第25話 樹海探索(3)
イレギュラーな敵との戦闘を終えて、少し落ち着きたいとも思ったのでオークの出現エリアから少し離れたところまで戻った。もちろん気配感知は最優先で注視している。
「以前にも敵が仲間を呼ぶことがあったから驚かないが、オークの追加戦力というのはシャレにならないな」
「確かにな。しかし魔法で数を減らせていたから倒すことができたのも事実だ」
リリーはそう言ってくれたが、やはり正確に倒せなかったのが痛いな。1体が対象だったら魔法の命中もそこまで問題にならないのだが、2体以上になってくると命中精度の熟練度が低いこともあって、狙ったところからズレてしまう。
「だが、もう少し複数相手への魔法攻撃は鍛える必要があるな」
「私ももっと魔法を鍛えていきます」
フォノンも俺と同じように複数の魔法を同時に扱えるように鍛錬中だから今後に期待しよう。
「エレノアもいきなりだったが、何とか持たせてくれて助かった」
俺やリリーと違ってまだ★1のスキル無しの状態だから、このレベルの敵相手に持ちこたえてくれているのは、ある意味凄いとは思う。普通だと魔物討伐の制限が掛かってるはずだからな。
「武器での攻撃を避けて油断していたところに、まさか反対の手で殴られるとは思わなくて不覚でした。次はもっと上手に受けたいと思います」
「ああ、何にせよ命優先で頼む」
怖い思いをしたと思うんだが、気持ちが後ろ向きになっていないのはさすがだな。俺ももっと前向きに行こう。
全員がまだまだ気力十分なので、更に奥へと探索を進めた。
それから最初に気配感知が捉えたのは1体で移動している気配だ。
「この先に1体のオークがいるが・・・」
1体だとフォローもできるし、エレノアの練習にするかな。
「エレノアやってみるか? 残りのメンバーでフォローする準備はしながらだが」
「はい。お願いいたします」
大丈夫そうだな。
「リリー、危ない時のフォローを頼む。俺とフォノンでいつでも魔法で援護できるようにする」
「ああ、任せてくれ」
「分かりました」
全員の確認が終了したので、エレノアを前にして先に進んでいく。俺は他の邪魔が入らないか、常に気配感知に集中する。
そろそろ見えてくるはずだが。そう思っていると前方に厳つい姿のオークが見えた。昔からのイメージとはまるっきり違うよな。どうしてもブヨブヨの肉の塊をイメージしていたのが、体形はともかく全身筋肉の塊だからな。こいつを前にするとオーク詐欺だと思ってしまう。
「エレノア」
エレノアに声を掛けて頷いて送り出す。
「はい」
エレノアもこちらを見た後に頷いてから、オークに向かっていった。それを見てリリーは後に続き、俺は気配感知で探りながら、いつでもオークを牽制できるように魔力を込め始めた。
エレノアとリリーが歩きながら近づくとオークの方も気付き威嚇しながら走ってきた。
棍棒を叩きつけてきたのを、慎重に後ろに下がって避けて前に出ようとしたが、左手で殴ってきたのを見て更に後ろに下がって避けた。
エレノアのメイスはどうしてもリーチが短いから遠くからは攻撃しにくいんだよな。武器の更新をするかな。ただ、今のメイスが扱いやすいというのもあるし、今度要相談だな。
再度棍棒を振り下ろしてきたところを、今度は後ろではなく左側に避け、そのまま前進してから膝にメイスを叩きつけた。オークは短く叫びすぐに棍棒を振ってきたが、エレノアは深追いすることもなくオークから離れていた。
エレノアはそれからも何度も右足の膝を狙って攻撃を集中させた。それを嫌ってかオークは棍棒を振り回して近づけないようにしていたが、反対側からリリーが攻撃して注意を引くと、それに合わせて動いたエレノアの攻撃がついに膝を壊した。
オークは痛みに膝を抱え込んだところを、エレノアとリリーに殴られ斬られて何もできないうちに倒された。
「エレノア、やったな」
「ありがとうございます。シオン様。でもリリーの助けがなかったら難しかったですね」
「攻撃ではそうかもしれないが、オーク相手ということであれば十分じゃないか」
今のスキルの熟練度では十分な動きだと思うが。
「ああ、私もそう思うぞ」
「エレノアさん、かっこ良かったですよ」
「ありがとうございます」
オーク単体で遭遇したら良い鍛錬になるな。万が一失敗したとしても他のメンバーがフォロー出来る態勢を取っているし、かなりリスクを下げた実戦訓練だな。今後は俺とエレノアとリリーで順番に相手しよう。フォノンはさすがに無理だ。
そんなことを思って探索していると、次に遭遇したのは5体の集団だった。
