第5話 ネオンダンジョン(4)
12階層に入って一戦したのを皮切りに、気配感知で捉えたオークの集団を次々に倒して回った。
この階層は上位種が混ざることが多いからか、11階層に比べると主戦場にして戦っているパーティは少ないようだ。遭遇する集団のほとんどに上位種が混ざる状況に、鍛錬の意味もあって順番に上位種の相手をするようになった。もちろんフォノンが相手をするときは前衛が壁になってだが。
そして今回の集団のオークリーダーは俺が相手をしている。
オークリーダーの攻撃を盾で受け流して、剣による斬撃を敵の足に加える。幾度と斬り裂いた足への攻撃に、とうとうオークリーダーは苦悶の唸り声を上げて膝をついた。
終わりか。敵の首に剣を振り下ろしてトドメを刺した。オークリーダーの死体はゆっくりと崩れていき、魔石とルビーが残された。
「久しぶりに宝石が出たぞ」
「おお、なかなかいい感じに稼げますね」
フォノンが俺の手元のルビーを見ながら嬉しそうに言った。
「まあ、そんなにはドロップしないけどな」
これまで宝石が出たのは4回だけだ。
オークリーダーとの再戦の機会はリリーが戦ったすぐ後に回ってきた。前回骨折させられたことは俺の記憶の中にしっかり残っていたので、慎重に回避しながら叩きつけた大剣の一撃は、見事に敵の右手を破壊して呆気ない幕切れとなった。
そのためそれ以降は片手剣と盾に装備を変えて、鍛錬目的となっている。
11階層に比べると時間の掛かった12階層も、目の前に見える階段が見えたことで終わりを迎える。実際は地図があるので苦労はしていないのだが、12階層では戦闘が多かったので時間が掛かった感じがしただけだ。
「今日は13階層を少し確かめてから10階層に戻って休もう」
「「「分かりました(分かった)」」」
13階層に降りると更に冒険者パーティは少ないようだ。気配感知にはいくつもの魔物の集団が捉えられた。近い所にも集団はいるが、この気配からするとオークリーダーよりも格上が混ざってるな。どうするか。 ……絶望的な敵ではないし、何事もチャレンジだな。
「この先に12体の集団がいる。上位種が全部で3体。たぶんオークリーダー2体と更に格上が1体。まあ仮にオークジェネラルとするか。リリー、悪いがオークジェネラルは俺が貰うぞ」
「ふふっ。分かった。私は次の機会を待つことにしよう」
「ああ、次の時に頼む。先制で俺とフォノンで魔法攻撃をするが、残った敵をエレノアとリリーで受け持ってくれ」
「ああ」
「分かりました」
上位種3体がいる集団なので、出来れば通常のオークは先制で倒したい。まあ残ったとしても今のエレノアとリリーなら問題ないか。気負わないでいくとしよう。気持ちを切り替えて片手剣と盾を仕舞い大剣を装備する。
通路をゆっくり進むと、どうやら目標の集団は少し大きな部屋の中にいるようだ。俺とフォノンは息を合わせて部屋に進み、魔法を撃った。
「⦅カッター⦆」
「エアーカッター」
放たれた風の刃によりほとんどのオークは戦闘不能に陥ったようだ。ただ上位種3体は防御態勢を取りダメージを軽減している。この上位種の反応の良さは何だろうな。いつも魔法攻撃に素早く対応している気がする。
「⦅クイック⦆」
戦闘中に考察を始めそうになるのを中断して、クイックを自分に掛けてオークジェネラルに斬り込んで行った。一対一に持ち込もう。
「ファイアランス」
俺が飛び込んで行ったのと同時に、フォノンがすぐさま先程の攻撃を逃れたオークにトドメを刺しにいっていた。任せても大丈夫そうだな。
目の前に立ち塞がるオークジェネラルは、ハルバートというのか槍斧というのか、これまでのオークとは違い長柄の武器を装備している。敵自体にも威圧感があるが、武器もこれまで対戦したことが無い種類のため、少し気圧されているのか。
そんなことはお構いなく、ハルバートを大きく振りかぶって叩きつけてきた。それをすぐ横に避けたのも束の間、すぐに連続で横に薙ぎ払ってきた。今度は一旦後ろに下がってハルバートの攻撃を回避した。武器の特徴を理解しきれてないのもあるが、とにかくオークジェネラルまでの距離が遠い。
間合いが遠いのはこちらに不利なので、覚悟を決めて前に打って出る。すぐに前方からハルバートの突きが襲い掛かってきた。何とか少しずらすことで回避できたが、ハルバートとプレートアーマーが接触する嫌な音がすぐ傍で聞こえた。
敵の懐に入りすぐに大剣で斬りかかったが、既の所で戻されたハルバートで防がれた。そのまま力で押し込もうとしたが、拮抗した状態が続いたので一旦距離を取った。
無闇に近づいてもダメだな。やはりちゃんと狙いは決めて攻めないとだな。手か足か。ハルバートが邪魔だから手を潰すか。
