オペレーション8 ―2話
■死んじゃうかも知れない
声を掛ける代わりに、オトイチは頭をフル回転させて打開策の検討に入った。
①ポンの体をよじ登り、ロープの絡まりをほどく。
ダメだ! ポンの腕が持たない。
②体を振って、壁にへばりつき、宙吊り状態から脱出する
いや、どんなに振っても、壁面までは腕が届かない!
③レスキュー隊を呼ぶ。
間に合うわけないだろう!
④腕はあきらめてもらい、命を優先する。
冷血漢か!
――検討時間4秒。
打開策は見つからなかった。
そうこうしている間に、さらなる不運が2人を襲う。
再びの強風。
ひと繋ぎになった2人の体が大きく振られる。
その予期せぬ動きによって、腕の拘束は解かれた。
が、それは幸運の風ではなかった。
今度は、一旦たるんだロープが、ポンの首に巻き付いてしまった。
「ぐえぇぇっ!」
ポンの口から、断末魔が漏れる。
紫色に変色した右腕は使いものになりそうもなく、左腕一本では2人分の体重を持ち上げ、自力で首のロープをほどくなど不可能に思えた。
追い詰められたオトイチは、そこに至ってついに、第5の打開策をひらめいた。
さっそく実行に移すため、腰に装着した道具袋をまさぐる。
取り出したのは、超音波振動カッターだった。
1秒間に2万回揺動することで、とてつもない切れ味を発揮するという優れものだ。
それなら高硬度のロープでも切断することができる。
オレの体重の負荷さえなくなれば……。
オトイチは決意を固めた。それが唯一の打開策に思えた。
チリチリチリ。
ロープにゆっくり刃が食い込んでいく。
ふと見上げると、意識を朦朧とさせたポンと目が合った。
ポンの口が、「ダメだ」と動いたように見えた。
その時、キュイイィィィンという耳慣れない音が、至近距離から聞こえてきた。
オトイチが、視線だけで音の発生源をさぐると、それは無機質な壁の中。キングハチの“体内”から聞こえてきているように思えた。
次の瞬間、シュパン! という風切り音が聞こえ、急に体が軽くなった。
自分が空中に投げ出されたと気づいたのは、数秒後だった。
が、落下している感覚はなかった。
強いて言えば、中空を浮遊しているような……。
首を振ると、すぐ横にポンの姿があった。意識を失っているのか、目は閉じられている。
オトイチは、ポンの体を引き寄せようと、必死に手を伸ばしたが、空間が歪んでいるような感覚を覚え、うまく体を動かすことさえできなかった。
息ができない。
完全に意識が飛ぶ寸前、オトイチは自分たちが何かに吸い込まれていくような空気の流れを感じた。
同時に、どこからか犬の遠吠えに似た声が聞こえた気がした。
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