第30話 始まった新学期
そういう訳で、進級と同時に、俺達の学年に転校生が来ることとなる。その名は
配属されたクラスは、俺と夕菜と同じ2年2組。テレビ出演も多い超人気アイドルと同じクラスともなれば、クラスメイト達のはしゃぎ様は察してもらえるだろうか。
俺と夕菜が退魔師であることは、今や周知の事実。最初こそ物珍しさから話しかけてくる生徒も多かったが、時が経つに連れ、珍しいくらいメイトという印象は、化物と戦っているやばい奴等という認識にとって変わられ、今では近づいて来ようともしない。
そんな俺達と、誰もが知るアイドルが始終一緒にいるのだから、大体の事情は、みな察したことだろう。短時間の休み時間はともかく、昼休みや放課後に天理に話しかけて来る生徒は、ほとんどいなかった。
放課後。天理を住まいに送り届けるため、先に荷物をまとめて、席を立つ。すると彼女は、クラスメイト達との会話を笑顔で切り上げ、俺達に同行した。
「それにしても、普段は随分猫被ってるのね?」
言い出したのは夕菜である。
確かに、天理は学校ではえらく人当たりがよかった。初めて俺達と顔合わせした時とは大違い。常に笑顔を振り撒き、ハキハキと受け答えをする
「そりゃ~、ファンのみんなを相手にしてるんだから、ちゃんとするに決まってるでしょ~」
オンとオフの差が激しいと言うか。学校で見せていた笑顔はどこへやら。あんなにぱっちりと開いていた目は、いつの間にかジト目になり、口調も間延びしている。
「別にファンと同じように扱ってくれとは言いませんけど、もう少し信用してくれてもよくないですか?」
彼女の傍らには、別口で雇ったと言う警護職員が2人。男女の組み合わせだが、こちらは成人。見たところ拳銃で武装している様子だが、妖に一般の銃火器は効かないので、にぎやかし以上の枠にはならない。むしろ、守らなければならない対象が増えている分、俺達の負担が増えただけだ。
「いざという時になって、あなた達が役に立つのか、私にはわからないので~」
聞けば、彼等は何たらセキュリティーサービスとかいう、その筋では有名な警備会社の人間らしい。担当が俺と夕菜であることに不満を持った天理が、所属のプロダクションを通じて、退魔庁に人員強化を掛け合ったものの、これ以上の人員は避けないとの回答を受けたことで、今に至るとのこと。それで彼女の気が済むならと退魔庁側は受け入れたらしいが、現場の負担も考えて欲しいところだ。
「……こんな連中、何人いたって邪魔なだけなのに」
「おい、冴杜。あんまり波風を立ててくれるな。あの人達だって仕事で来てるんだから。そんな言い方されたら、いい気はしないだろ?」
向こうからすれば、こちらは子どもが2人。妖に遭遇したことがない人間からすれば、何を持って俺達が護衛職に就いているのか、想像もつかないだろう。
出来れば、早々に俺達の有用性を認識して、彼等を安全圏に送り返してあげて欲しいものだが、それはつまり、妖の襲撃が起こるということなので、それを望むというのもおかしな話。妖の襲撃など、ないに越したことはないのだから。
「そう言えば、具体的にはどんな妖被害に遭って来られたのでしょう? 差し支えなければ、お答えいただけると助かるのですが」
相手のトラウマを踏み抜く訳にも行かないので、予防線は張って置く。妖の種類の特定まで行かなくとも、どのようなことが起こったのかだけでも知ることが出来れば、対処するにも方針が立てやすい。
俺が尋ねた途端、天理の顔色が悪くなる。恐らく過去の妖被害を思い起こしたからだろう。それでも、出来ることならば語ってもらいたい。俺達が護衛では不安だという根拠が、そこにあるのだから。
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