第7話

 「ユウ殿は、計り知れない御方。先程あなた様が仰った事と、全く逆の話も多く耳にします。あの方を語る噂は、両極端なのですよ。まるで、昔話に出てくる賢者のように。もしかすると私達は、試されているのかもしれませんね」

 「お前達、何者だ?何故ユウを悪く言う。ユウを悪く言う奴は、俺が承知しないぞ!」

 突然割って入って来た声に、二人はぎょっとしてそちらを見た。

 勿論それはザックなのだが、二人は彼の事に全く気付いていなかったようだ。


 「坊主、お前こそ何者だ?」

 「煩い、まずは自分の名を名乗るのが筋だろ」

 「そういうお前こそ、自分の名を名乗るのが筋だろ。尋ねた方から名乗るのが、礼儀って奴だ。礼儀知らずのようだから、教えておいてやるよ」

 銀髪の男は、そう言ってにやっと笑った。

 ザックの顔が、ぱっと赤く染まる。

 「ルーフ様、子供相手に大人気無いですよ」

 横から、苦笑混じりに美女が囁く。

 

 「子供も大人も関係ない。そうだろ、坊主?」

 言った美青年の顔は、何処か楽しそうだ。

 はっきりしたもの言いだが、それには影というものが全くなく、まるで太陽の如き明るさが感じられた。

 「・・・・俺は、ザック。ユウの友達だ」

 言葉に詰まったザックは、渋々と告げた。

 「ザックか・・・・。俺はルーフだ。そしてこっちが、シャリ。俺達は、訳あってユウの助力を願いに来た」


 「ユウは、嫌がっていたじゃないか」

ルーフは顔の前で指を揺らし、ちっちっちっと舌を鳴らした。

 さっきまでの様子は何処へやら、いやに自信満々で答える。

 「女心を分かってないな、ザック。嫌い嫌いも好きのうちってな、ああやって強い抵抗をしているのがその証拠だ。なに、時間の問題さ。俺は、きっと近いうちにユウを口説き落としてみせる」

 ルーフが言った途端、ザックは近くの石を拾い上げて投げつけた。

 彼には、ルーフがユウを連れて行こうとする悪い奴に見えたのだ。


 彼が投げつけた石は、隣にいたシャリの手によって受け止められていた。凄い反射神経だ。シャリは、痛みなど一切見せない様子で、無表情のまま石を投げ捨てた。

 「ルーフ様、そろそろ参りましょう」

 まるで何事もなかったように、シャリがルーフを促す。

 「・・・そうだな、じゃあな坊主。あんまり、乱暴な事はするなよ」


 言いながら、ザックに背を向ける二人。

 歯を食い縛って立っていた彼に、ルーフが去り際に言った。

 「気にするな。ユウの周囲には、何故か人が集まる。だから、こういう事には慣れているのさ」

 その言葉を聞いて、彼は何故だか知らないが、無性に泣きたい気持ちになってしまった。



 それから三日間、ザックは森の方へは行かなかった。

 もしユウが居なかったら、それを確かめるのが怖いのだ。

 彼は、ユウが大好きだった。物知りで楽しい話を沢山知っていて、優しく綺麗なユウ。その大好きなユウが、森からいなくなってしまう。

 想像しただけで、胸が鈍く痛んだ。


 余りに苦しいので、彼はなるべくそれを考えないようにしていた。

 しかし彼は、これから待っている出来事を知らなかった。

 知っていたら、何が何でも森を訪れていただろう。


 彼が学校から帰って見ると、家の側に数人の男達が居た。そいつらは、揃ってみんな薄手の鎧を纏い、腰には立派な剣を携えていた。

 母親が、そいつらの一人と話しをしている。

 ザックは妙な胸騒ぎを感じながら、一際大きな男と話している母の脇を通り過ぎた。


 「ザック」

 彼を、母親が呼び止める。ザックは、何か悪い事でもしたように、おどおどしながらそちらへ顔を回した。

 「何?母さん」

 「お前、赤い髪の女の人を知っているかい?」

 ザックは、はっとして男達を見た。

 直観的に、彼らはユウを捕まえに来たのだと悟る。


 あいつらが言っていたではないか、ユウを狙っている奴が沢山居るのだと。

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