第8話 合間での準備


「やっぱり町で寝るとしっかり眠れた気がするな」


 ダンジョンから戻った日はそのまま宿屋に直行した。携帯ルームは快適なんだが、屋外ということで気付かないうちに少し緊張しているのかもしれない。朝食を食べながらそんな少し感じたことを口にした。

 

「ダンジョンの中ということで少し閉塞感は有るのかもしれません」


「私はあの独特な雰囲気も好きだな」 


「皆で固まって寝られるならどこでも問題ないです」


 ダンジョン内の野営もそれぞれ感じ方は違うよな。でも特に問題ありそうなメンバーはいないので、初めてのダンジョン探索も少し安心した。


「とりあえず今日の予定なんだが、まず装備の更新をしようかと思っている。これからもダンジョン探索をするつもりだから、少し良い物に買い換えたい」


「この前情報屋で聞いておいたところに行くということか」


 リリーも覚えていたようだな。


「ああ。この町に来る前から装備の更新は考えていたからな。その後冒険者ギルドで報告して、余った時間で魔抗強化の鍛錬ができたらと思っている」


 魔抗強化はなるべく鍛えておきたいからな。


「シオン様。冒険者ギルドへの報告ですが」


「何かあったか?」


「宝石も納品する予定ですよね?」


「今のところ冒険者ギルドを通してしか処分できないからな」


 もしかしたら他のところに持ち込めば高値がつくのかもしれないが、今のところ当てが無い。


「はい。ですので例のダイヤモンド2つ以外は冒険者ギルドに納品して、その2つは今は手元に残しておきませんか?」


 そういうことか。持ち込み先が分かったら、例のリリーが持ってきた大きなダイヤモンドは、そちらで換金すると。


「確かにそれが良さそうだな。分かった。エレノアの言う通りにしよう」


「はい」




 情報屋が書いてくれた地図は、大通りからは離れてかなり奥まった位置にあった。騒々しい区画みたいで色々な加工をしている音がしている。

 この店みたいだな。店内はあまり広くないが、奥はかなり広い建物となっている。


「すみません」


「いらっしゃいませ」


 対応してくれたのは少し年配の女性だ。


「色々装備を更新しようと思って来たのですが」


「そうですか。どんなものをお考えでしょうか?」


「今装備しているのが鋼鉄製の武器やプレートアーマーなんですが、これより上のグレードの装備にできればと思っています」


 使っている装備を出して検討してもらう。女性店員は少し奥に行くとバッグを持って戻ってきた。マジックバッグに商品が入っているのか?


「まずはプレートアーマーなんですが、こちらの商品が良いと思います。どうでしょうか」


 色々な形のプレートアーマーが並べられているが、共通しているのは特殊な模様をしている素材が使われている。


「こちらはダマスカス鋼が使われたプレートアーマーになります。今使われている鋼鉄製に比べると格段に頑丈になっています」


 見た感じなかなか良さそうだな。重さはそんなに変化はない。前衛3人で形や色など自分の好みに合わせたものを選んだ。エレノアとリリーは華奢な見た目のそれぞれ黒と白のものを選んだ。俺は黒の厳つい感じのものにした。


「彼女の防具なんですが、今はレザーアーマーにしていますが更新するとしたら良いものがありますか?」


 フォノンはあまり前に出ることもないのだが、良いものがあれば買い換えたいと思っている。


「そうですね。レザーアーマーよりは重くなりますが、軽めの素材が使われたチェインアーマーなどどうでしょう。細かいリングを編み上げているので隙間も少なく丈夫です。更に大事なところにはカバーガードを取り付けてあります」

 

 そう言って出されたアーマーは確かに丈夫そうだが。持ちあげてみると思ったより重くない。


「フォノン。これ着て戦闘できそうか?」


 フォノンはチェインアーマーを何度か持ちあげて確認している。


「主さま。これぐらいなら平気ですよ」


「じゃあ、これに更新するか」


「はい」


 防具については全員分決まったので、試着してから明日の朝までに微調整をしてもらえるようになった。



「武器ですがダマスカス鋼を使った武器と、魔鋼を使った武器をご用意しました」


 そう言って何本かの大剣、片手剣、盾、メイスが並べられた。


「魔鋼ってなんですか?」


「魔鋼は錬金術師が作り出した素材で強靭さが増しています。それとかなり重くなっていますので一般的には扱いにくい素材です」


 実際にダマスカス鋼の大剣と比べてみると確かに重い。重いのは重いが扱えないほどじゃないし、この黒い大剣好きだな。


 俺はこの黒い大剣が気に入ったのでこれに決めた。リリーはダマスカス鋼のこれまでと同じような片手剣と盾を選んでいた。


「エレノア、そのメイスでいいのか?」


「はい。十分持てる重さですし、長さもこれぐらいなら助かります」


 エレノアが選んだのは、たぶんモーニングスターと言われる凶悪そうなメイスだ。ヘッド部分がトゲトゲではないが、破壊力がありそうな無骨な突起状になっている。まあ、今の武器は長さが短かったから苦労していたし、本人が気に入ったならいいだろう。

