第14話 オーガ(3)


 昨日1日鍛錬に充てたおかげで、今日はオーガに挑戦できそうだ。無事風魔法が★2に上がった。

 それとは別で新たに2つのスキルが取得リストに上がっているのに気付いた。最近熟練度の変化が少ないので流し見していて気付かなかった。



◎取得可能スキルリスト

 罠探査

 精密操作



 どういう紐づけをされているのか未だに分からないが、俺以外では罠探査に関してはリリーが取得でき、精密操作はエレノアが取得できた。これは気配感知と時空魔法の関連なんだろうか?




「まずはスローを試してみる。エレノアとリリーは一瞬でいいので動きを止めてくれ。俺がスローを掛ける。フォノンは魔法を撃ちまくってくれ」


「お任せください」


「分かった」


「はい。頑張って撃ちますね」


 最初はこれでいいか。無事スローが使えることが分かったら、エレノアにお願いしてみて、俺は魔法攻撃に集中してもいい。

 

「上手くいかない可能性もあるから、油断しないでいこう」


「「「はい(ああ)」」」




 21階層はオーガエリアの上層階というのもあって、そんなに敵が密集していないのが救いだな。今後25階層に行くことになったら大変そうだ。それにはもっと強くなってからじゃないと、まともに戦えそうにないが。


 気配感知を確認しながら歩いてきたが、そろそろ気が付かれるかもしれない。


「そろそろ気付かれる。注意してくれ」


 警告を発して数歩進んだところで気配感知の表示が変わった。


「来るぞ。最初の速攻に注意だ」


 オーガはすぐに姿を現すと一気に加速して突撃してきた。


「くっ」


 さすがに2回目となると警戒していたのか、リリーは少し後ろに押されながらも何とか吹き飛ばされずに耐えてみせた。

 すぐに攻撃を加えようとするオーガに対して、エレノアが横からメイスで殴りにいった。それを察知して素早く後ろに下がることで回避した。


「スロー」


 避けることを前提にしてスローを準備していた俺は、ちょうどのタイミングでオーガにスローを使うことに成功した。オーガに吸収される感じ、たぶん効いたはずだ。


「ファイアランス」

 

 フォノンも俺がスローを掛けるのを待って、いくつもの魔法の火槍を発動させた。オーガは回避しようとしたみたいだが、その動きは極端に遅かった。次々と魔法は命中していった。


 両腕と胴体に大きな怪我を負いながらも生き長らえたオーガは、フォノンへ迫ろうとしたが、リリーとエレノアが行く手を阻んだ。

 スローの効果はもう切れたのか。やはり格上だからか、それとも熟練度が足りないのか。しかし動きを遅くした効果はあった。魔法ダメージでオーガの動きは精彩を欠いていた。


 本来の動きができないオーガに、エレノアとリリーは怪我を負った場所を狙い、更に俺とフォノンは魔法で攻撃することで倒すことが出来た。



「かなり効果があったな」


 ほっとした表情を浮かべながらリリーが話し掛けてきた。


「そうだな。もう少し効果が長く続けば、一気に倒せたかもしれないが」


「もう少し魔法をぶつけることができれば倒せたかもしれません」


 フォノンも今の戦闘は手応えがあったのか自信が漲っている。


「私がスローを使ってみますか? そうすればシオン様も最初から攻撃できます」


 その通りなんだが懸念があるとすれば熟練度か。でも試す価値はあるか。


「じゃあ次はそれでやってみるか」


「はい」


 

 少し先に進みながら気配感知で確認すると、前方からこちらに歩いてきている個体を見つけた。


「すぐ前方にオーガ1体がいる。さっきの要領でやろうか」


「「「はい(了解)」」」



 角を曲がって現れたオーガは、こちらに気付くと猛然と駆けだしてきた。リリーはオーガの突撃を受け止めると、思い切り前方に弾き返した。

 そういえばリリーの盾術が★2に上がっていたんだった。


「スロー」


 エレノアはこのタイミングで魔法を発動した。


「⦅ウィンドランス⦆」


「ファイアランス」


 俺とフォノンの撃った幾つもの魔法はオーガに突き刺さるかに見えたが、全て命中させることが出来なかった。オーガは全部を躱すことこそ出来なかったが、持前の速さを活かして回避してみせた。


 エレノアのスローが効いていないか。


 オーガは魔法が危険だと判断したみたいで、真っ直ぐに俺とフォノンの方へ向かってきた。

 すぐにフォノンの前で構えた俺は、オーガがそのままの勢いで殴ってきた拳に大剣を叩きつけた。当然のように大剣を拳で受け止めてみせたオーガは、ジワジワと圧力を加えてくる。それに耐えながらチャンスを伺う。すると、追いついてきたリリーとエレノアが背後からオーガに斬りつけていく。


 それを察知したオーガは素早く横に避けた。よし、今だ。


「スロー」


 この感じはたぶん効いたはずだ。


「ファイアランス」


 フォノンがすかさず魔法を放った。今度も避けようとしたオーガだったが、ほとんどその場から動けず、全ての魔法を喰らった。エレノアとリリーもこの結果を予想して、迷わずに攻撃を加えていった。

 俺はオーガの動きが鈍ったこの機会を狙って、足狙いで魔法を撃った。


「⦅ニードル⦆」


「グァッ」


 ある程度の魔力を込めた土魔法は、問題なくオーガの足を貫いた。身動き出来なくなったオーガはリリーが傷口に剣を突き立てたのがトドメとなり倒れた。



「すみません。私のスローは効き目がありませんでした」


 エレノアは意気消沈した表情で言ってきた。


「いや、スローに関しては抵抗される可能性もあると考えたうえで、試すつもりだったから問題ないぞ」


 俺の魔法でも明らかに効果時間が短いからな。当然熟練度の問題はあるだろうと思っていた。


「それでも最初に比べたら対処できた方じゃないか?」


「そうだな」


 リリーの言葉に頷いた。一か八かの賭けはなるべくしたくないからな。


「21階層の突破もできそうだな」


「そう願いたいところだが。フォノン、魔力はどんな感じだ?」


「まだ余裕ありますよ」


 できればフォノンの魔力強化が★2になるのを待ちたいところだな。この階層で魔力切れを起こすのはきつい。俺の方は大丈夫だが、フォノンの火力は必要だからな。


「もう少し待って、フォノンの魔力強化が★2になった時点で、21階層の突破を目指そうか。出来ることは限られるが少しでも準備をして進みたい」


「はい」


「頑張って上げます!」


「死んで後悔はできないからな」


 死ぬとか縁起が悪いな。俺はステータスが上がりきって満足して冒険者を引退するまで死ぬ気はないぞ。



 それはともかく、ようやく道筋が見えてきたな。今回も全員揃って町に戻りたいな。

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