第2話 異世界にいる!

 オレは軽トラを走らせる。

 

 丘の上に向かって。


 


 少しでも遠くが見えるよう、高い所、より高い所へと向かっていく。

 

 そうそう、何とかバカと煙は高い所に……って違うわ!


 

 などと一人で脳内ボケツッコミをしながら軽トラを走らせること十数分。

 

 草原だらけの視界の中に今までは見えなかった風景が見えてきた。



 それにしても、知らない場所にたった一人でいるというのはメンタルにくるものだ。


 まるで、若かりし頃に一人で東京に遊びに行ったときに某駅の中で方向も目的の路線も分からなくなって立ち尽くしたときのようではないか。


 田舎者のメンタルは干からびた藁のように細くてもろいのだ。


 

 で、新しく見えた風景だが、一面の草が切り取られ、固めた土が一定の幅で一直線に、時には蛇行して丘の稜線の向こうまで伸びている。

 

 これは、俗にいう『街道』というやつではないだろうか。


 

 道があるという事は、その道を作った『人』がいるという事。

 道があるという事は、その道を通る『人』がいるという事。

 人がいるという事は、ここがどこであるのか尋ねることが出来るという事。

 という事は、家に帰る道が分かるかもしれないという事だ。


 うむ。若干くどくなってしまったが、とにかく家に帰る手掛かりが見つかったという事だ。

 

 次にすることはと言えば、この道をたどって人の住む場所にたどり着くことである。

 

 では、いったいどっちの方向にむかって進むべきだろうか。

 

 蛇行して丘の上の方に伸びる道、若干下りでほとんど直線な水平線を超えて見切れる道。一体どちらに向かえば正解なのか。

 

 ちなみに、オレは方向音痴の上に勘も悪く、道に迷ったときの2択の時は絶対ハズレを選ぶという強運? の持ち主だ。したがって、ここで考え込んでも意味はない。

 

 まあ、何とか軽トラと煙は高い所に向かうものだ。

 

 登りの道を進んでみよう。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 オレは街道の丘を登るように軽トラを走らせた。

 

 この街道は、土を固めたような地面にところどころ雑草が生えており、まるで現代日本の田んぼのあぜ道のような感じだ。決して平らとは言えず、大きな石ころや雨天時には水たまりであったであろう陥没があちらこちらに見受けられ、軽トラのサスペンションは大活躍だ。


 道幅は車1台分ほどで、対向車が来ればどちらかの車は道をよけて草むらの上に車を寄せなくてはすれ違うことはできないだろう。


 と、まあ、見ての通りの田舎道だ。激しい揺れが臀部にも届き、まさに全身でアスファルト舗装のありがたみを感じている。


 オレの住んでいたところも大概な田舎だったが、さすがにここまでの田舎道ではなかった。もしかして牧場? オレは牧場の中の道にでも迷い込んでしまったのか? だが、牛や馬や羊の姿は一匹たりとも見あたらない。牧草地? にしてはサイロのような建物も一向に見当たらない。



「いったいここはどこなんだ?」


 と、ぼやいたところで視界の中に変化が現れた。


 目の前に伸びる街道? の左脇に大きな数本の木が見えた。その周辺は平らな広場のようになっており、ピクニックをするのに向いている感じの場所が広がっている。


 そして、そのひと際大きな木の脇に、明らかに人の手で作られた立て看板が立っているのを見つける。



「おお! 人工物だ! 現在地はどこだ! 家に帰る手掛かりはないかな?」


 もはや独り言の域を超えた叫び声をあげながら、看板に向けて軽トラを走らせる。


 いよいよ看板に書かれた文字が見える距離まで近づき、その文字を確認したところで、オレは妙な納得感とあきらめと絶望が入り混じった感覚にとらわれる。






「あっちゃ~、ここ、異世界だわ」


 




 看板に書いてある文字? 記号? は現代地球のどの国の言語でもなく、分かり易いピクトグラムのような絵でもなく。

 どう考えても難解摩訶不思議なマークのような記号のようなものなのだが、なぜかオレにはその書いている内容が自然に理解できた。理解できてしまった。


 

 これまでの状況を整理すると。

 

 仕事帰りに怪しい水たまりに突っ込んだこと。

 その後意識を失い、見たことのない場所に居たこと。

 現代日本では見たことのないような、狭くて舗装もされていない道。

 そして、決め手は見たこともない言語が理解できてしまう事。


 齢50になってもゲームやアニメ、ラノベをこよなく愛するオタク中年のオレの知識から導き出される答えはただひとつ。



 おっさんは軽トラごと異世界転移してしまったようです。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る