 エレノアはそのメイスと盾を選んだ。


 フォノンのメイジスタッフは、何本か用意してくれたものがあったが、性能的にあまり違いが無かったこともあって、使い慣れた今の武器を使うことになった。この店もメイジスタッフは専門ではないみたいだ。


 装備の更新はなかなか満足ができた。その分、小金貨8枚と大銀貨3枚が飛んでいった。良い装備は高いから仕方ないが。




 次に来たのは冒険者ギルドだ。

 ここのギルドはこの時間でも人が多いのは変わりないが、受付前はほとんど空いている。このたむろしている冒険者たちは何をしてるんだろうか。まさかあんまり働いてないのか?


「こんにちは。本日はどのようなご用件でしょうか?」


「こんにちは。魔石と素材、宝石の納品をしたいのですが」


「分かりました。では出していただけますか」


「はい」

 

 今回はそんなに貯め込んでないので安心だ。だよな?


「今回の納品でこの金額となります。問題ありませんか?」


 差し出された用紙に書かれた金額は素材・魔石で小金貨8枚、小銀貨8枚、小銅貨4枚。そして宝石で小金貨3枚となっている。


「はい。大丈夫です」


「では、こちらお受け取りください」


 4人になってからは報酬はキューブに入れることなく現金でもらっている。それぞれに分配して必要な物は買っていいと言っているからだ。エレノアも諦めてくれて苦言を言うことも無くなった。

 


「宝石に関しては固定金額のうえに、かなり抑えられている気がするな」


 冒険者ギルドで宝石を納品したときの金額を見て感じたことを言った。


「そうですね。普通に商人に売り捌いた方が遥かに高値だと思います」


「エレノアの言う通りにして、2つのダイヤモンドを納品しなくて良かったな」


「はい。あの2つは明らかに他のものとは違いましたから」


 宝石は1個当たり大銀貨5枚で引き取られたみたいだから、質も大きさも関係なくこの値段だと冒険者ギルドの儲けはかなりな金額になりそうだな。他の冒険者もこの違和感は気付くと思うんだけどな。伝手が無くて諦めているのか、それとも考えることを放棄しているのか。



◇ ◇ ◇



「主さま。最初加減が分からないので、気を付けてください」


「ちょっと待て。練習なら別のところに向けて撃てば分かるはずだ」


 フォノンが力の加減があやふやな状態で撃ってきそうだったので急いで止めた。

 

「あ、確かにそうですね。少し試してみます」



 予定通りに魔抗強化の鍛錬をするために町の外に出てきている。これだけは早く★1に上げたいところだが、俺は全然鍛えてなかったのですぐには無理だろう。



 フォノンが誰もいないところに風魔法を撃って試しているのを見て、2人に話し掛けた。


「大丈夫だろうな?」


「フォノンも殺傷力があるほどの魔法は使わないんじゃないか……。たぶん」


 リリーが微妙な言い回しで答えた。


「そうですね。少し身構えていたほうが良いかもしれませんね」


 エレノアまで怪しげなことを言ってきた。




「お待たせしました。ではいきますね」


 フォノンが準備できたのか声を掛けてきた。


「ああ、頼むぞ」


 3人がフォノンの魔法に備えてしっかりと身構えた。


「エアーボール」 


 3人に向けて風の塊が放たれた。

 何か違和感があると思ったら、そうか、フォノンは風魔法をエアーと認識しているんだな。何となくどうでもいいことを考えていると、凄い勢いで後方に吹き飛ばされた。



「俺が風魔法撃ってたときも、これぐらい容赦なかったか?」


 なんとなく気になったので聞いてみた。


「いや。主殿のときは逆に優しすぎると思ったぞ」


「はい。かなり気を使われていると感じました」


 そうだよな。俺も皆に撃つのは怖かった気がするしな。

 フォノン、思い切りがいいな。


「まあ鍛錬にはこれぐらいの威力があってもいいんじゃないか」


 リリーが笑いながら言った。

 これぐらいすれば熟練度の上がりも早いかな?



「皆さん、どんどん撃ちますね」


 それからフォノンの魔力切れ寸前まで、風魔法で吹き飛ばされる作業が続いた。

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