第11話 それ以外の待ち合わせなんて

朝8時過ぎ。


意外にもぐっすりと眠れて早起きした僕は、特にする事も無いから由香里を迎えに出ていた。

流石に早すぎるだろうから、家の前をそのまま通り過ぎてその先にある喫茶店で時間を潰そうかなと思っていた矢先に、玄関先に佇む由香里に気が付いた。


「………………………………えっ?」


思わず声が出てしまった所で、由香里と目が合った。

これ以上は無いだろうと言うぐらいの、極上の笑顔で手を振りながらこちらに駆けてくる彼女を見つめながら、


「……………………早すぎないか?」


言い終わる前に抱きついてきた彼女を、無意識の内に抱きしめ返してしまっていた。


「克也こそ、早すぎない?あっ、おはようっ!」


「ん、おはよう。」


人目があるので、控えめにとおでこをコツンと合わせてから手を繋いで駅に向かって歩き始めた。


「そのワンピース、似合ってるぞ。」


いつもとは雰囲気が全く違う、清楚系の薄い水色のワンピースという装いだったから、思った通りに伝えてみる。


「克也から先に褒めてくれるなんて、珍しいわね?」


なんか何処かで既視感のあるワンピースで本当に似合ってるなと思ったので、思わず口に出してしまった。


「そんな事無いぞ。何時から待っていたんだ?」


「うん、嬉しくって早く用意しちゃったから、少し前からだよ!」


「本当か?」


「……………………本当は、7時半ぐらいからだよ。」


「そんなに嬉しかったなら、もっと早く来れば良かったかな、寒くないのか?」


「……………………そんな事、無いけど、早く来てくれて嬉しいわよ!克也と一緒なら、寒くないかな。」


繋いだ手を離して、右手に持った薄茶のコートを掲げながら、眩しいニコニコ顔で答えながらその場でクルリとスカートを翻しながら一回り。


「付き合い始めたばかりの、恋人同士みたいだな。」


「うん、そうだね。デートみたいだね!」


手を伸ばして、改めて繋ぎ直しながら、


「どういう風の吹きまわしかな?」


「『このワンピース』を克也に見せたかったんだ。だって、今日は、『慰めてあげる』約束でしょう?」


「あれ?それじゃぁ、いつも通りじゃないかよ!

その前に、寺本さんの『お店』行くからな。」


そう、土曜日はいつもならこのまま駅を通り過ぎて、公園の向こうにあるラブホテル街へと直行なんだよね。

それ以外の待ち合わせなんて、本当に久し振りだな。


チョットだけドキドキしながら、改札を通る為にもう一度手を離してスマホをタッチ操作して、改めて由香里の手を、指を絡めてギュッと握り締めた。

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