第46話 まずは拠点決め

 そもそも、何故篠崎しのざき家に疑惑の目が向けられているのか。それを確認しないことには、話が前に進まない。こうして監視対象になっているのだから、何かしらの理由があるはずだ。


 この辺りは、リーダーである清雫しずくが聞かされているに違いない。俺は彼女に、情報開示を求めた。


天宮あまのみやさん。篠崎家は、どういった理由で監視対象にされているのでしょうか?」


 すると彼女は、「待っていました」とばかりに話し始める。


「きっかけは、篠崎家に属する退魔師の一人が、八神やつがみ家のお役目を妨害したことよ」

「妨害?」


 そんな話は本家から伝わっていない。何かあれば末端まで情報共有をする八神家にしては、珍しいことだ。


「まぁ、妨害と言っても、別のお役目を負っていた篠崎家が偶然同じ現場にいて、それが八神家のお役目を、はからずも邪魔してしまっただけみたい」

「偶然そうなってしまっただけなら、監視対称とするのは行き過ぎな気がしますけど……」

「それが1回だけならね」

「同じようなことが繰り返し起こったと言うことですか?」

「そう。報告が上がっているだけでも、ここ数ヶ月の間で5回。それも、段々と影響も大きくなってたみたい」


 状況としてはあくまで偶然。相手の過失とするには、証拠が足りない。そういうことであれば、こちらまで情報が回って来なかったことにも納得が行く。不確実な情報を広げることは、何よりも混乱をもたらすのだと、俺の父は知っているのだ。


「……つまり、その不確かな嫌疑に、白黒つけるのが俺等の仕事って訳だ」


 言い出したのは光臣みつおみである。一見、監視任務など向かない性格をしているが、善悪をはっきりさせると言う点で、乗り気になっているらしい。


「どちらにせよ、都内に拠点を置く必要がありますね。人数分のホテルを予約しましょうか?」


 清信きよのぶは、早速スマホで、寝泊りするホテルを探し始めている。ちらりと覗いてみると、どれも高級ホテルばかり。虚瀬うつせ家は金回りがいいとは聞いていたが、まさかここまでとは思っていなかった。


「ちょっと待った、清信君。そんなことにお金をかけなくても、都内には拠点にするのに便利な家があるじゃない」


 都内にあって、この人数でも問題なく寝泊りが可能な家。もしかして、八神家うちのことだろうか。


 そう思いながら清雫に視線を送ると、またしてもバチンとウインクをされる。どうやら俺の考えで間違いないらしい。


「ああ~。うちならたぶん大丈夫ですよ? あの家、やたらでかいし、4人くらい増えても問題ないでしょう」

八神やつがみの本家か。他人の家に厄介になるのは、正直気が引けるのだが……」


 清信はあまり乗り気でないようだ。確かに、ホテルと他人の家では、居心地が違うだろうから、気持ちはわからないでもない。


「でも、金銭の出費が多くては、お役目の査定に響くのでは?」

「現地に滞在するのに必要な出費だ。そこまで締め付けは強くない」


 国に管理されている退魔師だ。もちろん給金は国から支給される。そのため、無駄遣いはご法度はっとと言うのが、一応のルールなのだが、話を聞く限り、その辺りはどんぶり勘定と言うか、思っていたよりも緩いらしい。


「俺は飯が食えるならどっちでも構わないぜ?」

「あたしは反対。他人の家とか気まずいし」


 光臣はどっちつかずで、夕菜は反対派。今のところ、賛成派が2人、反対派が2人、そしてどっちつかずが1人。これでは平行線だ。


「どうしますか、天宮さん。これじゃあ話が進みません」


 俺は清雫に助けを求める。こんな時こそ、彼女のカリスマが必要だ。ここはバシッと結論を出して欲しいところである。


「う~ん。反対派を無理やり従わせても角が立つだけだし、ここはホテルにしましょうか。ただし、もっとリーズナブルなホテルにすること」


 そういう訳で、ホテルを拠点とすることに決まった。最初に清信が検索していた価格帯のホテルは全却下。最低限、プライバシーが守られる程度の個室があるホテルに滞在することとなり、この日から、篠崎家の監視の任が始まったのである。

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