第7話 ネオンダンジョン(6)


「⦅カッター⦆」


「ファイアボール」


 オークの集団に放たれた2種類の魔法は、それぞれ役目を果たした。

 

 14階層に降りてきて最初に遭遇したのは、ジェネラル1体、リーダー3体、メイジ1体、通常のオーク8体の集団だった。先制攻撃は、俺がこれまで通りの風魔法、フォノンが牽制の意味も含めて着弾地点から放射状に広がるイメージで火魔法を使用した。


 通常のオークが3体残ってしまったが、メイジの魔法を阻害できたので良しとしよう。

 

「⦅クイック⦆」


「クイック」


 俺とエレノアはクイックを使って一気に前線へと進んだ。別に声に出して言う必要はないのだが、エレノアはどうやらフォノンの魔法を使っているイメージが刻まれているのかもしれない。

 俺はオークリーダー達の前まで進み意識を集めるようにした。その横をエレノアがオークジェネラルに向けて駆け抜けていった。


「ファイアランス」


 後ろではフォノンがオークメイジに向けて攻撃しているのが分かった。


 3体のオークリーダーの攻撃を上手く相手の体を利用して回避し続け、攻撃のチャンスを伺う。囲まれない限り攻撃を躱すのは易しい。逆にオークリーダーの方は、味方同士の体が邪魔となって攻撃がやりにくいはずだ。複数なのが逆に裏目に出ている。

 味方の体のせいで俺を見失っている1体の後ろに回り込みながら、素早く足に大剣を叩きつけて潰す。次の獲物はと視線を向けると、リリーの剣が首に突き刺さっている1体が見えた。もうオークを片付けてきたのか。と思ったらフォノンの魔法が突き刺さって倒れ込むオークの姿が見えた。フォノンが参戦していたなら早いはずだ。

無傷の1体も俺に気を取られるている隙に、後ろからリリーに足を斬られて倒れ込んでいた。

残りがいないみたいなので、俺の前で足を潰されて藻掻いているオークリーダーの首に大剣を叩き込んでトドメを刺した。


 他に目を向けると、残るは現在進行形で戦闘が続いているエレノアとオークジェネラルだけみたいだ。

 何度目かのオークジェネラル戦となるが、俺とリリー以上に戦いにくそうだ。やはり武器のリーチ差が大きい。それでもリリーの戦闘を何度も見ていることもあって、盾を上手く使って敵の攻撃はよく捌いている。そこから攻勢にいけないことが苦しいところだ。

 それでも何度も足を攻撃していると、堪らず膝をついて武器を手放した。それを見て頭に一撃を加えようとしたところで、いきなりエレノアに向けて殴りつけてきた。

 エレノアは少しも油断していなかったようで、その攻撃を盾で逸らし、振り上げたメイスを頭に叩きつけた。



「この敵の構成も対応できるようになってきたな」


「そうですね。最初に魔法攻撃を浴びたのが良い教訓になりました」


「自分達が魔法で攻撃するばかりで、敵から魔法で攻撃される機会はほとんどなかったからな。そう考えると、魔抗強化をもっと鍛えるべきなのかもしれないな」


「そうだな。一度町に戻った時に魔抗強化を徹底的に鍛えるか?」


 リリーもそこは気にしていたのかもしれないな。パーティで魔抗強化が★1になってるのはフォノンだけだ。俺に至ってはまったく鍛えていない。


「俺も鍛えたいと思っていたところだ。フォノンの風魔法が★1になっているから頼めるようにはなったが」


「主さま。任せてください。私バンバン撃っちゃいますよ!!」


「その時は頼む」


 俺の魔抗強化は時間が掛かりそうだから、エレノアとリリーだけでも★1にしておきたいな。



 この階層の敵の構成にも慣れてきたこともあり、地図に従って順調に先に進んだ。そして予定通り15階層に降りる階段前に到着した。


「15階層の進み具合によっては、中ボス戦をして町に戻れそうだな」


 ここから10階層に戻るのも時間が掛かるし、できればこの階層をクリアして転移魔法陣で戻りたいところだな。


「頑張りましょう!」


 まだまだフォノンも元気がありそうだな。


 地図によると大広間まではそんなに遠くはない。但し、やはり活動しているパーティはいない感じなので、道中は何回か戦闘が発生しそうだ。


 気配感知には既にもっとも近い敵の集団が捉えられている。

 なるほど。15階層はこういう構成も有りなんだな。


「どうした? 何か面白いものでも有ったのか?」


 少し考え込んでいた俺を見てリリーが聞いてきた。


「面白いかどうかは分からないが、この先の集団はオークジェネラルが4体の集団だ」


 まあ数は多いわけではないから、そこまで脅威には感じられない。


「なるほどな。何とも微妙な構成だな」


「とは言ってもオークジェネラル自体は強いからな。フォノン、3人で前を固めるからどんどん魔法で潰していってくれ」


「いいんですか?」


「ああ、相手に付き合ってやる必要もないだろう」


 1体のオークジェネラルの時は鍛錬の意味もあって、前衛が一対一で相手をしていたが。

 


