第30話 樹海探索(6)


朝食を食べ終わって、食休みに昨日のことに触れた。


「樹海も昨日ぐらい奥に入るとオークの上位種が出てくるんだな」


「そうですね。ギルドでの話ですと、ここの湖付近にはドラゴンも出たことがあるそうです」


エレノアが恐ろしい情報を伝えてきた。

何? ドラゴン?


「そんな情報があったのか?」


「はい。但し、昔に冒険者が報告してきた話で、未確認情報ということで信憑性は低いそうです」


そうだよな。そんなのが確かな情報だったら冒険者は来ないよな。いや、逆に無謀な者は来る可能性があるのか。


「湖へは行くだけでも大変ですので、あまり情報は多くないそうです。もし本当に出現するのでしたら、たぶんギルドの方で進入禁止を言い渡すかもしれません」


「ギルドもよくそんな不確かな情報を伝えるな」


「それぐらいの危険がある場所だ、と注意喚起の意味ではないでしょうか?」


「なるほどな」


そういえば無駄に冒険者を減らさないために、魔物討伐制限を掛ける取組をしていたな。そういう規則以外でも手を打ってそうだよな。


あ、なんか話が逸れたが今はドラゴンはどうでもいい。


「昨日みたいに上位種3体が混じった集団だと少し厄介だな」


改めて昨日の話に戻した。


「確かに3体は大変だが昨日の場合はまだ恵まれていたと思うな」


リリーが少し考えてから答えてきた。


「そうなのか?」


「ああ。一般的な考えだが上位種が3体もいるような集団が全部で10体というのは少ないと思った。これは推測になるんだが、その前に遭遇した11体の集団も同じ集団だったんじゃないかな。何らかの理由で少し別々に行動していたとか」


リリーの推測を聞いて少し考えた。そういえば10体の集団は、迷うことなく俺たちに向かってきたんだったな。走って。俺は前にもグラスウルフであったように、聴覚が優れてたりして気付かれたのかと思ってたんだが、そっちの可能性もあるのか。


「ひょっとしたら運が良かったのか。もし21体の集団が一気に来られたらヤバかったな」


「これはあくまで推測だけどな」


リリーはそう言うがかなり的を得た推測だと思う。まあ気配感知があるから、もし21体を捕捉したら間違いなく逃げるがな。




今日の鍛錬の前にはエレノアの 魔力回復速度向上が★1に上がっていることが分かった。前日の鍛錬中に上がったそうだが、そのまま鍛錬を続行したようだ。



ステータス

================


名前  エレノア

種族  人間

年齢  20


スキル

 戦闘 短剣術☆0 ( 0.01 )

    槌術☆0 ( 0.58 ) △0.03

    盾術☆0 ( 0.50 ) △0.01


 身体 体力強化☆0 ( 0.81 ) △0.03

    頑健強化☆0 ( 0.86 ) △0.05

    筋力強化☆0 ( 0.73 ) △0.02

    器用強化☆0 ( 0.60 ) △0.03

    敏捷強化☆0 ( 0.75 ) △0.03

    魔力強化☆0 ( 0.84 ) △0.02

    魔抗強化☆0 ( 0.38 ) △0.04


 特殊 料理★2 ( 0.20 )

    調合☆0 ( 0.00 )

    良否判定☆0 ( 0.55 ) △0.02

    真偽判定☆0 ( 0.55 ) △0.02

    気配希薄☆0 ( 0.39 ) △0.02

    解体☆0 ( 0.69 ) △0.02

    魔法威力☆0 ( 0.00 )

    魔力回復速度向上★1 ( 0.00 ) △0.03

    魔力視☆0 ( 0.30 ) △0.04


魔法  生活魔法☆0 ( 0.89 ) △0.03

    時空魔法☆0 ( 0.67 ) △0.02


加護  生体掌握網 (スレーブ動作中)

    成長促進 (スレーブ動作中)


================



フォノンに続いて最初に同じスキルが上がったのを考えると、鍛錬で魔法を限界まで使っては休憩して、また魔力が溜まったら使ってを繰り返したのが効果的だったようだ。実際に鍛錬の時も狩りの時も、魔力の回復速度は早いらしく、実感できるぐらいには効果があるスキルらしい。まだ俺が★1になっていないのでよく分からないが。



◇ ◇ ◇



8体のオークの集団に土魔法のバレット5発を放った。結果は辛うじて3体を倒すことに成功したが、残りの2発は空を切った。これも命中精度を鍛えるためと複数相手に魔法を撃っているが、なかなか計画通りにはいかない。複数相手への魔法での攻撃は、今のところ先制攻撃でしか使えない。もし混戦している時に使おうものなら、味方に命中する危険性が高い。


フォノンはファイアランスを撃って1体を確実に倒している。フォノンもそのうち複数相手への魔法攻撃を出来るようになると思うが、まだ実戦では使えるレベルにはなっていない。



残りの4体が襲い掛かってきたが、エレノアとリリーが壁となり攻勢を防いでいる。2人も無理に攻めることはせず、回避したり受け流したりで4体を完全にいなしている。すぐに前線に出て一緒に抑えなくても平気そうだな。


