第37話 美少女2人に囲まれる日々

 更に年月が経つこと数年。俺達は高校生になった。あれからますますメディアへの露出が増えた天理あまりは、てっきり本土の芸能高校を受験すると思っていたのに、蓋を開けてみれば俺達と同じ高校。お家柄、夕菜が一緒にいることが多いのはわかるとして、何故かそこに天理まで加わっている始末。結果。俺の高校生活は、どういう訳か美少女二人に囲まれてのスタートとなってしまった。


「えっと、近くないか?」

「え~、これくらい友達なら普通だよ~」


 パーソナルスペースの広さには個人差があるとは言え、流石に腕に柔らかなふたつの丘が押し当てられているのを、友達の距離感とは言わないだろう。


 護衛任務が終わって以降、天理は俺に対する敬語をやめている。俺からの敬語も禁止し、距離を一気に詰めてきた時は戸惑いもしたが、彼女のマネージャーの話によれば、彼女が元来こういう人間だとのこと。あの時は妖事件に巻き込まれ、心身ともに疲弊していたし、最初に出会った退魔師が不甲斐なかったことも相まって、人間不信になりかけていたと言う。


「でも、冴杜にはそんなことしないじゃんか」

「え~? そうかな~? 覚えてないな~」


 今となっては始終こんな調子なので、俺としては同じ男子からの視線が痛い訳だ。元々顔もスタイルもいい美少女。その上、世間的にも有名なアイドルである。下手をしなくてもスキャンダルものだと思うのだが、どういう訳か情報誌に掲載されることがない。どこかで誰かしらの影響力が働いているものと思われる。


「お楽しみのところ悪いけど、そろそろ時間よ?」


 逆隣から俺を睨みつける夕菜。彼女がどういう理由で腹を立てているのか。問いただせばむしろ怒りの炎が燃え上がるので、踏み込んではいないが、天理との仲が良好でないと言えば、大体察しはつくだろう。


 今日のこれからの予定は、夕菜の装備のメンテナンスに付き合うことだ。雪乃ゆきのの工房に行き、俺の意見も参考にしつつ調整をおこなってもらうのだとか。


「ああ、悪い。ほら、笹原ささはら。ここからは専門的な話になるから、ここでお別れだ」

「ええ~? ただの道具のメンテナンスでしょ~? そんなの1人で行けばいいじゃ~ん」

「そんな単純な話でもないぞ? 俺と冴杜は仕事上のパートナーなんだから。情報の共有は必要だよ」


 ここは納得してもらわないと、話が前に進まない。イザナギという限られた範囲内とは言え、どこに現れるかわからない妖と戦う上で、夕菜との連携は必要不可欠。分かれて戦うにせよ、一緒に戦うにせよ、相手の手札はわかっていた方が、共同戦線は張りやすい。


 夕菜の心中はともかく、俺としても、ここは彼女について行くべきだと考えている訳だが、さて一緒にいる天理をどうしたものか。


「私は八神君の心のパートナーだも~ん!」

「そんなものになった覚えはない」

「……遊んでないで、さっさと行くわよ」


 何度も説得を試みたのだが、結局、天理を引き剥がすことは出来ず。そうこうしている内に、雪乃の工房に到着してしまった。


 雪乃の工房は、詩音しおんの工房とは真逆で、よく整理されている。以前、詩音にそれを指摘したら「取りやすいところに道具を置いているだけだ」と反論されたが、端から見たら、道具が散乱しているようにしか見えない。職人としての腕はいいのであまり強くは言わないが、個人的にはもう少し整理するということを覚えて欲しいところだ。


「ここが例の工房なんだ~。こういうところ初めて見た~」


 も当然のようについて来てしまった天理が、工房内を見渡して言う。とりあえず、詩音の工房でなかったことを良しとするべきか。


 しかし、雪乃に天理のことを何と説明しよう。元護衛対象とは言え、今はただのクラスメイト。秘匿情報の宝庫である工房につれて来ると言うのは、やはりよくないことだ。


 とは言え、ここに来るまでで別れられなかった時点で、俺達の敗北。ここは余計なことをしないよう、よく言い含めて、大人しくさせておくしかないか。

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