第51話 真の黒幕の気配

 早速、潜伏型知覚魔法を、篠崎しのざき家の人間に仕込んだ。相手は、篠崎家の家系リストの中から、それぞれ、末端、中堅、中枢に近い人物を選び、各2名ずつ選出する。


 スマートフォンに匿名でメッセージを送った訳だが、メッセージそのものの扱いはどうでもいい。要は、内容を目にして、魔法を埋め込めればそれでいい訳だ。だが、中には匿名のメッセージそのものを警戒して、開かない場合もあろう。


 しかしそこは人生経験の差の見せどころ。送る相手それぞれに、思わず中身を開いてしまうような状況を用意してやった。例えば、退魔庁直々の特殊任務の伝達や、仲間からの匿秘メッセージをよそおったり、着信した直後に強制的に中身を開くプログラムを仕込んだりといった具合である。


 上手いこと、本人にそうと知られずに内通者を用意することに成功した俺は、そこから篠崎家の内情を深く探って行った。おおやけには公開出来ない、不正手段で入手した情報。それは、篠崎家が、外部の何者かの意思を受けて動いていることを示していたのである。


「断言は出来ないけど、草薙家や東雲家も同じような状況だったんだろうな……」


 そこまでして、こちらに喧嘩を売ってくる相手とは誰か。これほど多くの退魔師を、直接的に動かすほどの相手である。退魔業界でもよほどの影響力がないと、こんなことは不可能。自然と候補は絞られてくる。


「ある程度予測していたとは言え、これは結構な大事だぞ?」


 真の黒幕の正体に大よその目星は付いた。あとは、どうやってその相手に尻尾を出させるかである。


 しかし、直接相手を突いても、しらを切られてしまうだけ。当面は篠崎家を相手にすることになるだろう。とりあえず、篠崎家とのお役目のかち合いを実行に移す必要があるので、こちらが相手にする偽の妖を用意するか。


 俺は式紙に調整を加えて、見た目が妖らしくなるよう取り繕う。同時に、こちらの偽のお役目の情報を篠崎家に流し、現場がブッキングするよう整えた。あとは俺と篠崎家とあれこれやっている間に、黒幕が動いてくれることを願うばかり。


 そして、お役目の当日。俺は篠崎家が対応に当たることになっている、妖が出るという河川敷にやって来た。


 まずは離れて様子を窺う。既に篠崎家の人間が妖と戦っていた。今回は春人はるひとではなく、もっと年上の人間である。篠崎家も俺を警戒しているのか。今現場入りしている人物は、明らかに春人よりも実力は上に見える。


「まぁ、相手が誰であれ、やることをやるだけだ」


 俺は篠崎家が妖を倒し切るのを見届けてから、用意しておいた式紙を使って、偽の妖を繰り出した。


 早速、気配に釣られたのか、篠崎家の人間がこちらに気付く。俺はそ知らぬ顔で自身の式紙との戦闘を始め、偶然を装って、徐々に篠崎家との距離を詰めて行った。


 さぁ、篠崎家はどう出るか。


 瞬間。妙な耳鳴りがして、一瞬、気がそちらに持っていかれる。何の術かまではわからないが、これは術式の気配だ。しかも、それはこの日本の術式ではない。何か別の理で発動しているものと見受けられる。


 そして、術が発動したからか、篠崎家の人間は、それに合わせてこちらに突っ込んで来た。手にした刀で斬りつけたのは、偽の妖ではなく俺。もちろん俺はその斬撃をかわしたが、篠崎家の人間の様子が、どこかおかしい。目は虚ろで、意識があるようには見えないのである。まるで本人の意思とは無関係に動いているかのようだ。


「精神支配系の術式か、あるいは遠隔操作系の術式ってところか。どちらにせよ、ろくなもんじゃない」


 俺が仕掛けた潜伏型知覚魔法も大概だが、人間を直接外部から操る術など、まともな精神の持ち主が使うものではない。どこかで俺を捉えているらしい何者かは、よほど俺にご執心のようだ。


「俺の魔法にも感付いてるか? そこを見誤ったら、状況は不利になるぞ……」


 一方的に情報を掴まれていると言うのは、当然いいことではない。なればこそ、ここは術式の逆探知で、相手の素性を暴いてやる他ないだろう。ここで魔法を使ってやれば、相手がこちらの魔法を感知しているのかどうかわかるし、そうでなかったとしても逆探知の結果として、相手の情報を得ることが出来る。


 俺は早速魔法を詠唱し、篠崎家の人間にかけられた術の逆探知を行った。

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