第9話 ネオンダンジョン(7)


 今日も宿屋のベッドで人肌に包まれて目が覚めた。

 また体の上で誰かに抱き着かれているのに気付いた。薄暗い中、目の前に獣耳が見えているのでフォノンだと分かる。俺が少し動いたのに気付いたのか、顔を上げて見詰めてきた。


「おはようございます」


 そう挨拶すると軽く口づけてきた。


「おはよう。フォノン」


 フォノンを抱えて上半身を起こしながらライトをつける。


「おはようございます。シオン様」


 当然のようにエレノアも目が覚めていたようで、後ろから抱き着いてきた。


「おはよう。エレノア」


 顔をエレノアに向けて挨拶すると、すぐに口を塞がれて舌を絡ませられた。

 暫くして顔が離れると、所在無げにこちらを見ているリリーと目が合った。


「え~と。おはよう。主殿」


「おはよう。リリー。どうしたんだ?」


「いや、私の入り込む余地が無くてね」


 そう言って、前のフォノンと後ろのエレノアを見ている。


「ああ!」

 

 なるほど。

 フォノンを膝の上から降ろしてエレノアにも離れてもらった。そして手を広げて待つと、おずおずと抱き着いてきたリリーを抱きながら口付けた。お詫びというわけではないが、情熱的に口付けた後に顔を離すと、目の前に顔を赤くさせて恥ずかしそうにしているリリーの顔が見えた。


「あ、ありがとう」


 何に対する感謝なのか良く分からないが、恥ずかしそうに顔を逸らして離れていった。




 宿屋で朝食を食べながら当初の予定から変更することを告げた。


「装備を受け取りに行った後に、すぐにダンジョンに戻る予定だったんだがちょっと変更したい。昨日ステータスを見たらエレノアとリリーの魔抗強化が上がりそうな感じだった。俺は無理だがせめて2人のスキルは上げてから潜りたいと思う」


「分かりました。それでは外で鍛錬ですね」


「ああ。たぶん昼までには上がるんじゃないかと思うから、それから10階層の野営地に戻る感じだな」


「了解だ」


「じゃあまた私の出番ですね!!」


 フォノンがヤル気を出してきた。

 暴走しないといいけどな。なにせフォノンの風魔法はかなり痛い。


「そうだな。ほどほどで頼む」


「分かりました」



◇ ◇ ◇



 武器屋で防具を受け取ったが、そのままアイテムボックスやマジックバッグに格納して町の外に出てきた。エレノアは時空魔法が★1になってからは、マジックバッグ自体は身に着けているが、中身はアイテムボックスに入れるようにしている。容量も便利さでもアイテムボックスの方が優秀だからな。マジックバッグはいずれ使い道も出てくるだろう。



「皆さん、準備いいですか? 始めますよ~」


 フォノンがこちらの3人に向かって確認してきた。


「ああ、いいぞ」


 エレノアとリリーに確認した後に、フォノンに許可を出した。身構えないでフォノンの風魔法を喰らうのは怖いからな。不意打ちはダメージも大きいので、魔力視に集中しながら魔法に備えた。


「エアーボール」


 前方からうっすらと色がついた空気の固まりが、凄い速さで近づいてきて、俺の体を吹き飛ばした。昨日から何度も喰らったので、少しは慣れてきているのだが、相変わらず痛い。これ、意識せずに喰らったら気を失いそうだな。いざという時の攻撃に有効そうだ。


「どんどんいきますよ~」


 全員が立ち上がって、最初の位置に戻ったのを確認したフォノンが、そう告げた。 

 それからフォノンの魔力が続くまで鍛錬は続けられた。フォノンも魔力強化が上がってから魔力量が増えたな。俺はまだまだ熟練度が低いので分からないが、聞いた話だと素の魔力量の倍ぐらい増えたらしい。魔力強化スキルなかなか優秀だな。



「主殿。私は今ので上がったみたいだぞ」


「私も知らせの音が聞こえました」


「おっ。上がったのか」



ステータス

================


名前  エレノア

種族  人間

年齢  20


スキル

 戦闘 短剣術☆0 ( 0.01 )

    槌術★1 ( 0.08 )

    盾術☆0 ( 0.74 )


 身体 体力強化★1 ( 0.35 ) △0.01

    頑健強化★1 ( 0.46 ) △0.06

    筋力強化★1 ( 0.09 )

    器用強化★1 ( 0.03 )

    敏捷強化★1 ( 0.18 )

    魔力強化★1 ( 0.18 )

    魔抗強化★1 ( 0.02 ) △0.06


 特殊 料理★2 ( 0.23 )

    調合☆0 ( 0.00 )

    良否判定☆0 ( 0.91 )

    真偽判定☆0 ( 0.91 )

    気配希薄☆0 ( 0.63 )

    解体☆0 ( 0.81 )

    魔法威力☆0 ( 0.00 )

    魔力回復速度向上★1 ( 0.34 )

    魔力視☆0 ( 0.70 ) △0.04


魔法  生活魔法★1 ( 0.56 ) △0.02

    時空魔法★1 ( 0.04 ) △0.01


加護  生体掌握網 (スレーブ動作中)

    成長促進 (スレーブ動作中)


