SHIᗺUY∀の助手‐前日譚‐

SHIᗺUY∀の助手-前日譚-第1話

SHIᗺUY∀の街でまことしやかに囁かれている噂、知ってる?

SHIᗺUY∀の街中を奥深くまで進んだ先に、一軒の小さなカフェがある。


そこにはHACHIでもCLEANERでもHANDLERでもない、この街唯一の探偵〈DETECTIVE〉がいて、凄腕の助手と一緒にどんな悩みも必ず解決するんだって。


  ***


「──で、噂を真に受けて我々を探し当てたと」


依頼人・サヤは、疑わし気に目の前で深々と溜息をつきながらソファに沈む少女・マイアを見た。一見するとSHIᗺUY∀によくいる、ありふれた若者の一人にしか見えない。

派手な髪や目の色もファッションの延長と思えばそこまで奇抜でもない。


「当たり前でしょ。調査や尾行の依頼が入ったら最も目立たない恰好で動かなきゃいけないんだから。この見た目でスーツなんて着ようものなら逆に目立ってしまう。……フ、間抜けな顔。あなたは顔に全部出るタイプだね。推理するまでもない」


どうやらなにを思っているか顔に全て出てしまっていたらしい。

サヤは気恥ずかしさにパッと両頬をおさえる。

と、そこへサヤとマイアの分の珈琲を入れた男性がカップをサヤの前へと置いた。


年若い男だ。サヤの目には探偵より年上に見える。

人の良さそうな笑みを浮かべる彼が助手になるのだろうか。


「あんまり虐めてやんなよ。……ああ、悪いねお嬢さん。君のご推察通り、俺が助手だよ。探偵のマイアに助手の──黒鉄くろがねだ。よろしく」

「よろしく。私はサヤ。今日はあなたたちに……あるアート群を消してほしくて、依頼に来たの」

「……ふうん? 消す、とは、穏やかじゃないね。見たところ君もHACHIだろうに」


サヤは驚きに目を見開いた。

自分がHACHIだとは彼女たちにまだ一言も告げていなかったからだ。


「私の推理力に驚くのは構わないけど、都度そうも動揺されてたら話が中々進まないから早めに慣れてくれると助かる」


マイアはやれやれと軽く頭を横に振ったのち、黒鉄が淹れた珈琲を口元へ運ぶ。

サヤは気を取り直して話の続きを語り始めた。


「私はあるHACHIのグループに所属しているんだけど、最近、私たちの作品を真似た贋作を出すHACHI集団が現れたの」


話の流れは、こうだ。

元々HACHIには様々なグループがある。

アートの方向性が近い者同士で集まり、より互いを高めあったり連携してCLEANERと戦ったりしていた。


印象派系、モダニズム系、シュルレアリスム系──その系統は多岐に渡る。

サヤはポップアート系グループの一つに所属するHACHIだった。が、最近になりサヤが所属するグループの作品を真似るアートグループが現れる。


サヤを含めたグループメンバーは自分たちの作品を勝手に使用して別のアートを作るそのグループへ激しい怒りを抱くまでにそう時間はかからなかった。


「勝手に使って勝手に継ぎ接ぎにして……作品や作り手である私たちへの冒涜よ。でも彼らは「これもアートだ」の一点張りでまともに取り合わなくて……」

「そのまま悩んでいたタイミングで我々の存在を知ったんだな?」

頷くサヤにマイアは心底嫌そうな顔を見せる。

「自分たちの手は汚したくない。だが真似されるのは嫌だ。ならば他人の手を汚そうと?」

「ち、違うの、戦う選択肢も……私たちも当初は考えていた。でも、相手チームに原色ブルーのHACHIがいるらしくて」


HACHIはアートに目覚めた心から具現化したインクをP-RODピーロッドと呼ばれる武器に取り入れて戦うことが出来る。


その際、力の強さに応じてインクのカラーが変わる。

白が序列最上位、赤、青、黄が二位、緑や紫、橙色等が三位、その他が四位、黒が最下位である。


更にそれぞれ間色も存在しており、簡単にまとめるならば〈HACHIは白に近いほど実力が上〉という形態になっていた。


「君たちのチームの最高ランクカラーは?」

「……青色派生のグリーンが一人。だから、戦闘以外の手段で状況を解決できる人を探していたの。私たちは元々穏健派HACHI中心のグループだったのもあって」

「ははあ、それじゃあ確かに勝てないな」


話を聞いていた黒鉄がちらとマイアを見る。


「原色のブルーとなると、かなり上位だ。結構人が絞れないか?」

「……ン、ンー。いや、力量上げて色変えした可能性も含めると流石に絞り切れないな」

「みんなとも話し合って、本当に探偵がいたら出来る限りの額は出すと話してきました。私たちのアートが無残に切り刻まれる日々にもう耐えられないんです。……どうか、お願いします」


椅子から立ち上がり、深々と頭を下げるサヤにマイアと黒鉄は顔を見合わせる。

黒鉄はマイアの答えを待っているが、その目には柔らかな微笑が滲んでいた。

具体的には彼女が依頼を受けるであろう確信に似た微笑である。


マイアは見透かされているようでなんだか腹が立つと思いながらも顔を正面のサヤに戻した。そして、手を彼女へ差し伸べる。


「いいだろう。その依頼、たしかにこの探偵が引き受けた」



       ―『SHIᗺUY∀の助手-前日譚-』第2話へ続く―

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