第24話 共同戦線②

 次の現場は、駅の地下街。入り組んだ迷路のような通路は、死角も多く、戦いに向いているとは言えない。付きまとっている刺客の様子も気になるし、戦いにばかり集中も出来ないのである。


 最初に見つけた3体の猿型の妖を、霧化する前に一刀で斬り伏せ、夕菜の進路を確保した。俺が開いたスペースを通り、夕菜はその先にいる妖の群れに渾身の突き技を放つ。巫力による螺旋を伴ったそれは、凄まじい突破力で妖の群れを一掃して見せた。こと突貫力においては、俺よりも彼女の方が上だろう。


「あたしは先に進むから、撃ち漏らしは任せた!」

「おう!」


 突貫力重視の大技は、効果範囲こそ広いものの、中心と外円部で威力が異なるのがつね。当然、一撃では撃ち漏らしも出てしまうが、そこは役割分担のしどころだ。


 俺は残った妖を瞬時に捕捉して、個別に術を放ち、片付ける。わざわざ刀が届く範囲まで近づいている場合ではない。まだまだ先は長いのだから、妖の掃討も円滑におこなわなければ。


 今まで散々積み重ねて来た、鍛錬の成果を見せる時。分割思考からの、全方位同時索敵と、捕捉、迎撃を平行しておこなう。各術に追尾性能を付加してやれば、俺は固定砲台に徹することが可能。夕菜の動きを邪魔しないよう配慮しつつ、こちらはこちらで妖を多く、手早く祓っていった。


「……やっぱり一緒に行動しなくてもよくない?」


 そんな俺の様子を見かねて、夕菜がそう言い出すが、これはそもそも敵を炙り出すための方策。あえて戦力を集中させることで、相手の危機感を煽り、焦って尻尾を出すのを待つのである。


「いいや。これでいい」


 高機動かつ繊細な戦闘スタイルの夕菜と、高火力無限弾頭スタイルの俺。いくら手駒の多い相手とて、無限に妖を配置出来るはずもないのだから、こうしてローラー作戦的に手駒を減らしていけば、いつかは頭打ちになる。


 個別の戦闘データだって、ただでくれてやるつもりはない。存分な損害とともに、僅かながらのデータが拾える程度にしてやるのが、この手の相手にはよく効くのだ。


 問題なのは、相手の手駒が、現時点でどれほどなのかがわからないところ。いつかは終わるにしても、期間が長ければそれだけ被害は大きくなる。今回の騒動だって、メディアが大きく取り上げるだろうし、そうなれば、退魔師はより活発に活動せざるを得なくなる訳で。


「これでいいって……。今のままじゃ全部の現場を回るのに時間がかかり過ぎる。一般人に被害が出ちゃったら元も子もないのに――」

「一般人を襲うことが目的なら、とっくにこの島は無人島になってるよ」


 実際、それくらいの数の妖が、この人工浮島には出現している。だが、どの妖も、俺達が現着するまで大した行動はしていないし、目撃例に対して被害者も少ない。その被害者と言うのも、積極的に襲われたと言うより、「妖を目撃したことでパニックになり、転んで怪我をした」などのケースばかりだ。


 明らかに退魔師に対する挑発。まるで「何とかして見せろ」と言わんばかりである。この島に派遣されている退魔師が俺達五柱の人間だと言うことは、同じ退魔師には知られているだろうし、今後の相手の出かた次第では、敵が退魔師だという説を裏付ける証拠足り得るだろう。


「大丈夫だ。平行して、他の現場の情報収集もしてるけど、今のところ被害者は出てない。猶予はないけど、切迫もしてないくらいだよ」

「……ほんと、あんたって抜け目ないわよ、ね!」


 夕菜が目の前の妖を一突きにして、この現場の妖掃討は終了。また次の現場への移動の時間だ。


「式神とスマホアプリの連携だっけ?」

「ああ。AIエーアイも活用すれば、その分、労力も減るしな」

「研究してる人間はいたって話だけど、実用化して見せたのはあんたが初めてよ? どういう脳みそしてる訳?」

「それは個人情報保護の観点から、お答えは致しかねるな」

「……まぁ、いいわよ。あたしだって楽が出来るなら、その方がいいし」


 そういう訳で、一呼吸置く時間を設けてから、俺達は地上を目指し、次の現場に向けての疾走を開始。残る現場は、後3つ。そろそろ相手も何か仕掛けてくるだろうと予想はしているが、果たして結果がどう出るか。


 刺客2人もちゃんと付いて来ていることを確認しつつ、俺は夕菜の少しうしろを、全力で走る。その内、島内の移動用に転移術式でも組んでしまおうかと、術式を模索しながらの移動は、存外ぞんがい有意義で、かつて異世界で堪能した充足感が、また蘇って来るように感じた。

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