第3話 ネオンダンジョン(2)
翌日もネオンダンジョンに潜っている。今回の探索では、数日は泊まり込みをする予定で、15階層を目標としている。5階層までは昨日と同じぐらいしか戦闘機会は無かった。そして5階層の大広間の扉前へと戻ってきた。
「主殿。今回は先制での魔法攻撃無しでやってはダメか?」
リリーが5階層までの行程で暇にしていたことが予想できる、そんな提案をしてきた。昨日は魔法の先制攻撃で、戦闘らしい戦闘はしなかったからな。
「俺は別にそれでもいいぞ。2人はどうだ?」
リリーも暇な戦闘よりは少しでも体を動かしたいと思っているんだろうし、低階層の中ボスだからな。今のところは危険度も低いし、鍛錬と考えれば問題ない。昨日などほとんどステータスが上がらなかったからな。
「はい。お任せください」
「分かりました」
「じゃあ近接戦闘でやるか」
「「「はい(了解)」」」
エレノアとリリーは前に出るだろうし、俺はフォノンの護衛でもするかな。
俺達の順番が来たので、3人の顔を見て合図すると扉を開けていく。全員が大広間に入ると、昨日と同じくウォードッグコマンダーとその配下が佇んでいた。
エレノアとリリーがゆっくり歩き出したのに合わせて、俺は片手剣と盾を構えてフォノンの前に立つ。ダンジョンに入ってからは、大剣はアイテムボックスに仕舞って片手剣と盾を装備している。この先がどうなるか分からないが、今のところ大剣を振り回すには不便な広さだからだ。まあこの大広間は別だが。
エレノアとリリーが半ばまで近づいたところで、ウォードッグコマンダーが吠えた。
「ガウガウゥ。ガルル」
それに合わせるように配下のウォードッグが2人に殺到してきた。
リリーは突っ込んできた2体を素早く斬り捨てた後に、大きく横に避けてその他の攻撃を回避した。エレノアは1体にメイスを叩きつけた後、盾で薙ぎ払う様に数体を追い払った。
へ~。エレノアは本当に力強くなってきたな。強化スキルが★1になって、本当に戦闘に効果を及ぼしてきた感じだ。今ならプレートアーマーに変更して防御を固めたほうがいいかもしれないな。少しエレノアの戦闘を見て考えていると、俺とフォノンの方にも2体が近づいてきた。俺もダンジョンに来てあんまり体を動かしてないから、近接戦闘を鍛えないとな。
後ろにはフォノンがいるから回避という選択はしない。2体が突っ込んで来たタイミングに合わせて、剣を斬り上げて1体の首を斬ると、続けざまに斬り下ろしてもう1体の首を斬り落とした。
呆気ないと思ってしまうが、これは相対的なものなので俺が極端に強くなったわけではない。それは鍛錬のおかげで強くなってはいるが、オーク以上の相手になってくると無力感が漂う結果になりかねない。気を引き締めていこう。
少し目を離した間に、エレノアとリリーの対ウォードッグ戦は終わりつつあった。リリーはこのレベルの敵相手には特に言うことはないが、エレノアのメイスでの攻撃が冴えわたっていた。攻撃の振りも威力も上がってるのは、間違いなく槌術が★1に上がったんだろう。確かもうすぐで上がるところまできていたはずだ。
残ったウォードッグコマンダーに2人で向かったが、リリーが突っ込んで来た敵に一振りすると戦闘は終わった。
大物感を出して1体で佇んでないで、一緒に攻めてきたほうがいいんじゃないか?と個人的には思ったが、別にそんなつもりはないと言われそうか。
「呆気なかったが今日はここからがスタートだからな」
「そうですね」
「とは言っても次から出てくるのはゴブリンのはずだから、手応えが有るかは分からない」
ゴブリンだからあんまりハードルを上げないほうがいいだろう。正直また呆気ない気持ちになる可能性が高い。
「大丈夫だ、主殿。順調に進んでいけば歯応えのある相手が出てくるはずだ」
