EXCLAMTIONS PARADE―第2話
「アメちゃん、今日の天気は?」
私の名前はアメリだが、フウカさんはアメと呼ぶ。
兄のハレルヤのことは、ハレと呼ぶ。
「晴れと雨。面白い兄妹ね」。
初めて会ったとき、彼女はクスクスと笑いながら言った。
「フウカさん、今日の天気って、もうすぐ夜ですよ」
「あらっ、夜の天気を気にしちゃいけないって法律ないでしょ」
「そりゃあないですけど」
私はスマホで天気予報を確認した。
「今日は昼間も晴れだったけど、夜も晴れ。満月が綺麗に見えます」
私がそう言うと、フウカさんは指をパチンと鳴らした。
「いいわね、満月。今日は絶好の展示日和かも」
「展示日和って、作品の?」
「私たちHACHIが、それ以外に何を展示するっていうの?」
「ちょちょちょちょっと!」
フウカさんの発言に、私は思わず管理人室の窓から身を乗り出した。
「何考えてるんですか。今日はさすがに無理ですって。今夜は『CLEANER PARADE』の日ですよ!」
CLEANER PARADEとは、月に1度行われるCLEANERたちのパトロール行進のことだ。
彼らを雇っている街の管理者を先頭に、100人を超えるCLEANERたちが一堂に会し、SHIᗺUY∀の繁華街を練り歩く。
その抑止効果は絶大で、今までその日に作品を展示したHACHIは皆無だ。
ほとんどのHACHIは、パレード中は繁華街に近づこうともしない。
「PROJECT8だって同じですよね?」
管理室には、管理日誌なるノートがある。
一見、森々荘の管理人としての日誌のように思えるが、実はそうではない。
書かれているのは、PROJECT8の活動記録だ。
私は2代目リーダーになったとき、その日誌を隅々まで読んだ。
PROJECT8は今まで28個の作品を展示している。
多い日には、8人のメンバーがそれぞれ自分の作品を1つずつ、同時に8個も展示したこともある。
そんな大胆不敵な彼らでも、パレードの日に展示は行わなかった。
そこに地雷があると分かっていて、わざわざ踏み入る者などいないのだ。
「と言うことで、今日は絶対展示なんてするべきじゃないです」
もし兄が生きていたとしたら同じことを言っただろう。
だが私を見て、フウカさんはニヤリと笑った。そして冒頭のクイズを出してきた。
今夜、CLEANERに捕まらずにSHIᗺUY∀の街に作品を展示するには、どうすればいいでしょうか?
「カチ、カチ、カチ、チーン、さあ、答えを教えて、リーダー!」
「それは、ええっと……」
私はない知恵を絞り、必死に考えた。そして何とか絞り出したものの、ろくなアイデアを思いつかない。
出てきたのは、どれもろくでもないアイデアばかりだった。
そんな私を見透かすように、フウカさんは笑った。
「アメちゃん。こういうときは、いちばんろくでもないアイデアを言ったほうがいいわよ。だって、まともなアイデアなんて、この世界をちっとも動かさないもの」
「それって……」
世界を動かすのは、いつも、ろくでもない人間たちであるーー。
兄が言っていた言葉だ。
毎回、何言ってるんだろうって呆れていたが、その言葉に惹かれていたのは事実だ。
私は小さく頷くと、フウカさんを見て、ゆっくりと口を開いた。
「たとえ、CLEANERが100人いようが、世界中の人たちが絶賛するぐらいのアートを展示すれば、その作品を排除することは絶対できないーー」
SHIᗺUY∀の街には、『GODハチ』という名の正体不明の人物が創った、8つの作品がある。
それは、今や世界最高峰のアートの街になったSHIᗺUY∀の、すべての始まりだった。
ある日突然、GODハチの8つの作品が街に現れ、人々を魅了した。
そしてそんな作品に憧れ、自分も作品を展示したいと思った人々が、HACHIになった。
CLEANERは、HACHIの作品を排除する権利を持っているが、GODハチの8つの作品を排除することはできない。
CLEANERだけではない。彼らを雇った街の管理者も、展示されているHACHIの作品を盗み、闇で売買する『HANDLER』と呼ばれる人々も、GODハチの作品に手を出すことはできない。
なぜながら、世界中の人々が、その作品を高く評価し、SHIᗺUY∀の一部だと認めているからだ。
「つまり、GODハチと同じレベルの作品を展示すれば、CLEANER PARADEの最中だとしても、作品を排除されることも、捕まることもない」
私はそう言いながら、そんなことできるはずがないと思っていた。
今まで数えきれないほどのHACHIたちが作品を展示してきた。
しかし、誰ひとりとして、GODハチと同じ評価を受けた者はいないのだ。
「やっぱり、まともなアイデアじゃないですよね」
私は苦笑いしながら言う。
だが次の瞬間、フウカさんはイスから立ち上がると、管理人室の窓ごしに身を乗り出し、私の目の前に顔を近づけてニッコリと笑った。
「さすがハレくんの妹ね。彼と同じアイデアに辿り着くなんて!」
―『EXCLAMTIONS PARADE』第3話へ続く―
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