第27話 久しぶりの全力

 別空間へと隔離された妖達の間で混乱が起こる。世界単位で座標がずれたことで、一時的に敵の操作から外れたからだろう。しかし、今回は妖を操っていると思われる術者も効果範囲に入れているので、その内立て直しを計ってくるはずだ。


 だが、そんな時間を与えてやるほど、俺は甘くない。邪魔な妖にはさっさと消えてもらうのが当然として、残った人間には聞かなければならないことが山ほどある。どうせ、本土の方でもろくなことをしていない連中なのだろうから、これを機に素性を明らかにして、世間からご退場いただくのが、今後の俺の人生計画的にも都合がいい。


「そういう訳だから、さっさと消えてくれ」


 俺は印を結んで、超広域術式を展開した。通常空間では使い道のない、大量破壊術式。現物を知らないので比較は難しいが、恐らく最新式の核兵器にも劣らないレベルの一撃を、俺は妖の大軍に向けて放つ。まとめて蒸発してもらっては困るので、一緒のこの空間に取り込んだ人間には、対応した防御術式を付与してやった。


「超広域破壊術式・不知火しらぬい


 俺が指を鳴らして術式を開放すると、蠢く妖達のほぼ中央の地点に、一転の光がともる。そして次の瞬間。その光、星のまたたきのような光をまといながら爆ぜ、その範囲を一気に拡大させた。俺が作り出した空間を、ほぼ飲み込み尽くすほどに膨張した光は、触れたもの全てを瞬時に蒸発させ、無へとかえして行く。数秒後に光が消えた頃には、そこには何も残ってはいなかった。


 半球状に窪んだ地形が、この術式の威力を物語っている。爆音も、衝撃波もない。ただそこに発生した光が、全てを飲み込み、そして消し去ったのだ。


 使うために、わざわざ別空間を用意しないといけないのだから使用効率はめっぽう悪いが、不特定多数の敵を相手にするのなら、これが一番手っ取り早い。元々は、主に防衛線でお世話になってきた極大魔法だが、この日本でも、それなりに役立ちそうだ。


「実戦では久しぶりに使ったけど、やっぱ魔力の消費は激しいな。今の魔力量だと、せいぜい2、3日に一回使えるかどうか、か」


 破壊魔法を撃つだけなら、地面は必要ないので、その分魔力の削減は出来たのだが、今回に限ってはあとに残った人間がいる。多少条件を整えてやらないと、俺以外の人間はこの空間では生命を維持出来ないので、こうして余分に魔力を消耗してやった訳だが。


「さて、それじゃあ質問タイムと行きましょうか」


 俺は適当に近場の地面に降り立ち、残しておいた人間達を集めて、その場に転がす。相手の人数は全部で10名。これほどの少人数で、よくあの数の妖を操っていたものだ。


「で、リーダーは誰? 流石にまとめ役がいるでしょ?」


 言いつつ、相手を見渡していると、一人の男性と目が合う。鋭い眼光。鍛えられた肉体。そして卓越した巫力。周りと比べても、頭一つ抜きん出ている実力者。どうやら、彼が今回の現場リーダーと見て間違いないだろう。


「一応聞くけど、目的は教えてもらえる?」

「……お前、本当に八神やつがみ朝陽あさひか?」


 どうやら、今の一撃を見て、俺が本物の八神朝陽なのかを疑問に思ったらしい。無理もないか。一般的な情報では、俺は父親から巫力を受け継ぐことの出来なかった能無しのはずなのである。それがあれほどの術を発動させて見せたのだから、替え玉と疑われるのは当然と言えた。


「今、そこ重要? 八神家にケンカを売った時点で、俺が本物の八神朝陽かどうかなんて、些細な問題でしょ?」

「いいや。本物であってくれなければ困る。少なくとも、我々にとっては、な」


 大した威勢だが、力の差は歴然。人を痛めつけて喜ぶ趣味はないので、ここは手短に済ませたいところだ。


「我々って言うのは、あんた達だけのこと? それとも裏で糸を引いている誰かも含まれる?」

「話す義理はない」

「……まぁ、そうだよね」


 恐らく無理に聞き出そうとすれば、その場で自決するくらいのことはするだろう。それほど自分の命に執着があるように見えない。


「それじゃあ、自分から話したくなるようにしようか」

「拷問でもする気か? 無駄だ。真実を話すくらいなら、我々は自決を選――」

「そうはさせないよ」


 既に精神支配の術式は構築済み。相手に気付かれないよう、言葉や視線、仕草の中に織り交ぜてある。まったく。この日本で術式の研究をした甲斐があった。これほどまでに巧妙な術式の隠蔽を習得することが出来たのだから。


 相手の目から光が消える。もちろん、目の前の男性だけでなく、周りにいる人間全員だ。


「それじゃあ、話してもらおうか。あんた達の目的と、後ろで糸を引いてる連中の計画を全部。わかるところまででいいよ? 下手に地雷踏んで、向こうの隠蔽術式に引っかかっても面白くないし」


 そういう訳で。俺は彼等から、イザナギ襲撃の意図や、背後にいる人物の情報を大まかに聞きだすことに成功。やはり、彼等は全員、とある退魔師一族のおさの隠し子で、環境的に本家に従わざるを得ない状況であったようだ。であれば、彼等もまた被害者のようなもの。殺してしまうのは人情に反する。


 俺は彼等を八神の本家で匿うことにして、精神支配はそのままに、彼等を密かに本土へと送ることに。こうして、イザナギにおける妖の大量発生は沈静化し、俺と夕菜は、晴れて任を終了する運びとなったのであった。

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