リリーがそんなことを言うが、リリーの言う歯応えのある相手って、今度はこっちが苦戦する相手だからな。俺もそれは期待してるんだが、誰かが傷つく可能性も上がるというジレンマに陥ることでもある。考えても仕方ないな。
「とにかく先に進むぞ」
「「「はい(ああ)」」」
6階層に入ると戦闘するパーティを見る機会が多くなった。その分こっちは戦闘する機会が無いということだが。ここをホームとして活動するパーティが結構いるんだな。
そんな状況は7、8階層でも同じだった。
9階層まで来てようやく最初のゴブリンとの戦闘になった。気配感知に反応したのは12体のゴブリンの集団だ。そして上位種らしい反応が3体。
「ゴブリン12体の反応だ。その中に上位種が3体いる。フォノン、もし遠距離攻撃する敵がいたら優先で頼む」
「はい。分かりました」
エレノアとリリーを先頭に先に進むと、ゴブリンの集団が見えてきた。敵もこちらに気付いて、中心にいる上位種が何か叫ぶと、ゴブリンが襲い掛かってきた。あの上位種、ゴブリンリーダーより格上だな。それに剣と盾と防具を装備している。ゴブリンジェネラルといったところか。
そんな事を考えていると前方から矢が飛んできた。よく見るとゴブリンアーチャーが2体いる。幸い、そんな動きに気付いていたエレノアとリリーが盾で受け止めた。
油断しすぎた。急いで魔法の準備を始めると、隣から魔法が撃たれた。
「ファイアアロー」
フォノンが撃った火矢は見事にゴブリンアーチャー2体に突き刺さって息の根を止めた。これまで前もって準備した範囲攻撃以外で、複数に攻撃することが無かったんだが、なんなく仕留めたな?
「⦅バレット⦆」
遅ればせながら撃った魔法3発は、上位種3体に向かって飛んだが、ゴブリンジェネラルが盾を構えて庇って致命傷は避けた。ゴブリンジェネラルが庇った?
その庇われた上位種2体は杖を構えて魔法を撃ってきた。
あの上位種2体メイジなのか!
俺とフォノンに向かって飛んできた火矢を、片方は盾で、もう片方は右手で払った。
「グッ」
若干右手が熱い思いをしたが防具のおかげで助かった。
「ファイアランス」
お返しとばかりにフォノンが火槍の魔法を撃った。ゴブリンジェネラルが盾で受け止めようとしたが、盾ごと弾き飛ばした。
「⦅バレット⦆」
続けて撃った俺の石弾は、守る者がいなくなったメイジの顔を破壊した。
後ろで魔法戦を繰り広げていたのとは別に、エレノアとリリーの2人は問題なくゴブリン7体を倒していっていた。そしてエレノアはゴブリンを倒し終わると、起き上がってきたゴブリンジェネラルに向かっていった。
ゴブリンジェネラルも近づいてきたエレノアに向かってくると、剣を振り下ろしてきた。エレノアは冷静に剣を避け、わずかに体勢を崩した敵に向けて、盾を叩きつけて弾き飛ばした。ひっくり返った敵に徐に近寄ると、頭にメイスの一撃をお見舞いしてトドメを刺した。
「大丈夫ですか? 主さま」
俺が魔法を右手で払ったのを見ていたフォノンが心配して聞いてきた。
「ああ、平気だ」
実際熱かったのは一瞬で、ヒールする必要も無いと思うが念のため掛けておく。
「主殿。フォノンに遠距離攻撃の可能性を指示しておいて、本人の反応が遅れるのは感心しないぞ?」
リリーは笑いながら痛いところを突いてきた。
「本当に悪い。ゴブリンと思って油断し過ぎていた」
「全員無事で何よりでした」
エレノアが安心したように言った。
今回は遠距離攻撃の可能性に気付いていたのに、何の準備もせずに近づいてしまった。最初の矢の攻撃をエレノアとリリーが防いでくれたのが助かった。これまで楽勝だったゴブリンだったので甘く考えていたのかもしれない。気を付けよう。
ゴブリンの死体が消えると残ったのはドロップアイテムだった。魔石とエメラルド? ドロップアイテムに宝石が出るのか?
