MP〉を燃料にして走行します。

 MPは、使用すれば当然減りますが、この世界にあふれている魔素を吸収して時間の経過で自動で回復します。なお、一定時間における回復量のパーセンテージは地域ごとに異なる魔素の濃さのほか、軽トラのレベルに応じて回復量が増していきます。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 っておい、いきなりぶっ飛んだ内容だな。

 

 確かに、そういわれて確認すればダッシュボードの燃料タンクの表示が〈FUEL〉ではなくて〈MP〉になっているぢゃないか。

 

 それに、軽トラのレベルだと? 軽トラにはレベルがあるのか? っていうか、普通レベルがあるのは人間である〈オレ〉じゃないのか? 軽トラってアイテム扱いでっていうよりもとかとか、そういう概念じゃないのか? 


 まだ1ページ目なのに早くもオレの精神は疲れてきた……

 

 なんか読み進めるたびに新たな疑問が生じるし……



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【運転手保護機能】

 当軽トラは、異世界の過酷な環境から地球人を保護するため、〈環境適用結界〉ちきゅうとおんなじ機能が標準装備されています。

 この機能は、軽トラ内部空間のほか、軽トラ周囲の一定の範囲が適用になり、その範囲は軽トラのレベルアップによって拡大されていきます。

 この機能の範囲内にいる運転手、および登録を済ませた同乗人は周辺環境からの絶対保護を受け、ほぼ地球(日本:トーキョー)と同じような環境のもと、快適な異世界軽トラライフを送ることが可能です。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 


 うん。つっこまないぞ。いちいちつっこんでいたらオレの精神の耐久力がガリガリ削られるわ。

 

 まあ、冷静に考えれば軽トラに乗っている間は命の危険はないし、酸素も地球と同じようにあって呼吸も問題ないと。

 

 そして軽トラのレベルを上げれば、降りて外を動き回れる範囲がひろがると。

 

 絶対保護っていう文言が気になるが、現時点では無視してやる。



 どんどん読み進めていきますよ―――

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