第20話 任務初戦
今回の任務における初戦は、思いの他、早く訪れる。
島に来て一週間。そろそろ夏休みも終盤に差し掛かり、寮生達がちらほらと帰省から戻って来た頃。この一週間で島の随所に張り巡らせた探知結界に、妖の反応があったのだ。
すぐさま詩音に連絡をして、車を出してもらう。今回妖の反応があったのは、俺達がこの島に来た時に使った港とは反対側。太平洋に面したメガフロートの
反応の仕方から察するに、強力な妖がいる感じではないものの、それなりに数がいるのだと思われる。物量とは力。数の暴力という言葉があるくらいなので、油断は大敵。今の俺と夕菜の実力なら、大抵の妖は退けられるだろうが、長期戦になれば数で劣るこちらが不利になる。どれだけ短時間で敵の正確な数を把握し、そして駆逐出来るかの勝負と言えよう。
現地に到着とともに車を降り、詩音と雪乃にはそのまま距離を取ってもらった。彼女達はあくまでサポート要員。戦力ではないのだから当然である。もちろん最低限の戦闘訓練は受けているので、一般人に比べれば、妖相手でも生き残れる可能性は高い訳だが。
まだ妖を目視はしていないものの、気配から複数に異なる種類の妖が集団を作っている様子。根源の異なる妖同士は群れを作らないと言うのが、この日本の退魔師の間での常識なのだが、今回はその例に反するらしい。
妖の姿を目視出来る距離まで近づき、物陰から様子を窺う。そこには形態の異なる無数の妖が、何をするでもなく、ただ集まって
「……どう見る?」
「どうもこうも、見たまんまじゃない? 陽動と言うには稚拙が過ぎる。深読みが必要なほど、真っ当な知性はないと思うけど?」
相手の容姿を見れば、彼女がそう考えたのも無理はないと思う。今回現れた妖は、
五行における相性で言えば、『
「それじゃあ。とりあえず、広域術式の準備をするから、時間を稼いでくれ」
「……何で当たり前みたいに
「お前の得意術式は、広域展開には向かないだろ? 手っ取り早くことを終わらせるなら、こっちの方がいい」
「……まったく。仕方ないわね!」
ため息を吐きつつ、夕菜が槍を手に物陰から躍り出て、妖の集団に突進をかけた。彼女が得意とするのは、槍を媒体とした、高密度かつ局所的な術式の展開である。単体相手においては無類の強さを発揮する術式だが、多数相手には幾分部が悪いと言わざるを得ない。
せっかく2人での任務なのだから、協力した方がいいのは当然。自身が目立ち過ぎて英雄扱いされたくない俺からすれば、彼女との共闘はいい隠れ蓑だ。俺の術で妖を適度に弱らせ、とどめは夕菜に任せることで、彼女は望んだ名声を、俺は名脇役としての地位を得ることが出来るのだから、ウィンウィンの関係と言えるだろう。
夕菜が前衛として妖を引き付けている間に、俺は印を結んで術式の準備をする。今のところ、妖達に妙な連携は見られない。各個がバラバラに夕菜に攻撃に対処している。いったい何のために、どのような方法でここに集まったのか。不明なことばかりだが、行動の指標がない分、集団としての危険度は、それほど高くはない。
「今だ、引け!」
術式が組みあがった段階で、俺は夕菜に合図を出して、その場から退避させる。そして、がら空きになった妖の群れに、特大の土属性術式を叩き込んでやった。
魔法で言うなら上級魔法程度の威力。あくまで弱らせることが目的だったので、これでも威力を抑えたつもりだった。しかし――。
「……あんた、やり過ぎよ」
「ええ~……」
メガフロートの
あとで知ったことだが、このイザナギは霊脈の上に建造されており、そこで使用されるあらゆる術式にブーストがかかる。術式を主体で戦う俺とは相性がよ過ぎるため、返って都合が悪いということが判明してしまった。
せっかく術式のコントロールを身につけたのに、その感覚が宛てに出来ないと言うのだから、これは困った話でしかない。一刻も早く、イザナギでの術式のバランスを身につけなければ、最悪メガフロート自体を沈めてしまう。
そうならないよう、俺は夏休みの残り日数の全てを、イザナギ仕様へのチューニングに費やすことにした。
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