第13話 『僕らの』

「おはようございます。今、お店の前に着きました。少し早いですが、お邪魔して宜しいでしょうか?」


画廊のある二階を見上げながら、窓際のカーテンが揺れるのと人影が見えると同時に、コール2回で出た寺本さんは、


『おはよう!丁度君に電話しようと思ってた所だ。すぐに来てくれ。』


「はいっ、すぐに伺います。」


雑居ビルの二階、一階はカフェになっていて三階から上は事務所が入居しているありふれた佇まいの入口を入り、エレベーターではなく階段で上っていく。

壁に並べて飾ってある絵画を見ながらゆっくりと上がるのか楽しみだから。

頻繁に入れ替わるのも、楽しみだったりする。


「「あっ?!」」


踊り場に差しかかった所で、二人で声を上げてしまった。


「……………………これ、もしかして?」


「ん、そうだね、『僕らの』だね。」


「……………………嬉しいっ!」


受験直前に、気晴らしに、由香里をモデルにして描いた水彩画だ。

僕も、素直に嬉しい。

以前、初めてここに飾られた時よりも嬉しかったりする。


階段を登り切り、正面のドアをノックして返事を待たずに開けて、


「寺本さん、僕の作品を飾って頂いてありがとうございます!」


本当なら不合格の不甲斐なさを詫びるところなんだろうけど、嬉しさが上回ってしまったから仕方ないよね?


「おはよう。思ったより元気そうで、安心したぞ。」


「……………………失礼しました、おはようございます。」


「いや、いいんだ。あれを見たんだろう?」


「はい、ありがとうございます!本当に、嬉しいです。」


「まあ、色々話したいことが多いから、由香里さんは掛けたまえ。智恵、コーヒー頼んできてくれるかな?克也君は一緒に取りに着いていってくれないか?」


寺本さんの孫娘の智恵さんに促されて、素直に一階のカフェに二人で降りていった。


態々僕に頼むくらいだから、由香里と何か話したかったんだろうと察したから。

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