第47話 仕事でネットサーフィンはしたくない

 まずは、八神やつがみ家のお役目を妨害したと言われている人物――篠崎しのざき春人はるひとの調査から。退魔庁が管理している、彼の経歴や実績がまとめられたデータを確認するチームと、実際に本人を監視するチームに分かれ、行動を開始。データ確認チームが3人、監視チームが2人の編成だ。


 八神家の人間である俺は顔が割れているかも知れないということで、清雫しずく清信きよのぶとともにデータ確認チームに回される。あまり相性がいいとは言えない夕菜ゆうな光臣みつおみが同じチームになっている点については不安が残るものの、この手の情報を扱うのに、この二人は性格上向いていない。適材適所の結果なのであれば、甘んじて受け入れる他ないだろう。


 「何かあれば即捕縛」という意気込みで監視に向った2人を見送ってから、俺達は退魔庁の庁舎で、大量のファイルとにらめっこを始めた。


 というのも、いくら退魔師が管理されているとは言え、個別にデータがまとめられている訳ではなかったのである。篠崎家に関する数多くの記録の中から、該当する1人のデータを抜粋し、まとめるのが、当面の作業となるだろう。


「篠崎春人。篠崎現当主の弟の長男で、初期巫力測定時の値は18000。幼少時は平凡な能力であったが、その後の鍛錬で急成長。現在の巫力値は126万前後。家督相続権は第4位……か」


 集まった情報を、清信がまとめてくれた。とは言え、巫力120万と言われても、どの程度の実力なのか、俺にはしっくり来ない。俺の父の巫力が1500万オーバーだから、それと比べたら大きく劣っているのだが。


「当主の弟の子として見れば、なかなかの巫力値だ。戦績もいい」

「そうね。よほど真剣に鍛錬を重ねたんでしょう」


 なるほど。一般の五柱の方々には、そう見えるらしい。最近は面倒で巫力を計っていないが、俺の巫力値を見たら、あまりの低さに仰天するはずだ。


「データを参照した限りでは、悪事を働くような人物には見えませんけど……」


 篠崎春人のこれまでのお役目に関する記録、そして八神家の妨害をした際に提出されたと思われる報告書と反省文を見る限り、意図して八神家を貶めるような理由はないように思う。少なくとも書類上では、不運な状況が重なった結果として八神家の妨害になってしまった、いわゆる過失扱い。強いて不審な点を上げるのなら、最初に提示された通り、そのの回数が多いくらいだ。


 数時間かけて調べた結果わかったのは、篠崎家に疑いの余地ありと言う、初期情報を同等の内容。これではスタート地点から全く動いていない。


「流石に、公文書には日頃の素行までは記載されていないからね。書面からの情報収集はこれくらいでいいかな」

「では、次はネットからの情報ですね」


 清信のセリフを聞いて、俺はげんなりした。公文書を漁るだけでこの有様なのである。ネットから情報収集など始めたら、いったいどれだけの時間と手間がかかるのか。


 こんな時、時間魔法で直接、篠崎春人の過去を映し見ることが出来れば早いのだが、もちろんそんなことを人前で出来る訳もない。ここは大人しく、広大なネットの海から、地道に情報をすくい上げて行くしかなかろう。


 そうして、都内の防犯カメラや、本人のSNS、その他様々な場所から情報をさらい、篠崎春人の人となりを調べて行った。気の遠くなるような、地道な作業。適宜てきぎ休憩を挟みながら、俺達はひたすらに情報を集め続け、気が付けば、それだけで数日が経過していた。


 この経験から、俺は決意する。今後退魔師を引退する日が来たとして、その後こういった情報系の仕事には、絶対に就くまいと。

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