EXCLAMTIONS PARADE -エクスクラメーションズ パレード-
EXCLAMTIONS PARADE-第1話
「さて、問題です。今夜、CLEANERに捕まらずSHIᗺUY∀の街に作品を展示するには、どうすればいいでしょうか?」
カチ、カチ、カチ、カチ……。
私の前にいる赤毛の美女が、突然クイズを出したと思ったら、口で時間を刻み始めた。
私は、頭をフル回転させて必死に考える。
しかし、答えはまったく出てこない。
CLEANERとは、街の管理者が景観、治安、秩序を守るために雇った掃除のプロで、目の前にいる赤毛の美女をはじめとする『HACHI』と呼ばれるアーティストたちの天敵だ。
HACHIは、自分たちが創った作品を、SHIᗺUY∀の街の様々な場所に展示する。
その多くは違法に展示されたものだが、彼らの作品はみな素晴らしく、多くの人々を虜にしていた。
そんなHACHIの中でもっとも有名なアーティスト集団が、『PROJECT8』である。
絵、スプレーアート、彫像、プロジェクションマッピングなど様々な作品を発表し、人々を魅了し続けている。
私は、ひょんなことから彼らPROJECT8のメンバーと知り合い、交流することになった。
いや、正確に言うと、ただ交流しているだけではない。
「カチ、カチ、カチ、チーン、さあ、答えを教えて、リーダー!」
私は、彼らと出会い、PROJECT8の2代目リーダーになってしまったのだ。
◇
「お兄ちゃんは、ほんと何を考えてたんだろう?」
30分前。
私は高校の授業を終えると、電車を乗り継ぎ、SHIᗺUY∀にやって来た。
繁華街から歩いて10分。
住宅地の狭い路地の突き当りに、その建物はある。
木造2階建て、築50年の
読んで字のごとく、建物は木々に覆われ、正面にある玄関だけが、唯一、木々の中に建物があることを周囲に認知させていた。
森々荘には、下は15歳から上は60歳まで、8人の男女が住んでいる。
仕事もバラバラ、生活時間もバラバラ、好きなものも嫌いなものもバラバラ。
一見、同じボロアパートに住んでいるだけの関係に思えるが、実はそうではなかった。
彼らこそが、PROJECT8の8人のメンバーで、この森々荘は彼らの住居兼アトリとなっている秘密基地だったのだ。
私はアパートに入ると、共同玄関の横にある小さな部屋に入った。
窓ガラスごしに共同玄関を見ることができるその場所は、私のバイト先でもある『管理人室』である。
そう、私はPROJECT8の2代目リーダーであると同時に、森々荘の管理人でもあった。
「全部お兄ちゃんのせいだよ」
管理人室のイスに座り、私は大きな溜め息を吐く。
2代目リーダー兼管理人になって1カ月が過ぎた。
だが、未だにどちらの仕事も不慣れなままだ。
それもこれも、兄のせいである。
兄の繭谷ハレルヤは、良い意味で自由、悪い意味で自分勝手な人間だった。
私よりも7歳年上で、父親のいない私にとっては、兄というより父親代わりのような存在だった。
「いいか、人生まともに生きちゃだめだ。ろくでもないことを常に考えろ。世界を動かすのは、いつも、そんなろくでもない人間たちなんだからな」
兄はそう言うと、いつも決まってガッハッハと笑う。
そんな兄の名言に呆れながらも、私は心のどこかでその言葉に惹かれていた。
そんな兄が、1カ月前に突然死んだ。
飛び降り自殺だった。
死ぬ直前、兄はSNSで、住所とメッセージを私に送ってきた。
彼らのことを頼む。彼らは最後の希望。
その住所の場所こそが、この森々荘で、彼らというのが、ここの住人でありPROJECT8のメンバーたちのことである。
兄が小さなアパートの管理人をしていたことは知っていた。
だが、兄がPROJECT8のリーダーだったことは知らなかった。
兄は私と同じように、アートの才能はない。
私はアートを見るのは好きだけど、兄は興味すらないと思っていた。
そんな兄が8人のメンバーを束ね、PROJECT8を仕切り、SHIᗺUY∀の街に様々な作品を展示していたなんて、今でも想像がつかない。
兄がなぜそんなことをしていたのか、その理由も目的も分からない。
分かっていることは、PROJECT8のメンバーがみな兄のことを慕っていて、亡くなったあと、全員一致で、私を管理人兼2代目リーダーとして指名したことだけだ。
「おはよう。今日も可愛いわね」
管理人室のとなりにある101号室から、ひとりの美女が出て来た。
時刻はすでに夕方。
夕日が窓から差し込み廊下を赤く染めている。
そんな赤色よりも濃く美しく輝く赤髪の持ち主である彼女は、大きくあくびをしながら、管理人室の前にあるイスに腰かけた。
月下フウカ。
PROJECT8のメンバーで、22歳。
兄の恋人だった人だ。
―『EXCLAMTIONS PARADE』第2話へ続く―
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます