第26話 樹海探索(4)


昨日は念のため聖域を今までの倍に範囲を広げて用心していたが、特に何も起こらなかったみたいだ。

朝食を食べながら今後最悪の事態になった場合の事を話してみた。


「もし昨日の冒険者達が襲ってきた場合だが」


「ん? もちろん撃退して襲って来たことを後悔できないようにしてやるつもりだが」


「もちろんですね。私達を襲ってくるのは愚かしい事ですから、一瞬ではあると思いますがしっかり反省してもらいましょう」


「ですです。私の魔法の標的になってもらいます」


いや、俺ももちろん容赦するつもりは無いが、もしかして忌避していたりしてと一瞬でも心配したのが無意味だったな。


「皆が異論がないなら、襲ってきた場合は手加減無しで撃退する。問題はないだろうがなるべく怪我をしないように遠距離で仕留められると安心だがな」


「もちろん異論はありません。例え接近されたとしても負けるつもりはありません」


「ああ、私とエレノアで抑えてみせよう」


「私も火魔法で焼き尽くします」


3人とも勇ましいな。その気持ちは嬉しいんだが、俺としてはなるべく近寄らせたくないんだよな。過保護と言われても。


「3人とも頼もしいと思っているが、できるだけ危険がないようにしよう」


「「「はい(ああ)」」」


不安なことも増えたが、ここへは鍛錬のために来たので朝はじっくりと魔法と強化スキル上げを行った。




「前方にオークが4体だ。俺とフォノンで1体ずつ先制で倒すので、残り2体はエレノアとリリーで対処してみてくれ。フォノン、先制で倒した後はリリーの方のフォローを。俺はエレノアのフォローをする」


「お任せください」


「分かりました」


「了解だ」


ゴブリンのエリアを短い時間で倒して通り過ぎた後、引き続きオークエリアで狩りをしている。エレノアとリリーの鍛錬の意味もあるので、4体までの集団の場合、意図して2体残すようにしている。それでも事故は怖いので、俺とフォノンはフォローできる準備はしているが。


魔法の射程範囲に入ったところで、フォノンに手で合図を送った。もう既に何度目になるか分からないぐらい回数を重ねてきたので、それだけでフォノンも理解してくれる。


「《ウィンドランス⦆」


「ファイアランス」


それぞれの放った魔法の槍はオークの顔を貫き、一瞬でその巨体から力を奪った。


「2人とも気を付けてな」


「「はい(ああ)」」


俺は自分がフォローするエレノアの動きに注意する。


エレノアは棍棒の一撃を、素早く避けた後に後ろに回り込むことで死角から右膝を集中して殴っている。エレノアもリリーを参考にしたのか無理せずに一撃離脱を心掛けているが、最初の頃にように連続して攻撃されて少し危険になることが少なくなった。今みたいな感じで大振りな棍棒の動きを利用して死角を狙うことが多くなった。一応俺もフォローできるように準備しているが、無駄になることも多い。


一応警戒はしているが、横目でリリーの方の確認もする。

リリーは当然ながら一撃離脱で簡単にオークを削っているが、時々わざと棍棒の一撃を盾で受けたり、受け流している。どうやら状況的に余裕がある場合は、今回の目的の鍛錬というのは意識して、実戦でもそれをやっているみたいだ。本当に俺と一緒で鍛錬好きだな。


エレノアは今回も問題なくオークの右膝を壊して、堪らず屈んだところを渾身のメイスの一撃で頭を殴った。容赦なく何度も殴られた頭は陥没して、そのまま倒れ込んだ。

武器変更しようかどうか考えていたが問題なさそうだな。ただ、まだ先の話だが、武器の更新はエレノアだけじゃなく全員、考えていこうとは思っている。


2人のそんな姿に触発された俺は、次に遭遇した1体の時には任せてもらった。


俺も基本は攻撃を避けてから足を潰して倒す戦法なんだが、今回は積極的に行くことにする。棍棒を振り下ろしてきたのを見て、その攻撃を避けつつ棍棒を持つ手に大剣の一撃をお見舞いした。手を切断することは出来ていないが、骨が折れたのか棍棒を手放したのを見て、そのまま続けて右膝に一撃を入れる。オークが何か喚きながら倒れてきたので、ちょうど攻撃しやすい位置にきた首に大剣を叩き込んだ。



「主殿、早業だったな」


リリーが笑いながら言ってきた。


「あっという間でしたね。魔法でフォローしようとする間も無かったです」


フォノンも笑っている。


「シオン様、大変凛々しいお姿でした」


エレノアも笑顔で褒めてきた。フォノンはともかくエレノアがこんなこと言うのは珍しいな。別にそこまで褒められるレベルには達していないと思うんだが、これも身内だから評価が甘くなっているんだろうか。



今日も順調にオークとゴブリンを倒し終えてから帰還した。

まだ、そんなに奥までは入っていないこともあって遭遇するオークは10体未満の集団だ。ゴブリンと同じく、オークにも上位種がいるらしいので、今後もっと大きな集団になると簡単には狩れないだろうとは思っている。



◇ ◇ ◇



翌日も特に問題なく鍛錬とオーク狩りを終えて戻ってきた。

夕食を食べながら今後の予定を話し合っている。


「オークとの戦闘も結構慣れてきて、今遭遇しているぐらいの規模だったら特に問題もないが、この先、奥に進むかどうかだな」


「そうですね。今ぐらいだと危険は少ないとは思います」


エレノアも現状を分析して言ってきた。


「安全に鍛錬できているというのは良いことだが、一段更に鍛えたいなら奥に進むのも一つの手としてはあるな。実戦は何よりの鍛錬になる」


そこなんだよな。安全に鍛錬することによって少しずつ鍛えられていることも事実だけど、その先に行きたいなら難易度を上げるべきなんだよな。これがゲームだったら、何の迷いもなく強い狩場に進んでいけるんだが、現実で自分の命が掛かっていると考えると躊躇するのは当然だな。


「いきなり進んで行かずに、少しずつ様子を見るだけじゃだめなんですか?」


フォノンが可愛く獣耳を傾けながら言った。


「まあ最初はフォノンのいう通り、少し進んで様子見になるだろうな」


結局は白黒つけずに話を終えた。



携帯ルームの中で3人に囲まれながら眠りに就いていると、何かが知らせるように突然目が覚めた。似たようなことが前にもあったな。急いで気配感知で調べてみると、まだ感知範囲のギリギリのところに害意のある気配が5人居ることに気付く。そう5体ではなく5人だ。


気配感知が害意の有る無しも分かるようになっているのは知っていたが、人間に対しても害意が分かると検証できたことは良い事なのか悪い事なのか。その事を考えるのは今は置いておこう。


予想が当たったと言うべきか、襲撃が遅かったと言うべきか、これは例の数日前に遭遇した冒険者の気配だ。

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