第3章 初めての体験です

第1話 ダンジョン都市ルクルス


「厄介事が片付いたのはいいが、やっとダンジョン都市に着いたという感慨深い想いが薄れたな」


 盗賊の引き渡しが済んでルクルスに戻って来たのだが、何と言うか、長い時間を掛けて目的地に着いた喜びに浸る前にUターンしたせいで、気持ちが盛り下がってしまった。


「確かにそうですが、これから実感することが出来るのではないでしょうか?」


 エレノアが気遣ってそんな風に言ってくれた。確かにダンジョンに入ったりしたら実感してくるのかな。


「人が多くて活気のある町なので楽しそうですよ」


 フォノンは厄介事など無かったかのように、顔をきょろきょろさせながら町の雰囲気を楽しんでいるようだ。気持ちはぶんぶん振られているしっぽが表現してくれている。


「ああ。私もダンジョンに入るのは初めてだから、今から楽しみだ」


 リリーの場合は町の活気は関係なく、ダンジョンが楽しみなだけだな。そこは俺も人の事は言えないか。



「まずは宿屋を決めてから情報屋、冒険者ギルド、商業ギルドの順番だな」


 情報屋というのは、色々な情報を商売のネタにしている職業だ。先程馬車の中で兵士から勧められた。情報屋に聞くというと御大層な話に聞こえるが、俺が聞く内容はダンジョンと武器屋についてだけだ。


「主殿。1ついいか?」


「ああ、何か問題でもあるのか?」


「商業ギルドに行って家を探すって話だったか?」


「そうだな。ここで活動する間は家を借りたほうが安そうだからな」


「先のことは分からないが、当面はダンジョンに入ってばかりで地上で生活する時間は短いから、宿屋で十分なんじゃないか? それに家を借りてもほとんど管理できないぞ」


 よく考えるとリリーの言う通りだな。この先どうなるのかは分からないが、現状は家を借りてもあまりメリットがない。


「確かにその通りだな。エレノア、どう思う?」


「ダンジョンに入る時間が長い場合ですと、家を借りる意味が少ないかもしれません。長い時間家を空けることにもなります」


「そうだよな。 …… 家を借りるのは一旦止めるか」


 やりたい事もあるので家は必要になってくるんだが、暫くはダンジョン生活だと思うから宿屋に泊ればいいか。



 宿屋についてはリサーチ済みだ。あんまり値段が高すぎないところで良さそうな所を聞いたのだが、比較的冒険者ギルドにもダンジョンにも近かった。というよりも冒険者が使うような宿屋はダンジョンに近いところに多いということだ。

 この町はダンジョンの周囲に防壁が築かれており、その周囲に冒険者ギルドを始めダンジョンに関わってくる店舗や宿屋が連なっているようだ。俺が関わりたくない領主館などはダンジョンからは離れている。



「いらっしゃいませ。お客様4名様ですか?」


「そうです。4人2泊でお願いします」


 たぶん兵士が教えてくれたのはここだと思うんだが、違ってても2泊だからあまり問題はないかな。

 案内された部屋はベッドが4つ並んで置いてあり、そのせいで部屋が狭く感じるぐらいの広さだ。1人1泊小銀貨4枚だからこんなものだろう。


「これからの予定だが、エレノアとフォノンで食料の調達を頼んでもいいか?」


「それは構いませんが、どの程度の日数分を購入すればよろしいでしょうか?」


「特に決まった期間は考えてなかったんだが、とりあえず30日分を頼めるか。今回は食材ではなく調理済みのものを買ってくれ。いつも調理できる状態とは限らないからな」


「分かりました」


「それと必要なものがあったら補充していいぞ」


「はい。全員分の日用品など考えてみます」


 こういう細かいところはエレノアに任せておけば問題ないだろう。


「俺とリリーで情報屋の方に行ってくる。全て終わったら冒険者ギルドで待ち合わせしよう」


 この組み合わせも定番になりつつあるな。食生活で役に立つメンバーと役に立たないメンバーだ。それは置いておいて、冒険者ギルドは宿屋に来るときに通ったので間違うこともないはずだ。



「主殿、この店で情報屋と会えるのか?」


「何か別の用事が無ければこの店にいるとは聞いているが、もしいなかったら別の日に出直すしかないだろうな」


 リリーと一緒に訪れたのはダンジョンの近くではあるが、少し奥に入ったところにある一軒の酒場だ。酒場と言ってもまだ明るい時間なのもあって人は少ない。店に入るとカウンターの向こう側に店主だと思われる人物がいるので聞いてみることにした。


