第23話 共同戦線

 次の妖の出現は、それからすぐのこと。ある日の放課後のことだった。


 例によって複数個所に同時に妖が現れたのだが、事前に話し合った通り、俺と夕菜は揃って現場に向う。現場は全部で5箇所。まとまって回るのは効率が悪いが、これも裏にいるかも知れない何者かを炙り出すため。その分、1箇所にかける時間を削ればいい話である。


 最初に向った現場は、島の方々を結ぶ電車の駅に面した繁華街。周囲にはまだ逃げ遅れた人が多く、大技は使えない。


「支援任せた!」


 そう言って、敵陣に突っ込んで行く夕菜。嫌がっていた割には思い切りのいい行動だ。となれば、その信頼には答えねばらるまい。


「ああ! 思いっきりやってやれ!」


 俺は印を結んで妖の動きを封じる術式を発動させつつ、夕菜の後に続く。


 先に接敵した夕菜は、鋭い槍の一撃で、まとめて3対の猿型の妖を薙ぎ払った。幼年期に比べ、体力が付いた分、速さも威力も格段に上がっている。技の冴えはもちろんあるが、多少強引にでも押し切るだけの筋力がついたのだろう。最早霧化する暇すら与えない。大胆かつ繊細。それが今の彼女の技を表現するのに最も適していると言えた。


 これは負けていられないと、俺は術によって動きの止まった5体の狼型の妖の首を、続け様にねる。相手が生物なら、斬り口から血液が噴出しただろうが、相手は妖。斬り口から噴き出すのは血ではなく、黒いもやだ。


 斬り払われた妖は、すぐに形を保てなくなり、全身が黒い靄となって消えて行く。後に何も残らない辺りを見るに、異世界におけるモンスター達とは、根底として存在が異なっているのだろう。今までに散々倒してきたものの、その正体には今一辿り着けている気がしなかった。


八神やつがみ!」


 名前を呼ばれただけで、夕菜の意図を察し、俺は近くにいた避難民の周囲に防御結界を張る。すると、一瞬遅れて、夕菜の巫力を使った範囲攻撃が炸裂。近辺にいた妖を一掃した。


 周囲の安全を確認してから、俺は防御結界を解き、避難民を誘導する。


「これを持って、出来るだけ遠くへ。退路はこちらで確保しますので」


 俺は破魔の術式を付与したお札を渡し、背に庇うようにして妖の前に立ち塞がった。


 まだ子どもの俺がその場に残ることに戸惑いを感じている様子の避難民だが、この場に残られても正直邪魔でしかない。流石に「邪魔だ!」と邪険に扱う訳にも行かないので、代わりに「俺なら大丈夫。訓練を受けてますから」と付け加えて、さっさと妖に斬りかかった。


 結局、この現場では20分ほどの時間を要して、全30体の妖を掃討。周囲の建物にも住民にも、大した被害は出ていないので、そう時間はかからないうちに復興するだろう。力のチューニングの精度は上々と言えた。


「何やってんの! さっさと次ぎ行くわよ!」

「わかってるよ!」


 周囲の気配を改めて探知して、不審な行動をしている者がいないか確かめる。明らかに避難民でない気配が2つ。付かず離れずで、俺達に付いて来ていた。


 まさか俺に探知されているとは、向こうは考えてもいないだろう。俺の探知結界は薄くても強力だ。その存在を感知出来ないほど微弱に張り巡らされていても、精度は一級品。三次元的に展開された結界は、その気になれば、触れた者の性別や大体の背格好くらいなら把握することが出来る。


 付きまとってくる気配の主は、男女の2人組み。大した武装はしていないようなので、直接的な戦闘員ではないのだろう。何かを仕掛けてくる様子もない。が、すぐ近くに数体の妖を連れているのがわかる。正体まではわからないが、黒幕に通じる一味であるのは間違いなさそうだ。


「……何か考えごと?」

「ああ。このまま妖の発生が増えるようなら、流石に応援を呼ばないとならないな~って」


 夕菜には、まだ話さない。彼女のことだから、それを知ればすぐにでも取り押さえにかかるだろう。しかし、もう少し泳がせて、決定的な現場を押さえた方が、根本から叩くことが出来るというもの。どうせなら一網打尽にしたいので、ここは様子見を選ぶのがいい。


「……やっぱり大人がいた方がいいのかな?」

「そりゃ、俺達とは錬度も経験値も違うしな。状況がはっきりしてない時ほど、そういった大人の存在がありがたいものだよ」


 手柄を立てたい訳ではない俺にとっては、任せられるところは任せたいというのが本心である。目指すのは唯一無二の英雄ではなく、あくまで替えが効く人材であることだ。


 今は夕菜の引き盾役くらいでいるのが丁度いい。いずれ大成するであろう彼女の元タッグパートナーと言う肩書きがあれば、一線を退いたとしても名の通りがよくなると言うものである。


 そんなことを考えつつ、俺は夕菜とともに次の現場に向った。

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