第16話 新しいメンバー


 町に戻ってきた翌日はゆっくりとしたかったんだが、リリーからの提案で朝から町の外に鍛錬に来ている。転移罠でオーガエリアに飛ばされたこともあって、今後何があっても平気なように鍛えたいという気持ちは理解できた。それもあって朝早くから全員で鍛錬している。


 全員で走って体が温まった後は、それぞれに必要と思われることをしている。

 

 エレノアとリリーは2人で組んで稽古している。実力はまだまだリリーが上だが、そんなことはお構いなしにビシバシと叩き合っている。終わったら治療してやろう。


 俺とフォノンは主に魔法を鍛錬している。今回のダンジョンでも魔法の有難みは良く分かった。たぶん魔法の熟練度を上げておけば、色んな場面で切り抜ける原動力となるだろう。俺の場合は大剣の方も鍛えたいから、中途半端になりがちなんだけどな。


 今回改めて思ったのは魔法の速度と威力だ。どんなに速くても威力が無ければ決定打にはならない。また、どんなに威力が有っても遅ければ回避される可能性が高い。回避されないように範囲で撃てばなんてことをすると、フレンドリーファイアが怖いからな。

 分かっていることなんだが、すぐに解決できる問題でもないから地道にやるしかない。そういう意味でも今日みたいな鍛錬は重要だというのは分かる。


 フォノンは3種類の属性魔法なので上がりやすいが、俺は若干種類が多いのが問題だ。どれも重要そうだが、今日のところは時空魔法と雷魔法を集中して鍛えている。


 まぐれに近い感じだがショートジャンプは成功した。もう一度やれと言われても成功するか分からないし、事故が怖い。あの時は怒りで集中していたのもあるし、頭の中でパズルのピースが合う感覚がした。それを普通に出来るようになればとは思うのだが難しい。しかしそれを補助してくれるのが精密操作スキルなんだろう。転移系の魔法を鍛えていれば、このスキルも熟練度が上がっていくはずだ。


 そして時空魔法でもう1つ鍛えている次元切断。これも精密操作の熟練度が上がりそうだ。今のところ手の少し先にしか発動しない。逆に今の状態で離れた位置に発動できたら怖い。完全に制御できていないからな。




 鍛錬を終えた後に、今回のダンジョン探索のドロップアイテムを納品するために冒険者ギルドに訪れた。まだそこまで溜めてないので大丈夫のはずだ。


「本日はどのようなご用件でしょうか?」


「ダンジョンのドロップアイテムの納品をしたいのですが」


「こちらに出して頂いてもよろしいですか?」


「はい。お願いします」


 受付嬢は納品したアイテムを持って奥へと行った。

 それから暫く待つと戻ってきて明細が書かれた用紙を渡された。


「今回の納品ではこちらの金額となります。問題無ければお支払い致しますが」


 渡された用紙に書かれた金額は、小金貨7枚、大銀貨9枚、小銀貨9枚、大銅貨7枚、小銅貨2枚となっていた。今回の明細には、オーガを倒した際にドロップした牙と角、魔石も含まれている。強い分、単価が特に高いとかはないんだな。安くはないが。


「はい。問題ありません」


「分かりました。お支払い方法はどうされますか?」


「現金でお願いします」



 前回に比べると宝石の数が少なかった分、金額が少なくなっている。それでも4人で分配しても稼ぎとしては悪くないだろう。危険手当とか考えたら妥当かは分からないが。




「あ、シオン君。やっと会えたわ」


 冒険者ギルドから出ようと扉へ向かっていると、ソフィアに声を掛けられた。後ろにはサラも付いてきている。


「ソフィア。もう大丈夫なのか?」


「ええ、なんとかね。少し時間を貰えるかしら? 相談したいことがあるのよ」


 相談事? まあ何でも手助けするって言ったからな。


「ああ、大丈夫だ」



 話を聞くためにギルド内の空いているテーブル席へ移動した。別に周りに聞かれても問題ないとは思うが、少し離れた位置だ。


「シオン君達に会うために、2、3日前からなるべくギルドで待機してたんだけど、長くダンジョンに入っていたのね」


「少しトラブルがあってな」


「トラブル?」


「そんなに大した問題じゃない」


 転移罠で飛ばされたけどな。 


「ふ~ん。まあいいか。えっと、相談事と言うかお願い事と言うか……」


 ソフィアはなかなか切り出しにくい内容なのか、こちらの顔色を伺いながら口ごもっている。


「私達をパーティに入れてほしい」


 横からサラが何の躊躇いもなく言った。 


「俺達のパーティに2人をってことか?」


「そう」


「つまり2人が話し合って決めた内容がそれって事か」


 町に戻ったら話し合うって言ってたからな。さて、どうするかな。


「すまん。少し話が変わるけど、もう3人の弔いは終わったのか?」


「ええ。町の墓地に埋葬したわ」


「故郷とかじゃなくて良かったのか?」


 故郷となったら3人をそれぞれに運ばないといけないから大変だが。


「私達全員孤児院出身なのよ。身内と呼べるのは私とサラだけ」


「そうか」


 こういう世界だと孤児院出身は多そうだな。


「それでパーティ加入の件、どうかしら?」


「そうだな……」


 このパーティは俺と奴隷で組まれているからな。それにステータスについても知れ渡ってほしくない内容なんだよな。


「ソフィアは分かっているかもしれないが、このパーティは俺の奴隷だけで組んでいるパーティだ」


「ええ。何となく分かっていたわ。それに奴隷とか関係なく、シオン君のハーレムパーティなのは知っていたし」


 そういえば前にそんな事聞かれたな。


「それも承知でお願いしているの。すぐに貴方の事を好きになれるか分からないけど、少なくとも悪い印象はないわ」


「私も同じ」


 サラも頷いて言った。


「普通にパーティ探したほうが良いパーティ見つかるんじゃないか?」


「私も女だからあんまり自分の年齢の話はしたくないけど、そこまで若くもないから新しく探すのは躊躇するのよ。もし入ったパーティがダメダメなパーティだったら厳しいじゃない? それなら知り合って間もないけど、話の合うシオン君のパーティが安全なの。それにシオン君も魅力的というのもあるわ」


 ソフィアの言うことも理解は出来る。出来るが……


「シオン様。よろしいですか?」


 エレノアが俺に断ってきた。


「ああ。意見があったら何でも言ってくれ」


「これからダンジョンも下層に進んでいくと大変になってきます。彼女達を加えることは悪くない話です。それにこれまでお話を聞いた限りでは悪い人達でもありません。色々シオン様の話をしても大丈夫だと思います」


 エレノアは俺の色々な事情も考えたうえで大丈夫と判断したということか。


「そうか」


「はい。但し、もしお二人がシオン様に害を成すようなことをすれば、私は絶対に許しません」


 途中からエレノアはソフィアとサラを見ながら言った。


「もちろんよ。私は仲間を裏切るようなことはしないわ」


「同じく」


 2人が少しエレノアに気圧されるようにして答えた。


「フォノンとリリーは?」


「私は歓迎します」


「私も問題ないと思う」


「3人がパーティに加えていいと言うなら、俺も反対する気はない」


 俺より3人の方がちゃんと考えてそうだ。


「パーティに加えてもらえるってことかしら?」


「ああ。歓迎するよ」


「ありがとう。皆さん」


「ありがとう」


 2人は頭を下げて感謝の気持ちを伝えた。



 色々と話をしないといけないが、話の合う2人だから大丈夫だろう。それに間違いなくパーティの戦力アップだしな。

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