Treasure Box is in The Street
Treasure Box is in The Street-第1話
ここは、おおいぬ座、生物が住む八つの惑星の中で最も辺境の星。
数少ない栄えている街・SHIᗺUY∀の裏路地、薄暗く人気のないどん突きにアングラショップ「ヴァイナリー」がある。
「こんにちは店長、なんかいいの入った?」
「ああ、『ディストライダーズ』のが昨日入荷したな。まだ段ボール開けてないからちょっと待ってくれ」
「やった! 一番乗りでしょ! 早く聴きたい~♪」
「あんまり騒がないでくれ。クリーナーに感づかれたら店が終わっちまう」
「あ、は~い」
俺は店長をつとめるJINGだ。店にはカルチャー好きのオタクたちが集う。
表立って売れないインディーズの音楽・マンガ・アートなんかが商品だ。
日陰でコソコソやるしかないのは新しいカルチャーが生まれることを制限し取り締まっている組織・クリーナーたちのせいなんだが。
この店も、もとはオーナーが店長をやめる際に引き継いだんで特に何かする必要もなかった。
ギリギリとはいえ俺にとっちゃ食うに困らないのは幸いだ。
こんな苦々しい環境で若手たちがアートを追い求めるのも、その作品を買っていくやつらも古い時代に活躍したらしい『伝説のアーティスト集団・HACHI』の幻影を追い求めているからなんだろう。
かつての俺もそうだったしな。
と、いうショップ経営は表向きで、アングラショップのさらに裏の顔ってのもあれだが、俺はいろいろなアート作品のコピーを請け負う贋作者だ。
レガシーとして保護されているアートなんかの贋作を作って生きるってのも不安定なもんで、それでヴァイナリーを引き継いだ訳だが、それは出来るだけ地味に、かつ食いっぱぐれのない生活をしようと思ってのことだった。
贋作者の顔がばれるとそれこそ終わりだからな。
「はいよ。御代は3,000円」
「たっか。安くなんないの?」
「馬鹿いうな。これでギリギリなんだよ。次も聞きたいんならお布施するぐらいのつもりでいろ」
「はぁ~しょうがないか」
「まいど」
まあ俺も昔は自分だけのアートを創作することに腐心していた頃があった。
キラキラだったさ。だが人様に評価されるようなものが作れなかった。
才能の壁があったんだろう。発想力の欠如ってやつか。
それでも技術や知識には自信があった。
そこをバイヤー組織ハンドラーに目を付けられたんだろうな。
贋作を作れと。
飯を食う金すらない俺はそれに飛びついた。
それで転落まっしぐらだ。こんな風にな。
「今日はもう閉めるか……」
そんなある日、ハンドラーから興味深い情報が飛び込んだ。
大規模なアートフェスティバルをSHIᗺUY∀で開催するのだそうだ。
もちろんこれは非合法で、クリーナーたちの目を盗みながら作品を完成させることになるんだろうが。
店の明かりを最小限にし、ドアに鍵をかけシャッターを降ろす。
外はすっかり暗くなっていた。
こんな路地にも夜風が流れ、それが心地いい。
普段ならそのまま家路につくが、今日はなんとなく散歩することにした。
ハンドラーからフェスの話を聞いたからだろうか、妙にそわそわした気分だ。
人混みを避けあてもなくふらふらしていると、いつの間にかYOʎOGI P∀RKをまたぐ歩道橋の上にいた。
この時間になると閉園していてこの周辺にはもう人気はほとんどない。
橋の中ほどで立ち止まり柵に寄りかかった。
渋谷の夜空はたいして奇麗ではない。
煌々とする繁華街が星の輝きを消してしまう。
実につまらない。
アートフェス……もちろん俺にもお誘いはあったさ。
だが返事が出来なかった。
そんなフェスに参加できるようなオリジナル創作ができる実力がなければ度胸もない。
よどんだ星空を眺めながらため息をつく以外何ができるって言うんだ。
タバコに火をつけ夜空を眺めていると、不意に流れ星が落ちた。恥ずかしい話だが無意識に流れ星に願ってしまった。
自分にしかないアートを作りたいと。
次々に流れる星たちを見て、そう思ってしまった自分を笑ってしまった。
まだそんな気持ちが欠片でも残っていたのかと。
最初から数えて7つ目が流れた時。
「随分と落ちてくる。流星群の日にでも当たったのか……いらん幸運だな」
と思わずつぶやいてしまった。
そして8つ目の流れ星。
珍しいからしばらく眺めるとするか、と自嘲で感傷的になりつつあったその時、軌道がそれまでと違うことに気付いた。
なんだ……? そう思った時にはもう遅かった。その彗星は俺目掛けて落ちてきた。
「うわ!?」
と、声が出た時には流れ星が衝突していた。
こんなふうに理解出来たのは、自分が死んでないと気付いたからだった。
訳が分からなかった。俺を覆うように周りが光り輝いている。
たぶん流れ星の中なのだろう。
しかし流れ星の中というのはこういうものなのか、と妙に感心してしまったが、普通に考えればだいたいは鉄と氷の塊であって人など当たれば一瞬でチリになってしまうな。
じゃあなんだ? と思っていたところ、頭の中に様々な映像が流れ込んできた。
無理やり流し込まれていくといった感じか。
映像、というには断片的なものが大量に繋ぎ合わさって、所々で重なったもので、古い歴史ムービーを見ているかのようだった。
そしてある程度流れ込んできたところでこれらの正体が判明した。かつて星々を席巻した、カルチャーリーダーと呼ばれた伝説『HACHI』の魂だ。
この映像の中身を要約すると、このHACHIの魂を乗せた流れ星が、次のHACHIを探すために時代を越えて俺をターゲットにしたというものだった。
なぜ俺かは分からない。
ただ言えることはHACHIの魂を受け継いだことで、とんでもない力を手に入れたようだ。
UD∀G∀W∀ TOWNの端にある家に戻る途中、それらの力を試してみた。
まず超人的な身体能力。
そこらのぼろビルにジャンプ一回で屋上に昇ることができた。
そして転がっていた鉄パイプを拾うとまるでゴムチューブのように握り潰すことができた。
さらにそれ以上の、俺にとってかつて喉から手が出るほど渇望し、しかし無能であることを自覚しすでに諦めていた、無限のモチベーションが胸の奥から熱く湧き上がってくることに気付いた。
抑えきれない獣のような衝動にかられ、思わず叫んでしまっていた。
「なんだこれは……はは……どこぞのスーパーヒーローそっくりだな。HACHIとはこういう存在だったのか」
突然のギフトで高揚しすぎたのか落ち着くまで暫くかかった。
HACHIは人智を超えた化け物で伝説になって当たり前だったんだなと冷静に理解する一方、この力で何をしようかちょっと考えただけでも今にも溢れる感情で爆発しそうになった。
まずは落ち着け、とりあえず寝よう。
何をするかは明日決めよう。
そう思いながら俺は帰るなりベッドに飛び込んだ。
―『Treasure Box is in The Street』第2話へ続く―
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