第12話 このまま
寺本さんの画廊の最寄り駅の一つ手前で降りて、地下通路を由香里と手を繋いで歩き始めた。
「せっかくだから、もっと一緒に手を繋いで歩き回りたいな?」
そんな、由香里のリクエストにお応えして。
時間は、たっぷり有るから。
「まだ早いから、コーヒーショップにでも…」
言い終わる前に、ギュッと手を握り返されて、
「このまま、歩きたい!」
「ん、わかった。ところで、何で今日はそのバッグなのかな?」
いつもなら、小さめのショルダーバッグを日替わりで持ち歩いているのに、少し大きめな手提げバッグを右手で大事そうに持っていたから、聞いてみた。
「フフッ、内緒っ!」
嬉しそうに答えて、後ろ手にわざとらしく隠すそぶりをしながら、
「ところで、寺本さんは何で私もお呼びしたのかしら?」
「う〜ん?聞いてないんだよね。お願いしたい事と、確認したい事が有るとしか聞いてないんだ。悪い話ではないとは聞いたけど。」
「そっか〜、いい話だと良いね!」
そうなんだ。『いい話』とは、仰らなかったから、少しだけ不安なんだ。
寺本さんのことだから、いつもならはっきりと結論から話されるんだけど、いい話だと期待しておこうと思うんだけど。
信用してるんだけど。
今、悩んでもしょうがない!
脈絡なく思考がグルグルし始めたでところで、由香里に強く手を引かれてよろけて、抱きしめられてしまった。
「駄目!今、変な事考えてたでしょう?」
「……………………何で、わかるんだよ!」
「ん、付き合い、長いし?『深くつきあってるし』誰よりも理解してるしね。」
……………………そうか、『深く』か。
でも、僕は、由香里の事を『深くは知らない』から、理解してないから、不公平だ!
理不尽な思いだということは分かっているけど、僕は由香里の要望や質問には全て答えているけど。
由香里の『身体の事なら』、頭の先から足先まで全て知っているけれど。
駄目だ、おかしな考えが頭の中をグルグルと回り始めるのを振り払って、
「ん、着いたぞ!まだ少し早いから、電話してみるからな。」
寺本さんに呼ばれたのは10時。
今、9時過ぎ。
雑居ビルの二階の看板を見上げながら、携帯電話を開き寺本さんの電話帳を開いて通話ボタンを押した。
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