第3章 波乱だらけの少年期②

第28話 いまだ続くイザナギでの生活

 任務が終わったから「はい、帰宅!」と言う訳にはいかず、あれからも俺達はイザナギで生活をしている。


 あれから数年。調査は進展し、ついに今回の黒幕と思われる家を割り出すまでに至った。調査自体は国がおこなったということで、俺達退魔師には何のお触れも出ていない。


 結局、五柱の座を狙い、俺達にちょっかいをかけていた退魔師の家系――草薙くさなぎ家は、国家にあだを成したとして粛清しゅくせい。当主死刑の後、お家は解体され、残った血族も国の厳重監視対象になったらしい。もちろん、これで全てが片付いたとは思っていないが、ともあれ、中学生になった俺と夕菜は、時折自然発生する妖を退治しつつ、それなりに充実した日々を送っていた。


詩音しおんさん、いつものメンテ、お願いします」

「はいよ~」


 この日は放課後に夕菜とともに、工房を訪れ、先日の妖退治で消耗した装備一式のメンテナンスをお願いしている。どちらかがメンテナンスで動けなくても、妖の発生に即応出来るよう、メンテナンスの時間はずらしているのだ。そして、今は俺の番。これが終われば、今度は夕菜の番となる。


「一回のお勤めでの消耗もだいぶ少なくなって来たね。道具を上手く扱えてる証拠だ」

「あ、詩音さん。こいつの場合はそういうの当てになんないよ。こいつってば、いっつも術式で済ませるから、装備なんてほとんど使ってない」


 夕菜が余計なことを暴露してくれていた。確かに、刀で斬るより術で吹き飛ばした方が速いから、そうしがちなことは認めるが、決して手を抜いている訳ではない。ちゃんと周囲に配慮して、刀を使うこともある。


「なるほどね。まぁ、そんなこったろうとは思っていたけど」


 刀のメンテナンスをしながら、詩音はこちらに手招きをする。これはよくない前兆だ。


 とは言え、彼女に逆らえるほど、俺の立場は上ではない。仕方なく詩音に近寄ると、脳天に重たい拳骨を一発いただいた。


「痛ぇ~し」

「そりゃ、痛くなるように殴ったんだから、当然だ」


 教育から体罰なんてなくなって久しいのに、詩音にとってはいまだに現役らしい。俺は自分に使えるものを存分に生かしているだけだというのに、どうして怒られなければならないのか。


「あんまり得体の知れない能力を使うんじゃないよ。あんまり奇妙な力に手を出し続けていると、こっちだって、そのうち庇いきれなくなる」

「何のことだかさっぱりだ」


 流石は、こと技術面でひいでた詩音と言ったところ。俺の術式が巫力に依存したものでないことを見破りつつある。とは言え、それを打ち明けるつもりは更々ないので、誤魔化し続けるしかないのだが。


「……まぁ、お前さんのことだから、方々に気を付けてはいるんだろうけど。時々こっちの探知範囲から消えるのは勘弁して欲しいぜ」

「別に避けてる訳じゃない。こっちが術を使う時にいろいろ干渉して、普通の術式が不安定になるだけだよ」

「どっちにしても、あんたのせいじゃないのよ」


 夕菜にまで突っ込まれると、立つ瀬がない。家のことを気にして、あまり深く踏み込んでは来ないものの、このまま行って不信がられるのだけは避けたいところ。せっかく出来た、気心の知れた友人だ。このまま疎遠になる、ということにはしたくない。


 とは言え、俺に巫力がない以上、術式の発動に魔力は必要不可欠。錬気功だって、今までに散々世話になっているのだから、今更やめるつもりはない。それを隠したままやって行くには、もう少し配慮が必要ということか。


 そういう訳で、俺は術式の更なる改良につとめることにする。目標は、魔力の存在を悟られないための偽装を完璧にすること。多少の巫力の消耗には目をつぶり、少なくとも巫力を使った術式であると、周囲に誤認してもらえるよう徹底しなければ。

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