第11話
誰も止める間もなく、あっと言う間に馬に飛び乗ると、ユウはザックに向かって言った。
「生きている限り、また出会いはあります。あなたは、あなたを待っている人の所へ帰りなさい」
それから、今度は唖然としている二人の方へ言葉をかける。
「人の心とは、淀みなき川の流れのようなもの。常に流れ、移り変わっていくものです。まあ、気長に待ちなさい。そのうち、私の考えも変わるかもしれませんよ。特に、あなたは性急過ぎるのが欠点です。岩壁に向かってがむしゃらに突き進んでも、一生越えられはしないでしょう。それは真っ直ぐと言うより、単なる馬鹿です。少しは、待つ事も覚えてみてはどうですか?」
ユウの言葉に、ルーフは顔を赤くして唸った。
そんな彼の顔を見下ろしながら、にっこり笑うユウ。そこには、何処か相手の反応を楽しんでいるような様子も窺えた。
「今の所、私は自由を手放す気はありません。それに、あなたのお守り役も御免です。龍を手懐けるより、大変そうですからね」
更に皮肉な調子で言って、馬の腹を蹴る。
「では、機会があればまた会いましょう!」
叫ぶなり、馬は勢いをつけて走り出した。木々の間を抜けて行く馬の後ろを、紅色の毛を靡かせながら、不思議な獣も追って行く。
「糞っ、馬鹿にしやがって」
去り行く人を見つめながら、ルーフが忌ま忌ましく呟いた。
シャリは、軽く笑った後、ユウが去った方向を眩しそうに見つめる。
「全く・・・、不思議な人です。あなた様が太陽の如き方であるのなら、あの方は大地の如き方かもしれません。あなた様は天に在りて光を注ぎ、あの方は地に在りて全てを見届ける。あの方こそ、あなたに足りない物を補ってくれる方かも・・・・。正に、大地の神話の中のラーザとラクレスのように」
ルーフは溜め息を吐いて、ユウの髪の如き紅の空を見上げた。 それから、目を細めて言う。
「・・・だが、天から手を伸ばしても、遠すぎて掴めそうにない」
「御自分を信じるのです。あの方は、本当はルーフ様がお好きなのですよ。ですからきっと、あなた様の真っ直ぐさが光なのだと、充分に分かっている筈です。知ってて、からかっておいでなのでしょう」
シャリの言葉に、ルーフは再び大きな溜め息を吐いた。
「俺だって、本気でユウが嫌いな訳じゃない。ただ、一緒にいると何時も悔しい思いをするんだ。俺の考えは浅はかで、単純なものに思えてしまう。まるで、小さな子供に戻ったような気分になるんだ」
「だからこそ、ユウ殿が必要なのですよ。ユウ殿なら、あなた様の重荷を半分背負う事が出来るでしょう。あなた様が迷った時、相談するに相応しい相手。ユウ殿なら、あなた様には考えつかない事も、平然と出してしまわれる。それは、シャーク様にも出来ないこと。シャーク様は、御自分には出来ないと分かっているからこそ、ユウ殿をあなた様の為に求めておいでなのですよ」
「・・・・確かに、そうかもしれないな。あの人は自分や他人には厳しいけど、私だけには甘い」
ルーフは、苦く笑いながらシャリの肩を叩いた。
「お前がそこまで言うのなら、もう少し頑張ってみるか。ユウは待てと言ったが、冗談じゃない。俺はやはり、俺なのだ。俺のやり方で、絶対にユウを捕まえてやる」
微笑み合って、二人は歩き出した。ユウが消えた方向と同じ道を・・・・。
一人残されたザックは、佇みながらユウの微笑みを胸に刻む。
あの美しい、包み込むような笑顔。
胸の奥がじんじんと痛んだ。知らず知らず、涙が頬を伝う。
少年は、ユウが残していった言葉を、心の中で何度も繰り返した。
—————俺達が、世界を変える日が来る。
何時かその時が来たら、ユウの言葉を思い出そう。あの人が誇りに思うくらい、強い男になるのだ。
胸の痛みは、希望の痛み。
初恋の人が去って、彼は男の顔になった。
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