第34話 峠道の厄介者


「朝風呂も気持ちがいいな」


「はい、とても」


「そうだな」


折角の豪華な風呂なので、起きた後に皆で入りに来た。


エレノアとリリーは俺の腕に触れながら寛いで湯に浸かっている。フォノンは反応が無いが、もしかして眠っているのだろうか。俺に背をもたれ掛からせて湯に浸かっているが、念のため背後から腰を支えている。フォノンは情事後、こんな風に体を密着させて甘えてくることがたまにある。


「ルクルスまでもう少しだな」


「そうですね。今日中には着けるのではないでしょうか」


「明日からダンジョンに入るのか?」


リリーが早速ダンジョンに入る気満々で聞いてきた。


「さすがに明日は入れないんじゃないか? 色々情報も必要だと思うし、それにどう生活していくか決めないといけないだろう」


「シオン様。そういえばルクルスでは住む場所をどうするのでしょうか?」


「それなんだよな。今日着いたら宿屋に泊まるとは思うが、その後は家を借りることが出来ないか?」


「それでは商業ギルドで良い物件がないか聞いてみますか」


「そうだな。そうしよう」


こういう事は俺よりエレノアが詳しそうだな。




朝も豪華な食事を食べた後に、ルクルスに向けて出発した。


昼までは平坦な道を進んでいたが少し先に山が見えてきた。たぶんこの山を越えるとルクルスが見えてくるのだろう。ロマナからの行程は基本は平坦な道ばかりだったので、山越えは鍛錬にはちょうど良い。


木々の間を切り開かれた道を進みながら、魔物の襲撃には気を付けている。ここはサムソンが言っていたような魔力溜まりの地域ではないため、そこまで魔物を警戒する必要はないが、どこにでも現れるのがゴブリンたち魔物だ。

気配感知にも気を配りながらリリーとエレノアの後を付いて走っていく。


ん?


「ちょっと止まってくれ」


気配感知に反応があった。たぶん人間と思われる反応が16人ほど。今現在、その気配から害意は受けていない。受けていないが・・・


「どうした? 魔物でもいたのか?」


リリーがすぐに聞いてきた。


「いや魔物じゃない。人間の反応が16人だ」


「つまり旅人ではない、16人ということか?」


「たぶんな。道を進んでる気配はなく、道沿いで動いていない反応だな」


「それは怪しいな」


リリーも俺と同じ意見みたいだな。


「それは盗賊なのでしょうか」


今の会話で見当が付いたのかエレノアが聞いてきた。


「はっきりした事は分からないが、この道を通り抜ければ分かるだろう・・・。回避するなら少し道を外れていくという選択もあるぞ」


俺も皆を危険に晒すのは本意じゃないから、少し遠回りしてもいいかもしれない。


「私はシオン様の決めたことには従います。ですが、もしこの先にいるのが盗賊で、私達で討伐できるようであれば、討伐したいと思います」


エレノアがここまで強行な意見を言ってくるとはな。


「何か理由があるのか?」


「・・・回避することによって私達は危険を避けることができるかもしれません。でも、もしその間に犠牲者が出たときに、その家族にまで被害が及びます。私はその可能性を見過ごすことができません」


う~ん、何か過去の経験なのかな。エレノアがそこまで思っているなら、反対するつもりもないけどな。


「主殿。私も盗賊退治は賛成だ。そんな卑怯な手で儲けようなどと考える輩は見逃せない」


こっちは何ともリリーらしいな。


「まあ2人がそこまでヤル気なら、俺も反対しないけどな。だが、もちろんだが誰も怪我しないように気を付けよう。フォノンもそれでいいか?」


「はい。もちろんです」


ヤルと決めたからには、しっかり考えないとな。




「まず作戦だが、ここから16人が潜んでいる辺りまで皆で歩いていく。もし、相手が何か言ってきたら対応はリリーに任せる」


「了解だ」


「俺は相手が盗賊と分かったら範囲魔法で攻撃する。そのための準備は少し必要だが。フォノンは、もし弓を使う敵がいた場合のためにウィンドウォールを発動できるように準備してくれ」


「はい」


「エレノアとリリーは漏れた敵を頼む」


「「はい(分かった)」


「じゃあ用心して行こうか」



ゆっくりと道を進んでいく。

どうやら相手もこちらに気付いたようだ。隠れているがこちらを認識した途端、しっかり害意を持ったことが分かった。


そして俺達が通り掛かろうとしたところで道に出てきた。


「おい、止まれ。殺されたくなかったら大人しくするんだな」


ニヤニヤ笑いながら12人が出てきた。隠れているのは4人か。あれは弓持ちと想定するか。敵が位置についたようなので、魔法の準備を始める。


「お前たちは盗賊か?」


「そうだ。おお、なんかスゲー綺麗な女じゃないか」


「3人ともえらい別嬪だぞ」


「これは上玉だ」


3人を見て、盗賊たちが騒いでいる。いい具合に時間稼ぎさせてくれてるな。


「そうか」


リリーが獰猛に笑った。


「⦅ニードル⦆」


「ウィンドウォール」


12人に向けて魔法を発動させるのに合わせて、フォノンがウィンドウォールで防御してくれた。


「ぎゃー」「ぐはっ」「足がっ」


ニードルに足を貫かれた者は激痛に悲鳴を上げた。


「おい、魔法使いがいるぞ。射殺せ」


どうやらニードルから逃れたものがいるみたいだな。見ると3人が近寄ってきているが、エレノアとリリーが立ち塞がっている。


指示された弓持ちはすぐに矢を放ってきたが、全てウィンドウォールに阻まれている。


「フォノン、2人の援護を頼む」


「⦅クイック⦆」


そう声をかけてから、4人が隠れている辺りに飛び込んでいった。

いきなり現れた俺に対して、4人は弓を持ったまま何もできないでいた。待ってやるつもりもないので、素早く大剣を振り抜いて斬り捨てて行った。



道に出てくると、最後エレノアが相手をしていた敵に、フォノンのファイアランスが突き刺さってトドメを刺したところだった。




「3人とも怪我は無いか?」


「はい。シオン様」


「無傷です」


「大丈夫だ」


うん、問題ないようだな。


「あいつら、どうするかな」


戦いの中で倒してた敵はいいのだが、最初のニードルで行動不能にした敵は生きている。ある意味面倒な敵を残したな。


「一番簡単なのはここで殺すことだろうな」


リリーは率直に一番簡単な手段を提案してきた。俺も気持ちの面を除いたら、それが一番やりやすいとは思っている。


「シオン様がそれが嫌なのでしたら、そこに縛り上げてから、ルクルスに通報するのはどうでしょう?」


それも色々問題が有りそうだが、その消極案でいくか。


もうすぐ目の前が旅の終わりなのに、色々な事があるもんだな。

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