第48話 お役目の監視

 監視チームからの連絡を受け、2人に合流した俺達。どうやら、この日は篠崎しのざき春人はるひとがお役目に出るので、全員で監視しようということらしい。


 この日、篠崎春人に割り当てられたお役目は、都内郊外にある霊園に現れると言う妖の掃討。現場である霊園は敷地が広く、身を隠せる場所も限られているので、2人だけではカバーし切れないと判断したようだ。


 一応、八神家のお役目と被っていないか調べたが、この日は現場が被ってはいない。そう都合よく、欲しい情報が得られる訳もないので、これは致し方ないだろう。


 そういう訳で、合流した俺達は、早速配置についての話し合いを始めた。


「対象から一番近い位置は、巫力隠蔽に長けた私と朝陽あさひ君で行く」


 リーダーである清雫しずくが、意外な判断を下す。


 俺は顔が割れているかも知れないということで後方に回されていたのに、現場まで来て最前列とはどういうことか。


「いいんですか? 確かに巫力を隠すのは得意ですけど……」


 隠していると言うか、元々の保有巫力が少ないだけなのだが、それをこの場で言う必要はない。問題は、先輩である他の男性陣が、納得するかどうか。


「あたしもそれがいいと思う。最前列ってことは、場合によっては妖の攻撃が届く訳だし、その時に巫力を隠したまま行動するなら、八神やつがみはうってつけ」


 しかし、真っ先に声を上げたのは夕菜だった。言われて見れば、彼女の指摘はもっともで、対象と距離が近い分、戦闘の余波に巻き込まれる可能性は大いにある。その時に巫力を使わずに対応するなら、俺の錬気功が最適解。むしろ、一般の退魔師は、こういう場合どうするのかが気になるところだ。


「おいおい。巫力の隠蔽が得意ってだけで、最前列に置くのはどうかと思うぜ? 何かあった時に対応出来なかったらどうする?」


 夕菜の意見に食って掛かったのは、光臣みつおみである。夕菜の意見は、要約すれば俺の方が実力があるという内容なので、先輩として見過ごせないのはもっとも。後輩に負けていると言われて、気分のいい先輩はいないだろう。


「お前が巫力隠蔽を苦手としているのは事実だろう。いい加減、自分の能力ぐらい、きちんと把握してくれ」


 煽る意図はないのだろうが、事実は時に人の逆鱗に触れるもの。清信きよのぶの言葉で沸点を越えたらしい光臣が、すぐさま声を荒げた。


「ああ? んなことたぁわかってんだよ! 巫力の隠蔽よりも重要なことがあるだろっつってんだ!」

「監視しているという事実が明るみに出たら、元も子もないだろ」


 前々から思っていたが、この2人はまるで水と油である。どちらも優れた退魔師であるという点では間違いないのだが、明らかに性格の組み合わせが悪過ぎだ。ほぼ感情論で喋る光臣と、論理的に全てを解釈する清信では、相性が悪いのは当たり前。どうしてこの2人を同じチームに入れたのか、不思議で仕方ない。いや、もしかしたら、それも任務の評価対象なのか。


「はいはい。何度も言うけど喧嘩はなしだよ。チーム内で揉めてるようじゃ、この任務は成功しない。自分の評価を下げたいのならそれでもいいけど、私を巻き込まないで欲しいってのは伝えておくね?」


 声色は穏やかだが、その内にはどれほどの感情を封じているのだろう。吐き出された言葉には、これ以上ない凄みが込められているように感じた。


 流石に、それを受けてまで喧嘩を続ける度胸は、2人にはなかったらしい。お互いにそっぽを向いて自己主張はしつつも、大人しく清雫の言葉に従った。


 そういう訳で、配置としては、俺と清雫が篠崎春人を挟み込む形で最前列。その周囲を夕菜と光臣が固め、残った清信が遊撃的に動く最後方ということになる。いざ任務が始まってしまえば、いがみ合っている場合ではない。妖が関わっているのだから、余計なところに割く集中力はないのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る