第21話 ちらつく何者かの意図

 夏休みが明け、児童交換就学体験制度が正式に稼動し始めてから4年。俺と夕菜は、いまだにイザナギの学校に通っている。


 イザナギでの妖の出現率は増える一方。その上、本土での妖の被害も広がって来ていると言う。五柱を筆頭とした全国の退魔師達が目まぐるしく働いてなお、討伐が追いつかない状況に陥りつつあった。


 本土から交代人員が来ない以上、イザナギの防衛は俺達がになう他ない。最初は2人揃って同じ現場に向うことが多かったが、最近では手分けをして別々の現場に向うことも多くなっているのだから、これは非常にまずい状況と言える。


「流石に、これ以上の数で来られたら、力を抑えてる場合じゃなくなるんだけど……」


 広域術式で数を減らしてから、残りを各個撃破するスタイルの俺からすれば、最初の一撃に込める威力を抑えつつ、範囲だけ拡大させるという難題をこなし続けて来た訳だが。それもそろそろ頭打ちと言ったところ。まるでこちらのスタイルに対応して来ているかのように編成が変わって行く妖の群れの数は、今では100や200は当たり前。しかも、比較的強力な個体の比率も増え、俺の術式に耐える者も多くなって来た。


 夕菜の方はと言えば、数はそれほどでもないが、一体一体が強力になり、倒し切るのに苦労するとのこと。もちろん彼女自身の腕も上がっているので、余力はあると言うが、それにしても限界はあろう。このままでは破綻する未来しか見えない。


「いい加減、イザナギの心配をしているばっかりでもいられないのよね。あたしの方だって、そろそろ技の余波で、道路や建物が傷付き始めてるし」


 そう言う夕菜は、年齢的に二次性徴期に入ったのか、子ども体系から少しずつ女性らしい体系になりつつある。伸びた髪をハーフアップにしている辺り、オシャレにも気を使うようになったようだ。幼年期の頃から、将来は美人にあるとは思っていたが、予想通り、今では男子生徒達の注目を一手に集める、学校のアイドル的存在になるまでに至っている。


 身体の成長に関しては、男子の方が二次性徴期に入るのが遅いので、そろそろ身長が夕菜に抜かれそうだった。抜かれたところで俺としては何も思うところはないのだが、ここぞとばかりに夕菜からいじり倒される可能性があるので、早いところこちらも二次性徴期に入りたいところである。


「やっぱり、一緒に行動するか? 効率よりも安全の方が大事だろ」

「それだと取り逃す妖も出てくるかも知れないじゃない」

「それはそうだけど、俺としては、お前も守るべき人間の範囲内なんだ。退魔師だからって、消耗品扱いされていい訳はないからな」


 すると、夕菜は少し顔を背けて、こう言う。


「あんたは心配性過ぎるのよ。あたしよりも弱いくせに、いっちょ前なこと言うんじゃない」


 顔色までは窺えないが、少なくとも耳は赤くなっているように見えた。


 確かに、表向きはそういうことになっているのだから、彼女の言うことはもっともかも知れない。しかし、真実は別。肉体が成長し切るまでは実戦では使うつもりはないものの、俺は既に過去に使えた技をほとんどを、再現可能になっている。あくまでこの日本用にチューニングした範囲内で力を行使しているのであって、その気になれば、妖だけに限定して攻撃を加えることなど容易い。この日本にそういった技術がないから、使っていないだけである。


「……もし、お前に言っていない隠された力が俺にはあるって言ったら、どうする?」

「……あんたなら、本当にそういうことがありそうで、少し怖いわ」


 言ってから、表情を引き締めて、俺の方に向き直る夕菜。何やら物申したに振舞う彼女の様子に、俺も居住まいを正す。


「あんた、薄々感付いてるんでしょう? 妖の動きがおかしい理由に」


 どうやら冗談や冷やかしの類ではなさそうだ。彼女は欲している。今回の任務における妖達の異常な行動の訳を。


「基本的に別種類の妖が行動をともにすることはないって言うのに、ここに来てからはそんなことばっかり。それに、まるでこっちの戦力を測るように、ギリギリ対応出来るくらいに揃えられた、妖の数と強さ。こんなことが毎回続くのは、流石にありえないでしょ」


 俺だって確証がある訳ではない。しかし、俺には妖を操る謎の存在がいるという情報がある。それを踏まえれば、今回のイザナギでの一連の妖の行動は、人為的に起こされたものだと考えるのが、一番自然と言えた。


「それを俺が答えたとして、お前はどうするつもりなんだ?」

「決まってるでしょ。元凶があるなら、それを見つけ出して叩く」


 夕菜の目は本気である。俺がそれっぽいことを口にするだけで、彼女は弾丸の如く、即座に行動を開始するだろう。それが例え、間違った情報だったとしても。


 真っ直ぐであることは彼女の利点だが、同時に弱点でもある。相手が策を巡らせるようなタイプだった場合、間違った情報に踊らされて自滅してしまう可能性すらあるのだから、言葉は選ばなくてはならない。


 俺はそれを念頭に置いた上で、彼女にこう言った。

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