第27話 不本意な戦闘


携帯ルーム内は閉めると灯りが漏れることはないと思うが、念のため光度を落としてライトをつけた。


「シオン様、敵襲ですか?」


「何が近寄って来てるんだ?」


エレノアとリリーがライトをつけるとすぐに異変に気付いて起き上がった。フォノンを見ると可愛い表情でぐっすり寝ている。大丈夫だと思うからフォノンはこのまま寝かせておこうかな・・・


「フォノン、緊急事態です。起きなさい」


そんなフォノンに気付いたエレノアが揺すりながら起こしにかかる。フォノンは寝惚け眼で欠伸をしながら起きた。


「もう朝ですか?」


まだ十分に目覚めていないのか、そんなことを言ってきた。


「フォノン、敵襲だ。悪いが起きてくれ」


3人を危険に晒すつもりは毛頭ないが、万に一つの可能性もあるのでやっぱり用心させておくのが良いだろう。


「! はい、すみません。起きます」


やっと目が覚めたみたいで今度はちゃんと返事をしてきた。



「気配感知で害意ある人物を5人捉えた。可能性としてはたぶんこの前の冒険者だ。まだ少し距離はあるが、ゆっくりしている時間はない。敵が近づく前に準備して、魔法で身動きできないようにしたい」


「分かりました」


「私達は備えておけばいいのだな?」


「ああ。ここに辿り着かせるつもりはないが、どんな状況になっても対処できるように備えておいてくれると助かる」


「「はい」」


「分かった」


「じゃあ時間も無いし、なるべく音を出さないように外に出るぞ」


それからライトを消してから、ドアを開けて外に出た。

外は薄曇りのおかげか、目が慣れて来ても少し先しか見えない。この中でどうやって進んでくるんだ?と少し疑問を持ったが、気配の方向を見て分かった。分かりにくい様に工夫しているのかもしれないが、薄っすらと灯りが漏れている。あいつ等、そんな計画性も無く襲撃してきたのか・・・

もしかして襲撃してくるまで時間が掛かったのは、俺たちが野営しているのを偵察していたのか? それで不寝番はいないから少々灯りをつけていてもバレないと思ったとか。まあ推測が当たったとしても何の意味もないから別にいいが。



理由が何にしろ、はっきり言ってこの状態で灯りをつけているのはカモだ。俺は慎重に歩を進めながら、5人が進んでくる方向に向かった。

気配感知から、敵5人、エレノア、フォノン、リリーの位置を把握する。そして今回は時間に余裕があるので、ゆっくりと、だがしっかりと魔力を込めていく。失敗が無いように。


暫くすると聖域が砕けるとともにビリっとした信号が来る。こんな時にどうでもいいことだが、もしかしてこれって電気信号みたいなものなのか? 俺がこれをイメージによって何となく魔法を作って、それによって雷魔法が取得できた? 

いや今は本当にどうでもいいことだな。


さて始めるか。足元を水平に飛ぶイメージで。


「⦅カッター⦆」


発動した風魔法は、標的となった灯りに向かって、何枚もの透明な刃となって駆け抜けた。


「ぎゃー」


「足がぁぁぁ」


「痛ぇよ~」


「ぐぐぐっ」


「ぐぅぅ。何が起こったっ?」


俺は用心して大剣を構えながら近くまで行き、5人の頭上にライトをつけてやる。そして見えてきた惨状は、想像した通りとなっていた。足を何ヵ所も斬られて真っ赤に染まった者、手や足が切断された者。5人に共通して言えるのは、無事な者は無く満足に立てる状態ではなかった。


「ううっ。お、お前の仕業かっ」


俺の接近に気付いた、あの時ニヤニヤしながら仲裁してきた男が言った。


「ああ、正解だ。なんでこんなバカげたことをしようとしたんだ?」


聞いても仕方ないが、何となく聞いてみた。


「な、何を言っているっ。こんな事をしてただで済むと思うなよ」


「そ、そうだ。絶対にギルドに報告して、捕らえてもらうからな。この犯罪者めっ」


「今更後悔しても遅いぞっ。うぅぅ」


やはり意味がなかった。それに話を聞いてるだけでイライラしてくるな。


「主殿、まさか情けを掛けたりはしないだろう? もし躊躇いがあるなら私が代わりにトドメを刺すが」


リリーが心配して言ってきた。


「シオン様、聞いた通り反省する気もないようです。このまま放置するのも害にしかなりません」


エレノアまで気に掛けてくれたけど、別に悩んでいたわけじゃあない。


「2人とも安心してくれ。別に始末をつけることに悩んでいたわけじゃない。ただ無駄な事を聞いてしまったな、と考え込んでしまっただけだ。問題ないから3人とも黙って見ていてくれ」


フォノンまで杖を構えていたので、3人にそのまま手出ししないように言った。別に3人に手を汚してほしくないみたいな事を考えているわけではない。そんなこと今更だからな。


「お、おい。助けてくれるなら、罪にならないように言ってやるぞ」


「俺もだ。バカな考えは止めろ」


俺たちの会話を聞いて、ようやく自分達の立場に気付いたようだ。今更に自分達が命の瀬戸際に立っていることを理解したようだが、バカな考えを持って襲撃してきた時点で詰んでいた。


5人全員を覆うようにイメージして魔力を込めていく。


「⦅ウォーターボール⦆」


大きいスライムみたいな水の塊は、5人を覆って閉じ込めた。息が出来る場所に逃げようにも体が動かない5人は、そのまま全員が溺れ死んだ。斬ったり潰されたりよりは見た目にマシかと思って水魔法を使ったが、これはこれで残酷だったかもしれない。3人が見てる前だったこともあって、少し反省した。



3人は手伝うと言ってくれたが、後始末は全部自分でやった。女性に任せるような仕事じゃないし、俺が始末をつけたんだから、やっぱり俺がやらないといけないと思ってしまった。


気配感知で安全を確認しながら、樹海の中に死体を運んで行った。なんとなくマジックバッグには入れたくなかったので、手で運ぶことになってしまい3往復も掛かってしまった。


運ぶ間、色々な事を考えながら歩いた。この5人は何で冒険者として狩りに来たのにバカな考えを持ってしまったのか。俺は夜になんでこんな事をしなくてはいけないのか。今の気持ちは課長の失敗を押し付けられて1人残業をしている時の気持ちだろうか。それとも、ゲームで 0.02%の経験値を稼ぎ終った後にラグのせいで死んでデスペナで 0.05%失ってまた経験値稼ぎをやり直した時の気持ちだろうか。

ダメだ。後悔はしていないが気持ちが落ち込んできて、意味の分からないことを考えている。

別にここまでしてやる義理もないが、土魔法で穴を掘った後に5人の死体を埋めた。




携帯ルームに戻ると3人が待っていてくれた。


「別に待っていなくて寝てても良かったんだぞ」


奴隷だし主を残して寝ることはできないか。そんなことを思っていると、エレノアが抱きしめてきて熱い口づけをしてきた。フォノンとリリーは服を脱いでから、俺を脱がし始めた。さすがに狩りに来てこんな危険なところでするつもりは無かったのだが、そのまま3人の気持ちに流された。

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