第32話 旅の続きの始まり
翌日目が覚めてから、この樹海での最後の朝食を食べながら今日の予定を話した。
「食べ終わったらすぐに樹海を離れることにする。鍛錬も王都までの移動でできるしな。走ることが」
3人とも俺がすることは理解していると思うので、そこで問題になることはない。
と思っていたらリリーが声を上げた。
「来るときと同様、背負い袋は私が持ってもいいんだろう?」
この綺麗な見た目とはかけ離れて、何だか脳筋に育ってきているのでは?と疑いたくなる発言だ。いや違うか。脳筋とは少し違って鍛錬バカというべきか。どっちにしろ容姿とのギャップが。まあ、俺はそんなリリーが好きだが。
「別にそれでもいいが、また途中でバテるんじゃないか?」
スキルの熟練度は上がってはいるがまだ途上だ。
「ああ、それまでは頑張る。その後は主殿に渡すから」
「了解」
リリーがそれでいいなら俺は文句はない。
「話が途中だったな。王都に着いてからギルドで依頼の報告をした後、すぐにルクルスに向かおうと思う。携帯ルームがあるから野営も思ったより快適だしな」
「そうですね。食材も15日分以上残ってますから問題ありません」
エレノアが大丈夫というなら問題ないだろう。
「私、携帯ルームでみんなで固まって寝るの好きです。ほんとに家族で一緒に寝ている感じが嬉しいです」
フォノンが明るい表情で話してきた。携帯ルームは仲が良い者達にとっては過ごしやすい空間だよな。これが仲が悪い者だったり、男だけのパーティだったら違ってくるのかもしれないが。
「私も王都に留まる必要性は感じないな。当然走って先に進むんだろう?」
「ああ、行けるところまで走って野営する流れだな」
「それなら特に問題ない」
リリーも了承してきたので予定通り行けそうだな。
一旦、王都までの道がある場所まで戻ってくると、相変わらず冒険者が野営しているのか、少なくない数のテントが張ってあった。
皆、よくこんな近くで野営できるな。俺たちみたいなトラブルは起きないんだろうか。いや、普通の冒険者はちゃんと目的を忘れないのだろう。あの冒険者達が特殊だったんだと思いたい。
長く世話になった樹海を背に少しずつ走り出した。
道中はエレノアとリリーが競うように快調に飛ばした。俺とフォノンは魔法を発動させながら、2人に遅れないように付いていった。俺はともかくフォノンの持久力に驚かされる。まだ体力強化が☆0のはずなのだが、この状態でエレノアとリリーに付いていけるのだから。これが獣人の潜在能力なのか。
途中、予想通りリリーがバテた時点で休憩してから、それからは俺が重しを背負って走った。
◇ ◇ ◇
王都に着いて早速ギルドに報告を済ませることにした。
「こんにちは。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「こんにちは。常時依頼の報告に来ました。ただ、少し数が多いんですけど・・・」
「どれぐらいでしょうか」
「そうですね、たぶん魔石が500以上はあるかと」
「5、500ですか??」
「はい」
「すみません。お聞きしたいのですが、魔物が大量発生したという話ではないのですね?」
受付嬢の声が少し緊張したものになった。これは正直に話すのは目を付けられるフラグかもしれない。
「いえ、三月ぐらい遠征した分の合計ですね」
「そうですか」
少し安心したように言った。
「では、こちらまでお願いします」
皆で受付嬢に付いて歩き出した。3人は思うところが有るのか無いのか分からないが、特に口を出すこともなく黙っていてくれた。
案内された部屋に入ってから、指示された机の上に今回の遠征で貯めた魔石を全て置いた。多いな。全部載りきったけど山盛りだ。
「あの~、できればこんなに貯める前に報告に来てもらえると助かるんですが」
受付嬢からはジト目を向けられながら、恨みがましい声で言われた。
「すみません。今後気を付けます」
「私1人では処理しきれませんので、応援を呼んできます」
「ご迷惑をお掛けします」
本当に受付嬢さんには申しわけないです。
「シオン様。三月と言われたのは力量を知られたくなかったからですか?」
エレノアが受付嬢が出て行ったタイミングで聞いてきた。
「そうだ。本当のことを言っても何も問題ないかもしれないが、もしかして大袈裟な話になったら面倒だからな」
ひょっとしたら、これぐらいの報告問題無い可能性もある。世の中には上には上がいるからな。
暫く待つと、受付嬢は3人の助っ人を連れて戻ってきた。
「うわ~。これは凄いですね」
「確かに1人では無理ですね」
「早速処理していきましょう」
4人がかりでも全ての魔石を調べ終るのに1時間近くが掛かった。すみません、本当に申し訳ないです。
途中から俺達だけ何もしないでぼ~っとしてるのが居た堪れなくなってきていた。
「全部でゴブリンの魔石618個、オークの魔石751個、オークの魔石の中に上位種のものが3つほど有りました。合計で大金貨3枚、小金貨5枚、大銀貨5枚、小銀貨7枚となります。よろしいですか?」
あ、フォレストスネークを忘れてた。
「すみません。フォレストスネークが1体丸ごと残ってました」
俺が言った途端、一瞬、受付嬢の表情が消えた気がした。その後、作り笑いっぽいものを浮かべながら言った。
「そうですか。では解体場までお越しください」
黙って受付嬢に付いて行き、フォレストスネークを丸ごと納品した。
「えー、全部で合計大金貨3枚、小金貨5枚、大銀貨7枚、小銀貨7枚となります。これで問題はありますか?」
「いえ、ございません」
最後は怒り全開な感じで言われて怖かった。さっさとギルドを出よう。
「あ、シオンさん、エレノアさん、フォノンさん、リリーさん、お待ちください」
え、まだ何かあるのか?
