【お題】暗い海の底で溶けるようにあなたを赦した。

@ikirubibouroku

沈む沈む沈む

1,2,3……数えて40。わたしは錠剤を飲み込む。液晶の向こう側には君がいる。


「あのさ、何してるの?」

「ふふふ、内緒だよ」


ミュートになった画面を心配したのか君が聞いた。

私は答えない。

ここで深掘りしない彼が好きだ。ちょうどいい距離感をわきまえていると思う。


「それでさ、がっこうの先生にね、怒られちゃったんだ」

「それは災難だね」


彼にはわたしが知らないと思っている隠し事がある。わたしは知っている。彼には彼女がいることを。友人から聞いたのだ。彼に好意があった訳では断じてないが、彼が隠し事をしていることを残念に思った。隠しているのは何故だろうか? 多分女の子と仲良くなりやすくするためだろう。そんなところだろうと思った。初戦ネットの付き合いなのだから。でもわたしのなかで何か引っかかっていたのだろうか。こんな事を言ってみたのは。


「あのね、わたし、彼氏できた」

「え? そうなの!? おめでとう!」


……私が望んでいたのはそんな反応じゃない。そんな、嬉しそうにしないで。そう思う。わたしは心の中で悪態をついた。彼氏できたなんて嘘なのに。


「どんな人?」

「優しい人だよ」


ちょっと気にしてる? そうでもないか。それならもっと聞いてくるよね。

いつも思いつきで話してしまうからこの嘘の着地点なんか考えていない。次はどうしようかななんて考えていたら彼がまたさっきまでの話を掘り返してきた。

「先生に怒られたはなしなんだけどね、」










どれくらい話しただろうか。小一時間くらい話したと思う。最後の方は薬がまわっていて何を話したか覚えていない。彼はこの後友達とゲームをするからと言って通話を切ってしまった。わたしはいつのまにか平面に閉じ込められていた。

影が伸びるように携帯を持つ手が大きく映る。ベットのマットが波を打つように揺れ、わたしを川へと連れてゆく。


ゆらゆら、ゆらり。


川はいつしか海へと流れていく。

イアホンをして音楽を聴いた。目を閉じて。


ぶくぶくぶく。


沈む、沈む、沈む。

泡を立てながら深海へと沈んでゆく。


コポ。

泡に映るのは自分自身と、彼。


彼の彼女はかわいいかなぁ。


ぼんやりとそう思う。

目を開けるとそこは真っ暗だった。深海だから当たり前か、なんて思う。

真っ暗な中携帯の液晶だけが青白く天井を照らす。


コポ

ふと液晶に文字が浮かび上がる。

彼からの連絡だ。

返事を返そうとするとぐにゃりと画面がゆがんだ。

なんとか読み取ったのは「夜寝落ちしよーよ」だった。

いいよ、と誤タップしながらも打ち返す。


はぁ。


なんだかんだ、わたしもかれにodしてること黙ってるんだよなぁ。それくらいの関係だ。彼も私も秘密を持ってる。おあいこなんだ。


ぼんやり天井を見ながらそう思う。


所詮そんな関係か。


私はため息を付いた。

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