================



ステータス

================


名前  ミナサリアリリー・ルイーゼ・ファラダム

種族  人間

年齢  17


スキル

 戦闘 短剣術☆0 ( 0.00 )

    剣術★2 ( 0.27 )

    大剣術☆0 ( 0.00 )

    槌術☆0 ( 0.00 )

    盾術★1 ( 0.95 )


 身体 体力強化★1 ( 0.87 ) △0.01

    頑健強化★1 ( 0.24 ) △0.06

    筋力強化★1 ( 0.63 )

    器用強化★1 ( 0.14 )

    敏捷強化★1 ( 0.20 )

    魔抗強化★1 ( 0.01 ) △0.05


 特殊 気配感知☆0 ( 0.64 )

    気配希薄☆0 ( 0.43 )

    解体☆0 ( 0.14 )

    魔力視☆0 ( 0.99 ) △0.05

    遠見☆0 ( 0.01 )


魔法  生活魔法☆0 ( 0.74 )


加護  生体掌握網 (スレーブ動作中)

    成長促進 (スレーブ動作中)


================



 2人とも魔抗強化が★1に上がっている。昨日も思ったが凄い効き目だ。痛い思いをした甲斐があるというものだ。いや本当に。日本でやったら何回も車に衝突してもらってるようなものだからな。


「よし。目的達成だな。少し休憩してからダンジョンに潜ろう」


「「「はい(了解)」」」



◇ ◇ ◇



「特に気を付けることもないが入るぞ」


10階層大広間の中ボスの順番が回ってきたので、早速扉を開けて入った。 


「特に時間を掛ける必要もないから、先制で俺が通常のゴブリンを倒す。隙ができたらジェネラルをフォノンが倒してみてくれ。残ったロードは……エレノア頼む。リリーは取りこぼした敵の始末を頼む」


「まあゴブリンだとあんまり楽しめないから、さっさと終わらせるか」


 リリーが相手をする敵は残らない可能性が高いが、特に問題ないみたいだな。リリーも言ったが楽しめないからだろうな。



「⦅カッター⦆」


 ご丁寧にこちらの攻撃を待ってくれているゴブリンの集団に、風魔法を撃ち込んだ。通常のゴブリンは体を斬り刻まれて倒れていく。ゴブリンジェネラルとゴブリンロードは防御態勢を取ってから耐えたが。


「ファイアランス」


 隙を狙って撃たれた2本の火槍は、2体のジェネラルに突き刺さって吹き飛ばした。

 やっぱりゴブリンロード以外は残らなかったな。


「クイック」


 エレノアはクイックを自分に掛けてから、ゴブリンロードに突っ込んでいった。そしてそのままの勢いでメイスを叩きつけると、敵が大剣で迎え撃とうとする前に、凄い音を立てて頭を潰した。

 武器を新調した効果あるみたいだな。リーチも伸びたし、破壊力も凶悪だ。




「相変わらず繁盛していますね、この場所」


 フォノンがテントや携帯ルームが並べられている部屋を見て言った。


「そうだな。俺達も携帯ルームを置いて明日に備えよう」


「分かりました」


「夕食の準備しますね」


「私は生活魔法の鍛錬でもするかな」


 それから皆でゆっくり過ごして早くに寝ることにした。




 翌日、また11階層から探索を始めた。

 と言っても、11階層だと活動している冒険者パーティが多すぎて戦闘は無いのだが。


「11階層は歩くだけで終りそうだな」


 リリーが退屈そうに呟いた。


「まあ、本当の探索は12階層からだな」


 俺も退屈だったがこれは予想できたことだしな。それでも気配感知には集中していて、常に敵の出現には注意を払っていた。


 ん? このパーティ。

 

 気配感知で見えたのは、12階層へ向かう通路からは少し離れたところで戦っている冒険者パーティと魔物だ。進行通路でも無かったのであまり気にして見てなかったのだが、よく見てみると魔物3体のうち、1体の気配が驚くほど強い。そして今、冒険者1人の気配が消えた。


 どうする? どうする?


「シオン様。どうかしましたか?」


 俺が急に立ち止まって考え込んだことに異変を感じて、エレノアが聞いてきた。


「少し離れた場所で冒険者パーティと魔物が戦っている。その魔物の中の1体がかなり強い。そして、冒険者1人の気配が無くなった」


 俺が言った内容に驚いて3人が押し黙った。


「主さまはどうしたいんですか?」


 フォノンが俺を見て尋ねてきた。


「悩んでいる。もし助けに入ったとして俺達の誰かが傷ついてしまったら……」


 気配からも分かるが強敵だ。安易に手を出して誰かが死んだらと考えると躊躇う。


「主殿。悩むぐらいなら助けに行こう。それに私は簡単には死なないぞ」


「そうですよ。私達ならどうにかなりますよ」


「シオン様、私が絶対に皆を守ります」


 本当にこのパーティは俺より他の3人の方が肝が据わっているよな。3人が一緒にいるとどんな困難にも立ち向かえそうだ。


「分かった。だけど絶対に『命大事に』が最優先だ」


「「「はい」」」


 これから強敵に向かう人物が言う言葉じゃない気もするけどな。

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