「「「「はい」」」」
「全員ランクアップでした。すみませんが処理をしますので、もう一度キューブをお出しください」
ランクアップか良かった。何を言われるのかと思った。
今回の依頼報告で俺が6等級、エレノアとフォノンとリリーが8等級となった。リリーは冒険者登録が一番遅かったのだが、一気に2人に追いついたことになる。まあ、今回ので三月分だと言っても違和感ないぐらいに報告したからな。
ギルドでの用事が終わったので外に出ようと思ったのだが、途中で見た顔に止められた。
「よう、久しぶり」
「久しぶりだな。こんな時間にギルドで遊んでていいのか?」
「遊んでねぇーよ。メンバーの待ち合わせだ」
王都に来た時以来になるサムソンだ。
「おい。なんか見ないうちに女が増えてるんじゃないか」
「ああ、パーティメンバーが増えた」
「もしかして、奴」
「サムソン、ここは邪魔だから端っこで話そうか」
人の多いところでいきなり人のパーティメンバーの事を話そうとしたサムソンを、無理やり人のいないテーブルへと引っ張っていった。
「なんだよ。あんまり奴隷のこと知られたくないのか?」
「ああ、俺は奴隷って喧伝するつもりはない。あくまで大事なパーティメンバーだ」
「そうだな。世の中にはコレクションみたいに奴隷を連れ歩いているヤツもいるからな。まあ、その話はいいか」
サムソンは別に奴隷だからと偏見は持って無さそうだ。すぐに別の話題に移っていった。
「ところで行ったんだろう、西の湖。どうだった?」
「なかなか良い狩場だった。情報ありがとう」
「そうだろう、そうだろう。お前に合うと思って勧めたからな」
「オーガはまだ無理だって分かったけどな」
「お前そんな奥の方まで入ってたのか? それはやらなくて正解だぞ。この王都でもオーガをやれるパーティなんて限られるからな」
ああ、やっぱり。それぐらい強いんだな、オーガ。
「で、また湖行くのか?」
「いや、俺達は今日で王都を出る予定だ」
「そうなのか。あっ、そういえばダンジョン都市に行くんだったか?」
「そうだ」
「いいよな、ダンジョン都市。俺達も行きたいんだけどな」
「パーティで行けばいいじゃないか」
「いや、奥さんが遠征は許してくれなくてな・・・」
奥さん!!
「お前結婚してたのか?!」
「なんだよ。俺が結婚してたら悪いか?」
「いや、別にそんなことはないが」
人柄的には悪い人間じゃないから結婚しててもおかしくはないのか。
「まあ気を付けていけよ、ダンジョン都市。冒険者続けていればまた会うこともあるだろうよ」
「ああ、お互い死なないようにな」
「そうだな」
サムソンは仲間待ちみたいでギルドに残るようだ。俺達はギルドを後にした。
「何だか面白そうなヤツだったな」
「そうですね」
初めて会った、リリーとフォノンの感想がそれだった。確かに話してて楽しいし、悪い人間ではない。
サムソンに会ったのは驚いたが、これで王都での用事も終わったな。後はダンジョン都市に向けて走るだけだな。
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