フォノンと一緒にその場に残り魔力を込めて魔法を発動する準備をする。


「⦅ファイアランス⦆」


「ファイアランス」


同時に撃たれた2本の魔法の矢は正確にオーク2体の頭に突き刺さった。エレノアとリリーの2人は残り2体となったことから、守りから攻めへと変えていった。




「ん? これ何だ?」


オークを求めて探索しながら気配を探っていた俺は、オークとは違う1体の気配を捉えた。


「どうした?」


リリーが俺の声を聞いて尋ねてきた。


「この先に何かの気配を捉えたんだが、初めて感じる気配だ」


「強さはどうだ?」


「そうだな。オークの上位種ぐらいには強いと思うんだが、1体だけなんだよな」


「オーガでしょうか?」


エレノアも気になったのか聞いてきた。


「話に聞く感じだとオーガはもっと強いということだからな。オークの上位種より確実にオーガの方が強いらしい」


何か分からないのは怖いこともあるが、1体だから平気か。


「上位種並と言っても1体だ。平気だと思うが一応注意を払ってくれ」


「「「はい(了解)」」」



慎重に進みながら気配感知で注視しているが、位置はまったく動いていない。何だろうな?

ゆっくりと進んでいるが、そろそろ視界に入ってもいいはずなのに、まったく見えてこない。3人に目線で注意するように語り掛けつつ、更に先に進む。


おかしい。もう完全に視界内に来ているはずなのに姿が見えない。もしかして下か上か? と上を見上げた途端に、緑色の塊が降ってきた。


「避けろ!」


自ら横に飛びながら警告の声を発した。

幸い一番近かったのが俺だったのもあって、誰も今の攻撃を喰らう者はいなかった。


体勢を整えてから今降ってきた敵を見る。鎌首を持ちあげた高さは優に俺の背丈を超えている。たぶん胴の太さも俺より太いだろう。さすが異世界だな。こんなデカイ蛇を見ることが出来るとは。

これはギルドの掲示板にも載っていたフォレストスネークというやつか。あんまり出現数は多くないから参考程度にしか見てなかったんだが。


大剣をフォレストスネークに向けつつ牽制している。これまでの魔物の中で一番やりにくい相手かもしれない。想像しただけで、どう動いてくるのか読めないからだ。


この膠着状態は好都合なので、そのまま動かないでくれよ、と心の中で思いながら魔力を込め始める。すると魔法の気配に気付いたのか、凄い勢いで噛みついてきた。あまりの速さに何とか大剣で防ぐことが出来たが、そのまま後ろに吹き飛ばされた。追撃を喰らいそうになるが、エレノアとリリーが横から攻撃を仕掛けて気を逸らしてくれた。


「攻撃がかなり速い。注意してくれ」


「「「はい(ああ)」」」


これは近接より魔法の方が糸口があるかもしれない。同じことを思ったのかフォノンが魔法の準備を始めた。すると俺の時と同じように、フォレストスネークはその長い尻尾を利用してフォノンに叩きつけた。完全に魔法に集中していたフォノンは無防備に叩きつけられた。


「フォノン!」


俺は急いでフォノンの元に駆け付ける。何とか起き上がった姿を見て安心しつつヒールを掛ける。


「大丈夫か?」


「はい、ありがとうございます。痛みが取れました」


「あいつは体が長い分、攻撃範囲が広い。もう少し離れるようにしてから攻撃してくれ」


「分かりました」


フォノンは大丈夫そうなので戦線に復帰するべく走って戻った。その間もエレノアとリリーは攻めあぐねているが、守りに徹して戦線を支えている。


俺もフォノンも魔法の準備をしていると狙われた。何か魔法を感知するようなスキルでも持っているのか? それでもやるしか無いんだが。


攻撃されるのを覚悟して、魔法の準備を始める。案の定、フォレストスネークの顔が俺の方を向いて鎌首を持ち上げようとした。しかし、それをチャンスと見て、エレノアは顔面をメイスで殴り、リリーは喉元に剣を突き刺した。

フォレストスネークは痛みから逃れるように首を持ちあげた。


「ファイアボール」


持ちあげた首に向かってフォノンは火魔法を叩きつけた。苦しいのか叫ぶように大きな口を開いて身をよじっている。少し狙いにくいがタイミングを合わせる。


”アースランス”


放った大きな石槍は、フォレストスネークの口内に突き刺さった。暫く大暴れを続けていた体も、力を失い横たわった。


「皆、お疲れさま」


集まってきた全員を見ながら言った。本当にお疲れさまだった。


「大変でした」


実感のこもった声でフォノンが言った。


「戦いにくい相手でしたね」


「ああ、こんなにやりにくいとは思わなかった」


前線を支えてくれた2人も、攻撃の糸口がなかなか無さそうだったからな。


「あんまり数はいないと言われているが、厄介な相手だったな。さすが魔力溜まりにある樹海だ」


こんな厄介な敵にはあんまり遭遇したくないな。ただ、フォレストスネークの素材はなかなか良い値段だったような気もする。はっきり覚えてないので、そのままマジックバッグに入れて持って帰るか。

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