第11話
眉間にシワを寄せてピクピクと眉を痙攣させつつも、心の中で肯定する。
つぅか、あんたと比べたらどんな子だって『モテない』部類に入ると思うけどっ!!
今度はキーッとサルみたいに歯をむき出しにして怒る。
コロコロと変わる私の顔に、エマはプッとふいた。
「モテないから、なんなのよ」
「別に……」
クククッと、まだ笑いをこらえている。
「バーチャル彼氏にしか相手にされないあなたに、ちょっとしたサプライズを用意しましたの」
は……?
キョトンとして、エマを見つめる私。
その、次の瞬間。
急に後ろから口をふさがれ、「うぐっ!!」と、言葉に詰まる。
その力はハンパではなく、必死に手をほどこうとするが、ビクともしない。
すると、エマはすぐ近くにあった使われていない、古ぼけた倉庫の扉をあけた。
さびているのか、ガタガタと音を立てながら扉が開く。
そして――。
その中から姿を見せた4、5人の男たちにギョッと目を見開く。
「うぐぐっ? うぅぅ~っ? ふ~っがっ!?」
(なに? どうするつもり? つ~か誰!?)
「アハハ、何を言ってるのかわからないけど、こんなに沢山の男性を紹介されて嬉しいみたいね」
「ふががっ!!」
(違う!!)
「じゃ、たのしんでね」
そう言い、柄の悪い男どもにウインクし、教室へ戻っていくエマ。
「ふが~っ!! んぐぐぐぐっぐうっ!!」
(待て~っ!! 嘘つき、卑怯者!!)
ジタバタと抵抗する私を、後ろの男は簡単にヒョイッと担ぎ上げ、倉庫の中へと連れ込んだ。
その中は薄暗く、私が放りだされた場所にはマットが引かれていた。
「いやぁっ!」
と、悲鳴を上げるが、すぐに口を塞がれる。
唯一光の差し込んでいた扉は男の手によって閉められ、完全な暗闇が支配する。
やばい……。
冷や汗が背中を伝う。
「あんま、声あげんな」
その声に、ビクッと体を跳ねさせ、カチコチに固まって動けなくなる。
口を塞がれているため、フーッフーッと徐々に鼻息が荒くなってくる。
それに気付いて、口を塞いでいた男はそっと手の力を緩めた。
それと同時に、暗闇のそこら辺から「シーッ」と、私に黙れ、という合図が出る。
な、なに?
わけがわからず、マットの上で1人混乱する。
「あんまうるさいと、エマ、また戻ってくるから」
「へ……?」
だんだん、暗闇に目が慣れてくる。
その場にいる男たちは私に手を出す素振りもみせず、タバコに火をつけたり、携帯電話をいじっていたりする。
どういう事……?
「安心しろよ。俺らだって女1人無理矢理どうこうしようなんて思ってねぇから」
と、私の口を塞いでいた1人が笑って言った。
その顔はほのかな明かりに照らし出される。
見たことのある顔。
たしか、隣のクラスだった気がする。
「ただ、エマの奴お嬢様だからさ、いう事聞いたように見せなきゃ、あんたへのイヤガラセがもっとエスカレートするからさ」
「じゃぁ、もしかして、助けてくれたの?」
そう聞くと、少し恥ずかしそうに鼻の頭をかいた。
なんだかわからないけど――。
よかった……。
この人たちは私に危害を加えない。
そう思うと、気持ちの線がゆるんで不意に涙が浮かんだ。
「ふぇ……」
ポロポロと流れる涙に、男たちは困ったような声を口々に呟く。
「おい、泣くなよ」
「だって……急に口塞がれるしっ……いっぱい男の人出てくるしっ……怖かったんだもん」
思い出しただけでも、全身に鳥肌が立つ。
「悪かったって、な?」
「ほら、飴やるよ」
「なんならタバコでも……すわねぇよな」
なんて言われて、泣き顔のまま笑った。
でも……。
伊藤エマ!!
私は暗闇の中にエマの顔を描き、それをキッと睨みつけた。
エマのチョイスした男たちが偶然『いい人』だからよかったものの、そうじゃなかったら、今頃私はどうなってたの?
そう考えると、胸の奥が沸騰したように怒りで燃える。
絶対、許してなんかやるもんか――!!
散々な目に会わされた私は教室へ戻る元気もなく、トボトボと1人帰路を歩いていた。
いや……。
正確には、2人。
『お前1人じゃ危ないだろ、送るよ』
『別に、大丈夫』
『大丈夫じゃねぇって、ほら、行くぞ』
と、半ば強引に私の腕を引っ張って歩くのは、さっきの男子。
名前を忘れていたが、太陽の下に出てホッとして、ようやく思い出した。
隣のクラスの瀬戸旭(セト アサヒ)だ。
長身でガッチリとした体系。
耳に何個も開いたピアスの穴に、チョコレート色の髪。
ガラが悪そうに見えるが、いろんな友達を持っていることから人柄がうかがえる。
「なんで……」
無言で歩くのが少し苦痛で、私は前を行く瀬戸君に話しかけた。
「なに?」
「なんで、エマは私の事を嫌うのかな」
今まで、エマに嫌われた事なんてかなった。
第一、プリンセス的存在のエマが、私なんか眼中に入れるわけもない。
瀬戸君は一旦立ち止まり、振り返る。
その色素の薄い黒目に、一瞬ドキッとする。
綺麗なんだ……。
瀬戸君をこんな至近距離で見たのは初めてで、綺麗な黒目に釘付けになる。
「エマは、自分の思うように行かないとき、人に八つ当たりする癖があるんだ。本当、迷惑なヤツ」
そう言い、一瞬微笑んで歩き出す。
あ――。
エマの話しになったからだろうか?
その笑顔が妙に優しく見えた。
私はそれについて歩きながら、目の前の大きな背中をボーッと見つめていたのだった……。
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