第9話 これがいわゆるメスガキと言うものか
結論から言えば、五柱に連なる家の中に、俺と同年代の子どもは一人しかいなかった。大体は俺よりもずっと年上の子どものようで、既に中学生や高校生になっているらしい。
そんな中、唯一俺と同い年だったのが、
父の話によれば、この冴杜夕菜という少女。第二子にもかかわらず、類稀な才能を持ち、第一子に迫る勢いなのだとか。通常、巫力の遺伝は長子にのみ見られることだというので、これは明らかに血の成せる
そういう訳で、友達探しという
冴杜家に到着すると、早速親の立会いの下、顔合わせがあり、その後は子ども同士で親睦を深めなさいと、少女と2人で庭に送り出された。
「……あんたが
2人きりになって開口一番に少女が言う。
身長は俺と対して変わらないのに、腕を組み、こちらを見下ろすような姿勢で仁王立ちする少女。彼女こそ、ここ冴杜家の第二子にして天に愛された神童――冴杜夕菜その人だ。まるで全ての人間を見下すような態度は、もって生まれた才能と、幼いが故の未熟さから来るものだが、やはり見ていて気持ちのいいものではない。
親の前では礼儀正しかったのに、親の目が届かなくなった途端にこの変貌振り。ここまで典型的な猫かぶりも、今時珍しいのではないだろうか。
「パッとしないわね。あんた、弱いでしょ?」
ぱっちりと開いた二重の眼光は鋭く、そこにいるだけで見る者を威圧する。将来は相当の美人になるだろうことは見て取れるものの、性格がこのままだったとしたら、嫁の貰い手を捜すのに苦労しそうだ。少なくとも、俺は彼女との交際、結婚など考えたくもない。
「そりゃ~父さんと比べたらまだまだだけど、君にバカにされる
「強がったってダメよ。あんたの巫力値なんて見ればわかるんだから」
なるほど。才能があると初見でそこまで見抜くことが出来るのか。そう思って受け流そうとしたのだが、ふと、父のケースを思い出す。
父は俺の巫力値が測定されるまで、そのことを知らなかった。と言うことは、これは冴杜家の血が関係した、一種の能力であると考えるべきだろう。退魔師は家系によって固有の術を持っていると聞くし、巫力値を目視出来るような術を、彼女は既に体得しているのだと考えた方が自然だ。
「巫力値はあくまで指標でしかないよ。実戦になれば、評価すべき部分は他にいくらでもある」
「でも、退魔師たるもの何をするにも巫力は必要でしょう? それが少ないと言うことは、それだけ取り得る手段に制限が付くってこと。手札が少ない退魔師は戦場では生き残れない。流石にそれくらいはわかってるんじゃない?」
「それには同意するよ。確かに手札の多さは生存率を上げるしね」
理屈として間違ったことは言っていない。よく学んでいるし、考えている。本当に3歳なのだろうか。実は俺と同じ転生者だったりするのでは。
「君、実戦経験は?」
「それはまだ。私に才能があるのは自他共に認めるところだけど、才能だけで生き残れるほど、退魔師の世界は甘くないもの。今は才能を伸ばすために鍛錬を積んで、
イキっているだけのバカとは違う。本当に才能のある人間である証。これでもう少し慎ましい性格だったら、周囲からのウケもいいだろうに。
とにかく、これで才能のある側の同年代と知り合うことは出来た。多少性格に難はあるものの、彼女との交流を重ねれば、自然と実力のほどを見る機会も訪れるだろう。上手くすれば、俺自身の錬度も測ることが出来るので、この繋がりは大切にしたいところだ。
「そう言えば、あんたは実戦経験があるのよね? 父様が言ってたわ」
「まぁ、やむにやまれぬ状況だったからね」
「どうせ、あんたの巫力でも何とかなっちゃうような小物だったんでしょ? こんな雑魚より弱いとか、そんな妖もいるのね」
実際、俺が戦った妖が、この日本においてどの程度の強さなのか。その指標を持たない俺には、どうにも判断が付かないところだが。少なくとも、父がその話を聞いて俺に才能があると勘違いを起こす程度には、危険な相手だったということ。
あの程度の相手なら、今の俺の敵ではないものの、今後より強力な妖と遭遇した際に勝てませんでしたでは話にならない。ここは冴杜夕菜からも情報を引き出し、俺の能力とのすり合わせをして、実状に最適化して行くべきだろう。
「まぁ、あんたはせいぜい底辺で這いずってなさい。あたしが戦線デビューを飾ったら、一応守る対象に入れてあげるわよ。「退魔師たるもの弱き者の盾であれ」だからね?」
ただ単に俺を弱い者扱いしたいだけなのだろうが、向こうがそういうつもりなら、そのままでいて貰おう。その間に俺は自身で鍛錬を重ね、最低限退魔師として働けるレベルに自分をチューニングするだけだ。
とまぁ、冴杜夕菜との出会いはこんな感じ。メスガキというのはこういう女児を指すのだろうかと、頭の片隅で考えつつ、その後もしばらく彼女の才能自慢に付き合うのだった。
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