「すみません。エール2つお願いします。あと、この店に行けば情報屋と会えると言われて来たのですが」


 店主はエールを2つ準備して渡しながら答えてくれた。


「あそこにいるのに聞いてみな」


 目線で教えてくれた先にはテーブル席に座っている1人の女性がいた。


「ありがとうございます」


 店主からエールを受け取ってから示されたテーブルへと移動する。



「え~と、門の兵士からここに来れば情報屋に会えると伺ってきたんですが」


「正解。私がその情報屋ね。あ、その丁寧な言い方止めてね。こっちまで堅苦しくなっちゃうから」


「そうか。分かった」


 目の前に座っている情報屋は、特に特徴がある容姿でもなく普通の妙齢な女性だ。なんで情報屋なんかしてるのか、と一瞬考えたが外面だけで判断はできないか。

 とりあえず目的の人物だったようなので、対面にリリーと2人で座る。


「聞きたい情報が有るんだが」


「そうよね。口説きに来たなんて言われたら驚くところだわ。で、何が聞きたいの? ちなみに領主様の行き付けの娼館とかだったら値段が高いわよ」


 いや、誰もそんな情報要らないんだが、それは本気なのか冗談なのか。


「俺が知りたいのはダンジョンについてだ」


「あら、あまりにも普通の内容ね。そんな情報だったら冒険者に聞けばタダで教えてくれるんじゃない?」


「そうだな。だが、その情報が正しいのかどうかが判断できない」


「なるほどね。まあいいわ。小銀貨2枚ってところかしら」


 情報屋に小銀貨2枚を渡すとダンジョンについて話し出した。


「このルクルスにはネオン、トオ、レフという3つのダンジョンがあるわ。何故その名前なのかについてはかなり昔からそう呼ばれていて、今では正しい情報は伝わっていないの」


 ネオンダンジョンは迷宮型、トオダンジョンは洞窟型、レフダンジョンはフィールド型と言われているらしい。それから各ダンジョンの到達階層や、どんなドロップアイテムがあるか、などなど意外と言っては申し訳ないが、しっかりとした情報を話してくれた。


「ネオンダンジョンとトオダンジョンについては、ダンジョン入口で売られている地図を購入しても問題ないわ。少なくとも地図に記載されている階層に間違いはないみたいよ」


 地図か。確かに迷宮型や洞窟型は地図があった方が便利だな。


「それとネオンダンジョンのことなんだけど、時々地図に載っていない罠が現れることがあるらしいの。どれぐらいの頻度で発生しているのかは分からないわ」


「分からない?」


「ええ。どうやら転移魔法陣の罠らしいの。伝わってきている話によると、その助かったパーティはたまたま低階層に飛ばされて無事だったらしいわ。でももし深層に飛ばされたパーティがあったとしても、普通に全滅したのか転移魔法陣で飛ばされて全滅したのか判断できないわ」


 確かにな。どうやって全滅したのかなんて分かるわけがない。


「何とも物騒な罠だな」


「そうね。でもこの話も昔の話だから、どこまで信憑性があるのかは分からないのよね。でも知っておいて損はない情報でしょ?」


「そうだな」


 だいたい聞きたい情報は聞けたかな。


「リリー。何か他に聞いておきたい内容はあるか?」


「いや、これ以上は実際に入ってみてからだな」


 確かに実際に入ってみないとな。


「あ、そうだ。この町で質の良い装備を買うとしたらどこの店がいい?」


「小銀貨1枚」


 対価は必要か。手のひらに小銀貨1枚載せてやる。


「場所を説明するより簡単に地図を書いて渡すわ」


 そう言って紙を取り出してから書きだした。


「この店なら問題ないと思うわ」


 紙を渡してもらいながら、もう聞きたい事がないか考えたが特に思い浮かばなかった。


「また何か聞きたいことが出来たら来ても平気か?」


「ええ、ここにいることが多いから、またお願いね」




 冒険者ギルドに向かいながら、今聞いたダンジョンの情報を思い出している。


「リリー。まず入るとしたらどのダンジョンがいい?」


「どこも楽しみだが、まずはネオンダンジョンかな」


 俺と一緒か。リリーほど鍛錬バカではないはずだが、思考が似通ってしまうのは一緒に生活しているからだろうか。


「俺もネオンダンジョンからだと思っていたが、エレノアとフォノンと合流してから相談する必要があるな」



 冒険者ギルドの中に入ると、王都のギルド以上に人が多かった。この時間でこの人数だと朝とか夕方はどれだけ混雑するのか。人の多さに驚いていると、エレノアとフォノンが近づいてきた。どうやら今回は俺達の方が遅かったようだな。


「2人とも待たせたな」


「いえ、私達も先程着いたところでした」


「ですです。ほとんど変わりません」


 エレノアだと少し待っていても言いそうだが、フォノンが言うなら同じぐらいだったんだろう。


「皆で受付に並んでダンジョンの入場許可を貰うか」


「「「はい(了解)」」」


 ギルド内の人数は多かったが、受付に用事がある人は少ないこともあって、そんなに待たされることもなかった。


「本日はどのようなご用件でしょうか?」


「パーティ全員のダンジョン入場許可が欲しいんですが」


「ダンジョンへの入場許可ですね。では全員のキューブをお預かりいたしますね」


 受付嬢に全員のキューブを渡すと、キューブを装置に載せて操作し始めた。


「シオンさんが6等級ですので入場許可は問題ありません。ダンジョンに入る際、入口にいる係官にキューブを渡してもらえれば入場は可能となります」


 キューブを返してもらいながら確認した。


「これでもうダンジョンに入れるんですか?」


「はい。いつでもご入場いただけます。あ、ちなみにですが、この入場許可はこのギルドが管理する3つのダンジョンのみとなりますので、別のダンジョンに入る場合は、そのダンジョンを管理するギルドに登録が必要となりますのでご注意ください」


 その地域のダンジョンごとに許可の登録が必要なんだな。




「これで明日からダンジョンに入れるんだな」


 リリーがうずうずしてるのが分かるな。


「エレノア。食料の方はどうだった?」


「はい。問題ありません。30日分は超える量を購入しております」


「そうか。じゃあ今日はゆっくりして、明日から入ってみるかな。ダンジョン」


 異世界に来たら行きたい場所の上位に入りそうなダンジョンに、とうとう入れるな。

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