方針を決めたので再度前に出ようとしたところを、出鼻を挫かれるハルバートの一撃が頭上から迫ってきた。何とか横に躱すと、そのことを予想したように薙ぎ払いの攻撃がきたが、大剣で弾き返した。
そして攻めるべく前に出ると、狙い通りに突きの一撃が繰り出されたのを見て、避けて体を回転させながら大剣を伸びきった敵の腕に叩きつけた。
「グボォ~~」
俺の一撃によりハルバートを持っていた腕は完璧に折れ曲がり、苦痛の叫びを上げながら武器を落とした。続けて左足の膝に大剣を叩きつけて破壊すると、オークジェネラルは苦痛で屈みこんだ。敵の前に立つと最後のトドメに頭に大剣を叩き込んだ。
戦闘が終わり後ろを振り向くと、3人が全てを終わらせてから俺の戦いを見ていたようだ。
「やっぱり他人が戦っているのを見るのも楽しいな」
「主さま、カッコ良かったですよ!」
「お怪我が無くて何よりでした」
俺以外は今まで通りの戦闘だったから、問題なく早く決着するのは当然か。
「13階層も無理ではないな。明日もここで鍛錬するか」
「「はい」」
「ああ、楽しみだ」
また12階層を戻って11階層に戻ってきたが、往路と違って復路は敵は少なかった。それは当然か。来るときに自分達で倒してきたんだから。11階層は相変わらず冒険者パーティが多いので、ほぼ歩くだけで10階層の野営地に戻ってきた。
外では昼は明るく、夜は暗くなっているんだが、ダンジョンの中は昼も夜も関係なく明るいので、実際の時間は夜でも、活動している冒険者パーティは多い。俺達は体調がおかしくなるのが怖いので時間通りに活動しているが。
「あ、居たわ。シオン君」
携帯ルームを出して、皆で中に入り夕食にでもしようかと思っていたら声を掛けられた。
「さっき振りだな、ソフィア」
11階層で助太刀したパーティのリーダーのソフィアだ。後ろにはパーティメンバーの4人の姿も見えた。
「これから食事?」
「ああ、その予定だ」
「じゃあ、一緒に食べない? さっきのお礼もしたいし」
悪い冒険者ではないし別に構わないが。エレノア達3人を見ると、特に問題なさそうに頷いたので一緒に食べることにした。
「ああ、構わない」
「良かったわ。その携帯ルーム、あなた達の?」
「そうだ」
「大きいから携帯ルームの中でいいかしら?」
食事に使うぐらいならこの人数でも大丈夫か。さすがにこの人数で寝るとなるとかなり狭いと思うが。
「ああ、食事ならこの大きさでも大丈夫だと思う」
「じゃあ改めて、手助けありがとうございました」
食事を始めるとソフィアとパーティメンバーが頭を下げて礼を言ってきた。
「あの時に礼は言ってもらってるから、もう必要ないぞ。堅苦しいのは俺も苦手だからな」
何度も礼を言われるのは、こっちが恐縮してくる。
「そう。ありがとうね。そういえばちゃんと紹介してなかったわよね。私がリーダーのソフィア」
「あたしがこのパーティの盾をしているメリッサだ」
「私は弓使いのポーラです」
「あたしは斥候短剣使いのシャーラよ」
「サラ。回復魔法使い」
5人が順番に紹介していった。次は俺達の番ってことだろうな。
「俺がこのパーティのリーダーでシオンだ」
「まだまだ未熟ですが前衛をしています、エレノアと申します」
「私、魔法使いのフォノンです」
「騎士……のような前衛のミナサリアリリーだ」
リリーは説明が難しそうだな。昔は騎士だったんだろうけど、今が騎士か?って言ったらちょっと違うからな。
「このパーティってシオン君のハーレムパーティ?」
ソフィアが答えにくいことを聞いてきた。いや実際はそうなんだろうけど、肯定するのもどうか。
「はい。私達3人は全員シオン様の女です」
答えに詰まっているとエレノアが何の躊躇もなく答えた。
「ああ、なるほど。そういうことね」
ソフィアがどうやら事情を理解したように言ったので、もしかしたら3人が奴隷というのに気付いたかもしれない。
「か~~~。男ってのはどうして皆ハーレムが好きなんだろうね」
メリッサが何か絞り出すように叫んだ。
「メリッサ。男ってそういう生き物よ?」
シャーラが慰めるようにメリッサを叩いて言った。
「でも魅力ある男に群れてしまうのは仕方ないことじゃないかしら。本能に従えばそうなるわよ」
ソフィアがウンウンと頷きながら自論を展開している。
「ソフィアはそれで失敗した」
サラがぼそっと呟くように言った。
「失礼ね、サラ。私が選んだ人は間違ってはいなかったのよ。ただ冒険者として少し実力が足りなかっただけで……」
「バカ。サラ、その話はダメだ」
「そうです。リーダーがまた落ち込んでしまいますよ」
「あ~あ。その話を出しちゃったか」
慌てて、メリッサ、ポーラ、シャーラが止めに入った。
ソフィア達の賑やかな話を聞きながら時間が過ぎていった。
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