第11話 続く非常事態
翌朝、食事中に他愛無い会話をしているが、誰も昨日のことを話題に出さない。もちろん頭の中には強く残っているだろう。誰もが冒険者として活動するということが、常に死と隣り合わせであるということを。
しかし、そういう事実はあるが、俺の仲間達は頼もしいからな。間違いなく気持ちを切り替えているだろう。どちらかというと俺が一番引きずりそうだ。なんだかんだと俺が一番精神的に弱いから、支えられている感じはしている。
「シオン様。今日の予定は15階層まででしょうか?」
エレノアからは何事も無いように予定を聞かれた。
「ああ。15階層で野営して、明日からは16階層を見てみたいと思っている」
「初めての魔物だな」
リリーが期待しているのが分かる。昨日はレッドオークに吹き飛ばされたのに、全然堪えた様子が無い。
「16階層ってまた沢山魔物いそうですよね」
「そうだな」
たぶんフォノンの言う通りだろうな。16階層より先で活動している冒険者パーティっているんだろうか?
予想通り、13階層からは極端に戦闘する機会が多くなった。それでもオークジェネラルとオークリーダーの構成では、間違いが起こりそうにはない。俺達もオークの上位種には慣れたものだな。
14階層に入って最初の遭遇は、オークジェネラル1体、オークリーダー2体、オークメイジ2体、通常のオーク6体の構成だった。
「フォノン、オークメイジを狙ってくれ。俺は範囲で狙ってみる」
「はい」
風魔法だと前方を防御態勢で固められると、あまり有効ではないので、今回は別の魔法でやってみよう。
「⦅ファイアボール⦆」
着弾後に四方に広がるイメージで放たれた魔法は、想像通りの動きを見せたが、威力は予想したよりも低かった。それでもオークの集団を混乱させることはできた。
「ファイアランス」
フォノンは混乱している隙を見て、オークメイジ2体を見事に仕留めた。
エレノアとリリーは魔法で混乱している敵集団を見て、迷わずに斬り込んでいた。こうなると範囲魔法はもう使えない。
「⦅クイック⦆」
2人に合流するべく自分にクイックを掛けて走り出した。前方では既に2人によって倒されたオークの体が消えかかっていた。そんな2人に気を取られているオークリーダー1体の後ろに回り込むと、大剣で首を斬り裂いた。
リリーは周囲の圧力が減ると、真っ直ぐにオークジェネラルへと向かった。リリーの後を追う様子を見せたオークリーダーは、エレノアが前に立ち塞がることでカバーした。
特に問題もないので、オークの数を減らすかな。
戦闘も終わり、それぞれドロップアイテムを拾って次に行こうとしていると、フォノンがいきなり聞いてきた。
「これって何でしょうか?」
皆が足を止め振り向いた先に見えたのは、フォノンが何かの箱を触っている姿だった。
箱? 全然豪華そうに見えないが宝箱なのか?
そんなことを考えていると、俺達の足元にいきなり魔法陣が出現した。
「まずい。離れるな!」
そう叫ぶのが限界だった。次の瞬間、転移魔法陣を使ったときみたいに体が浮遊感を感じると、同じダンジョンの中だろうが、少し周囲の風景が変わった。
周りを確認して3人の姿があることは分かった。
「どうやらパーティがバラバラになるっていう最悪の事態は無かったようだな」
「今のは何でしょうか?」
エレノアが近づいてきて俺の体に触れながら聞いてきた。
「たぶんだが罠で転移させられたんじゃないかと思う」
「情報屋の話に出てきた転移魔法陣の罠か!」
さすがにリリーも驚いた表情を浮かべて言った。
リリーの言葉で皆が黙り込んだ。
「ごめんなさい。私が不用意に触ったせいで……」
静まる中、フォノンが泣きそうな表情をして謝ってきた。
フォノンの獣耳を撫で、見詰めながら話した。
「全員バラバラにならなかったんだから平気だろ。『私達ならどうにかなります』じゃなかったか?」
俺が先日フォノンが言った言葉を伝えると、一瞬キョトンとした後、嬉しそうに笑顔を向けてきた。
「はい。私達ならどうにかなります!!」
いつも明るいフォノンが暗い表情をしていると、パーティの調子も狂うからな。
「現状を確認してから行動しないといけないが、まず安全な場所へ移動しよう」
俺は地図を確認しながら皆に言った。
「主殿はここが何階層なのか分かったのか?」
「まだ確定ではないが、気配感知で捉えた気配から、凡その階層は分かったんで地図を確認していたんだが、たぶん22階層の入口付近だ」
「つまりその捉えた気配というのは……」
「オーガだな」
リリーが答えを聞いて黙り込んだ。
「とにかく移動だ。今なら戦闘なしで階段まで行ける」
念のため皆になるべく気配希薄を意識しつつ静かに移動することを伝え、ゆっくりと通路を進んだ。幸い敵に見つかることもなく21階層へと上がる階段へと辿り着いた。
ダンジョン共通かどうかは分からないが、中ボスがいる大広間とその続きの大部屋、更に各階段については魔物が侵入してこないらしい。真偽のほどは不明だが、これまでダンジョンで活動している間は問題なかった。それが今は俺達の命を繋いでいる。
「俺が考えるに、今回の俺達は結構運が良かったと思う」
俺は静かに話しだした。
「運が良いですか?」
エレノアが不思議そうに聞き返してきた。
「そうだ。最初情報屋に転移罠を聞いた時にイメージしたのは、誰も到達したことがない見たこともない敵がいる場所に飛ばされることや、パーティがバラバラに飛ばされることだった」
皆黙って話を聞いている。
「もしそんなことになっていたら、俺達は間違いなく全滅していただろう。で、実際罠に掛かってみたら、パーティは揃ってる、飛ばされた階層もそこまで先じゃなかった。しかも地図がある範囲だ。まあ、オーガっていうのは確かに強いが絶望するまで実力が離れているとは思わない。そのことに気付いたときに思ったんだ。俺達は運が良いってな。俺達ならどうにかなるよな?」
最後はフォノンに悪戯っぽく笑いながら言った。
「はい!!」
フォノンが元気よく答えてくれた。
「ははっ。さすがは私達の主殿だな。惚れ直したよ」
リリーが珍しく冗談を交えて言った。さっきまでの深刻そうな雰囲気は無くなって、いつもの調子を取り戻したようなので良かった。
「私も同じ気持ちです。どこまでもシオン様に付いて行きます」
エレノアのは少し重い。そこまで大したことは言ってないので、軽く聞いてくれ。
「オーガが強いのは事実だから、あんまり気負わないで鍛錬を進める感じで行こうか」
「「「はい(了解)」」」
厄介な罠に掛かったことは事実だが、絶望的な状況じゃなくて良かった。良い鍛錬の機会が巡ってきたぐらいに思っておこう。
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