「ドロップアイテムにこんなの有ったぞ」
拾ったエメラルドを見せると全員が集まってきた。
「綺麗ですね」
フォノンが手に取って見ながら言った。
「宝石が出るのはこのダンジョンだったんですね」
エレノアが少し考えながら呟いた。
「有名なのか?」
「はい。ダンジョン都市で宝石が多く出品されるのは有名です」
「これを求めて冒険者が群がるのか」
リリーが感心したように言った。
「宝石だけではなく、色々な物がこの町のダンジョンから産出されています」
そうか。解体が必要ないって以上に、ドロップアイテムが魅力的なんだな。それは冒険者が集まってくるはずだな。商人もか。
10階層の大広間までは、3回ほどゴブリンの集団に遭遇したが、上位種はいても遠距離攻撃する敵がいなかったこともあり、すんなりと倒して進んできた。
そして当然ながら大広間前では中ボス待ちの冒険者パーティの列ができていた。
「ここでの待ちの進みは少し遅いですね。5階層と比べると」
フォノンが列の先頭を見ながら呟いた。
「5階層の敵と比べると強くなってるだろうしな」
「今日はこの大広間を抜けた先で野営ということでしょうか?」
「そうだな。時間的にはそこまでだろう」
「分かりました」
「今回も魔法で先制攻撃するのか?」
「ああ。最初は手加減抜きでいこう。上位種のことは任せた」
「ああ。任された」
リリーが笑って応えた。全力で魔法を撃つが、上位種は残る可能性があるからな。
少し待たされたが俺達の順番が来たので、扉を開けてから中に入った。
中心には普通のゴブリンより二回りか三回りも大きい、装備をしっかり着ているゴブリンと、その前にゴブリンジェネラルが2体、普通のゴブリンが10体待機している。
フォノンに合図を送り、しっかり魔力を込めて準備していく。
十分な威力になると思う魔力を込め終わると、魔法を撃った。
「⦅カッター⦆」
「エアーカッター」
いきなりの魔法攻撃は、前面に展開していたゴブリン10体を薙ぎ払った。しかしゴブリンジェネラルは魔法攻撃を盾で防いで威力を殺して、被害を最小に抑えたみたいだ。当然仮称ゴブリンロードはまったくの無傷だ。
3体残っているので俺も前に進んでいく。リリーは脇目も振らずにゴブリンロードに向かっているので、俺とエレノアはゴブリンジェネラルを相手にする感じか。
リリーが進むにつれて2体のゴブリンジェネラルも寄ってくるが、それを邪魔するように俺とエレノアで割って入る。
襲い掛かってきたゴブリンジェネラルの剣を受け流して凌ぐと、次に振るってきた剣は盾で受け流す。少し剣の鍛錬に付き合ってもらうか。
そうして剣の鍛錬をしながらリリーの方を伺うと、大きな大剣を振り回すゴブリンロードの攻撃を楽しそうに避けていた。まあ、そうだよな。ゴブリンロードと言っても、正直なところオークの上位種に比べると怖くないからな。
もう一方のエレノアの方を見ると、こちらは足を潰されて膝をついたゴブリンジェネラルの頭をメイスで殴っているところだった。もう終わりそうだな。
特に問題も無さそうなので、俺も剣の鍛錬を終了すべく、ゴブリンジェネラルの攻撃を切り返して斬り捨てた。
中ボスで得られたドロップアイテムは魔石と鉄製の大剣だった。武器も残ることがあるんだな。そして中ボスだからって宝石が出ることは無かった。どうやら宝石が出る確率はかなり低いらしい。
大広間を出ると、5階層よりも広い部屋に出た。下の階層に降りる階段と、転移魔法陣の設置されている部屋も隣にあるが、この部屋には多くのテントや携帯ルームが置かれている。
「結構な人がここで野営してるんですね」
フォノンが周囲を見回してから言った。
俺も周りを見回す。普通に女性冒険者も多くいるので、俺達のパーティが目立つってことも無さそうだな。
「俺達も野営の準備をするか」
「「「はい(了解)」」」
と言っても場所を決めて携帯ルームを置くだけなんだが。食事も調理済みの物を持ってきているので本当に何もすることが無い。
「特に何もすることないな」
リリーも同じことに気付いたみたいだ。
「道中では魔法の鍛錬は出来ないから、ここでやってもいいか?」
「それもそうだな。時間もあるし魔法の鍛錬をするか。但し、目立たないようにな」
時間もあるのでリリーの提案に乗ることにした。
「分かりました」
「目立たないようにってなると、思いっきり撃つことはできないですね」
フォノン、こんな密集地帯でそんなこと考えないでくれ。
「私は魔法と言っても生活魔法だから、あんまり目立つことはないな」
さて、俺も熟練度があんまり進んでない属性魔法でもするかな。
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