「5体のオークの集団を見つけた。移動している方向を考えると、こちらに背中を向けて移動しているな」
「魔法撃ち放題ですね!」
フォノンがご機嫌な様子で言った。しっぽも激しく左右に揺れているのを見ると、すごく嬉しいらしい。
「先制時はそうかもしれないが、そのまま黙って魔法を受けてくれるほど愚かではないと思うぞ」
「では漏れたときのフォローをいたします」
「エレノアと同じく」
やることが決まったので、気配を殺しつつ5体のオークを追跡する。
とりあえず散弾みたいなイメージで足止めプラス行動阻害を狙うかな。今回の魔法のイメージを考えながら歩いて行った。
オーク5体の姿が確認できた時点で魔法をイメージ通りに発動するべく魔力を込めていく。まあ最悪気付かれてもすぐに撃てるように準備を急ごう。フォノンを見てみると同じく準備を始めたようなので、2人でどんどん近づいていく。
もうそろそろ射程範囲に入り始めたところで、後ろの2体がこちらを振り返った。
「フォノン」
「はい」
”バレット”
「ファイアランス」
俺が放った魔法は、全部で10個の弾丸っぽい石がオークの腰から下に襲い掛かっていった。5体のいずれもが足のどこかに命中して、無事に立てている個体はいない。
「主さま。私の魔法の意味がなかったです」
フォノンの撃った魔法は標的がズレたために、1体の肩口を貫いていた。それもあってフォノンからは恨みがましい声音で言われた。
「いや、今のは単なるマグレだ。まさか全弾当たるとは俺も予想しなかった」
魔法を撃つ大まかな方向しか定めてなかったので、これはウソじゃない。消化不良気味なフォノンに言い訳を言った。
「とりあえず私とリリーでトドメを刺しますか」
「そうしようか」
なんだか皆が意気込んでいたところを邪魔したような気分になるが、別に悪いことじゃないはずだ。
それからも単体に遭遇した場合は3人で順番に相手をして、複数の場合は魔法で先制して倒していった。複数の敵と言いつつも6体以上と出会うこともなく、増援を呼ばれたのも1回だけだった。エレノアが積極的にオークと対戦するようになってからは、俺が攻撃できる機会も増えて安定した戦果を出している。
思ったよりオークを狩れたんじゃないだろうか。マジックバッグを確認してみると31体のオークを倒していた。時間もいい感じだし、今日は戻ることにした。
◇ ◇ ◇
今日も来た道をそのまま戻っている。方向については双間方位魔器頼りだ。正直戦闘した後には、どっちに向いているのかさっぱり分からない。
樹海の浅瀬辺りに差し掛かったところで、魔物ではない気配を捉えた。
これは冒険者か?
「この先に冒険者らしき気配5人を見つけた。問題はないとは思うが、一応用心してくれ」
「「「はい(ああ)」」」
こそこそ避けて通るよりは、堂々と姿を見せたほうが怪しくないだろう。
そのまま進んでいくと、前方に冒険者らしき姿が見えた。20歳代~30歳代ぐらいの男ばかりのパーティだ。
俺たちが近づくと、驚いた様子を見せた。
「なんだ人間かよ。脅かすな」
「まったくだ」
こんな近くに来ないと気付かないとか、もっと鍛えたほうがいいんじゃないのか?
「悪かったな。だが、それはお互い様だ」
軽く流してさっさと抜けようとした。
「なんだと! てめー、いちゃもん付けるのか?」
一番若そうな男がケンカ腰に話し掛けてきた。
「別にそんなつもりはない。探索中にすれ違っただけだ。お互い不干渉で別れた方が健全だと思うが」
う~ん、一応ケンカ腰にならないように言っているつもりだが、俺も少しはイラっときてるのかもな。
「まあまあ、落ち着け、アレフ」
一番年上っぽいヤツが、エレノア達3人を見ながら、ニヤニヤしながら仲裁してきた。
「悪いな。こいつも少しイライラして態度が悪かったな。何もしないから行っていいぜ」
「・・・行くぞ」
3人に声を掛けて歩きだす。
あまり信用できない気がするが、行っていいと言うんだから、少し離れてから通り過ぎた。
姿が見えなくなるまで気配感知も使って注意深く進んだが、特に何かしてくることは無かった。絶対何かしてくると思ってたんだが。
「今の冒険者、何かしてきそうじゃないか?」
リリーもそう思ったのか疑問を投げかけてきた。
「ああ、俺もそう思う」
「何かありそうでしたね」
「怪しかったです」
みんな同じ気持ちだったみたいだな。
「今後少し気を付けたほうがいいな」
「はい。注意しておきます」
俺はここに鍛錬に来たんであって、人間とのいざこざは遠慮したいところだ。
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