 4体のオークジェネラルは、こちらに気付くと揃って突っ込んで来た。

 前衛3人で少し遠目に構えて敵の攻勢を凌いで、とにかく後ろに回り込まれることにだけ注意を払った。


「ファイアボール」


 するとそれまで魔力を貯め続けていたフォノンが、敵の真ん中に向けて大きな火の玉を撃ち出した。

 敵の中心で爆発した火の玉は、火柱となって覆いつくした。


「うおっ」


 思わず変な声を出して大きく下がって退避した。こっちまで巻き込まれるところだった。

 たぶん中心にいるオークジェネラル達は無事では済まないだろう。


「これ何をイメージした魔法だ?」


「えっとですね。私の故郷で毎年開かれている祭りのやぐらの火柱です」


「強烈な火力だけど普通の戦闘で使えるのか?」


「そうですね。魔法を準備するのに時間が掛かるし、魔力が半分ぐらい無くなっちゃいましたから使えないと思います」


 おいっ。


「ははっ。なかなか豪快だな」


 リリーが笑いながら言った。


「フォノン。これから大広間で中ボスが残っているんですよ」


 エレノアが思案気な表情で言った。

 

「ああ、そうでした。ごめんなさい」


 今頃になって気付いたのか情けない表情で謝ってきた。まあ、全部の力を出し切ったとかじゃないからいいか。


「半分の魔力があれば大丈夫だろう。だが何があるか分からないから、今後は気を付けてくれ」


「はい。すみません」


 フォノンは獣耳を伏せてうな垂れていた。



 大広間まではオークジェネラルが4体という極端に偏った構成は、それ以降見られなかった。それでも集団に2体のオークジェネラルがいることは多かった。



「この大広間では順番待ちがありませんね」


 エレノアが扉を見ながら言った。


「さすがにこの階層は冒険者パーティを見なかったからな」


「さて、ここもいつも通りか?」


「そうだな。波乱なく終わらせたいところだ」


 先制攻撃で数を減らせることが出来れば、難易度がかなり下がるからな。

 

 皆を見て頷くと、ゆっくりと扉を開けていく。

 全員が入ったところで扉が閉まる。大広間の中央にいるオークの集団を観察すると、1体ジェネラルより大きくて強い気配のヤツがいるな。仮にオークロードとしておくか。

 

 そんなことを考えていると、いきなりそのオークロードが集団から抜けて突っ込んで来た。やばいっ。


「ぐっ」


 リリーが盾を構えて前に出て止めようとしたが、敵の振るった剣の一撃に吹き飛ばされた。すぐさまリリーに追撃しようとしたオークロードに大剣で斬り捨てようとしたが、敵の剣に受け止められた。そこからは全身の力を使い、オークロードを抑え込みに入った。


「エレノア、フォノンの前方で他の敵を牽制。フォノン、とにかく敵の数を削ってくれ」


「「はい」」


 苦しい体勢から叫ぶように指示を出す。


「リリー動けるか?」


「ああ、派手に飛ばされたが大したことはない」

 

「よし。フォノンと一緒に敵を削ってくれ」


「分かった」



 今のところ力負けはしてないが、敵が全力かどうか不明だ。リリーがいきなり吹き飛ばされたから、まだ地力は残ってそうな気がする。

 

 必死に大剣を押し込んでいると、オークロードはいきなり力を抜いて後ろに下がった。思わずたたらを踏んで前のめりになっていると、敵は剣を振り下ろしてきた。急いで大剣を合わせたが、剣の勢いを抑えることが出来ずに膝をついて耐えた。


 上の方からどんどんと力で押し込まれてくる。さっきとは違い、ここぞとばかりに力を入れて伸し掛かってくる。このままだとジリ貧な気がしてくるが、打つ手がない。そう思って耐えていると、敵の背中に魔法の火矢が突き刺さって燃えた。


「グガァァ」


 どうやらフォノンが援護してくれたようだ。この好機に敵の剣を弾き飛ばすと、足の骨折れろっと願って、オークロードの足に大剣を叩きつけた。


「グギャァァ」


 再度絶叫を上げてオークロードは屈みこんだ。近寄って一撃を加えようとしたが、こちらに憎しみの目を向けながら立ち上がった。凄い執念だな。

 しかし、足が折れて機動力を失った敵に俺の攻撃を避けることは出来ず、横に回り込んで放った首への一撃がトドメとなって、オークロードは倒れた。



 他の状況を確認すると、エレノアとリリーが受け持っているオークジェネラルを、フォノンが魔法で攻撃しているところだった。ゆっくり確認する暇がなかったが、オークロードの他にオークジェネラルも2体いたんだな。フォノンが続けて魔法の火槍を叩き込むと、2体のオークジェネラルも燃え上がって倒れた。


「何とか倒せたな」


 ほっとして出た言葉がそれだった。


「開幕にいきなり1体で突っ込んでくるとは思わなかった」


 リリーがちょっと苦笑いしながら言った。


「ああ、俺も予想外だった。でもリリーが最初対応してくれたおかげで助かった」


「吹っ飛ばされたけどな」


 ちょっとリリーが悔し気なのは、それも予想外だったからだろうな。


「一応ヒール掛けておく」


 本人は大丈夫とは言っていたので平気とは思うが念のためだ。俺もまさかリリーが吹き飛ばされるとは思わなかったからな。


「ありがとう」


「そうだ。フォノンも援護魔法助かった」


「いえ、役立てたなら嬉しいです」


 フォノンはしっぽを振りながら言った。実際、あれは助かった。あの状態からの打つ手が思い浮かばなかった。


「エレノアも前線を支えてくれて助かった」


 俺は自分のことでいっぱいだったが、その間支えてくれたのがエレノアだからな。


「はい。ありがとうございます」


 

 これだけ苦労したんだが、俺が倒したオークロードからドロップしたのは、普通サイズぐらいのサファイアだった。まあドロップアイテムがあっただけ良しとしよう。贅沢は言えない。



「じゃあ転移魔法陣を使って町に戻ろうか」


「「「はい(了解)」」」



 明日ぐらいは町でゆっくりして、次の探索の準備をするかな。

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