第23話 樹海探索(1)


目が覚めて周囲を確認した。まだ少し暗い時間で何となくだが、特に異変はないと思う。聖域も寝ている間に壊れることもなかったので、魔物の襲撃もなかったらしい。


ライトをつけて起き上がると、全員起きているようで俺を待っていてくれたようだ。


「みんな、おはよう」


「「「おはようございます(おはよう)」」」



朝食は昨日夕食の際に作り置きしていた分と果物を出して食べながら、今日からの予定を確認した。


「朝は少しここで鍛錬して、それから樹海の探索をすることにした。探索だけだとどうしても均等に鍛えることができないので、ここでその分を補いたい」


「確かに実戦で中途半端な魔法などは使わないから、その方がいいだろう」


リリーが頷きながら同意を示したが、リリーの場合、魔法も生活魔法なので実戦で使うことは無いんだがな。その分いざという時の為に頑健強化と魔抗強化を上げることになるな。


「分かりました。シオン様」


「はい」



エレノアとリリーは淡々と生活魔法を発動する作業になっている。本当に生活魔法の鍛錬って作業なんだよな。★1までなれば俺も生活魔法の鍛錬は卒業したから、そこまでの我慢だ。日常の生活では有用な魔法なので頑張ってくれ。


俺とフォノンは★1になっていない魔法を中心に鍛錬している。

フォノンはここへの移動中から両手で魔法を発動することに挑戦しだして、今も火魔法と風魔法を必死に操ろうと苦労している。そこは並列思考の熟練度が上がってくれば発動しやすくなると思うので場数だけの問題だ。

その横で俺はフォノンと同じように雷魔法と氷魔法を発動させている。長らく氷魔法は水を準備しないと発動が難しかったのだが、ようやく普通に発動するイメージを掴んだ。と言っても手から冷気が出るくらいのレベルではあるが。両手から稲妻と冷気を流す地味な鍛錬だ。エレノアとリリーのことは言えないな。これもはっきり言って作業感は拭えない。



3人の魔力が少なくなってきたところで頑健強化と魔抗強化を上げることにした。

まずは軽く風魔法を撃っていき、怪我しない、でも吹き飛ばされるレベルの感覚を掴んでいく。間違って最初から感覚でぶっ放すと余計な大怪我をさせてしまうから慎重だ。そういう意味では魔法で手加減というのは難しい。魔物相手だと周りの被害を考えて手加減を考える必要があるかもしれないが、基本、そこまで神経質にならなくていい。


3人に何十発目かのウィンドボールを撃って、そろそろ疲れてきたかなと思ったところで鍛錬を終了した。




朝の鍛錬の後、十分に休憩を取ってから森の探索を開始した。

当然これだけ広いと迷うのが怖いので双間方位魔器の片方は入口に埋めてある。こんな樹海に準備もせずに飛び込むのは無謀だ。ここに来るのはルーキーはいないと思うので、まさかそんな冒険者はいないとは思うが。


森に入って暫く歩くと4体のゴブリンの気配を捉えた。

さすがロマナの森と同じくらいの魔物の反応だ。


「この先にゴブリン4体がいる。リリーとエレノアで前を抑えてくれ。俺とフォノンは魔法で攻撃する」


「「「はい(ああ)」」」


ゴブリン4体だし、リリーと一緒ならエレノアも平気だろう。魔法も要らないぐらいな気もするが鍛錬みたいなものだ。


「フォノン、俺は左側を狙う。右側を狙ってくれ」


「分かりました」



少し進むとゴブリンが見えた。

俺は姿が見えた時点で魔法の準備に入る。リリーとエレノアが前に出てゴブリンに向けて走り出した。


「ギャギャ」


少し遅れてゴブリン達が騒ぎ出した頃にはリリーは最も近くにいたゴブリンに斬りかかっていた。俺は状況を確認しつつ、一番左側にいたゴブリンに魔法を撃った。


「⦅ファイアアロー⦆」


「ファイアアロー」


俺とほぼ同時ぐらいにフォノンも魔法を撃ったようだ。2人が撃ったファイアアローはゴブリンに吸い込まれていった。魔法を喰らったゴブリンは2体ともそのまま頽れた。

残った1体は棍棒をエレノアが受け止めたところを、横からリリーが斬り捨てて倒した。


はっきり言って俺は魔法じゃなく斬り込んだほうが早かったな。まあ、鍛錬だしいいか。


「何も問題ないな。先に進むぞ」


「「「分かりました(分かった)」」」



浅瀬を進む間は少ない集団のゴブリンがところどころにいる感じで、その都度速攻で倒していった。

訂正しないといけないな。俺が探索したロマナの森の浅瀬よりも数段にゴブリンの遭遇率が高い。俺がロマナの森で探索した浅瀬は、まだ魔力溜まりの手前だったのかもな。



ゴブリンを倒しながら進んでいると、少し多い集団を捉えた。その中に特徴のある気配も混ざっている。


「次のゴブリンは10体の集団だ。ただゴブリンリーダーらしき気配が混ざっているので少し組織立って動いてくるかもしれない。それに遠距離攻撃してくるヤツがいたら注意してくれ」


「了解だ」


「「はい」」


前は俺一人でも何とかなったし心配はしてないが注意だけはな。



リリーとエレノアが前に出てゆっくり進み始めた。

今回は気配が近くなった時点で魔法を込め始める。狙いは気配の大きい敵周辺。リリーとエレノアが走り出したのを見て、俺も前に出て配置を確認する。


居た。ゴブリンリーダーが居る、数体固まっている辺りに向かって魔法を撃つ。


「⦅カッター⦆」


威力よりも範囲を広げる狙いの鎌イタチのような透明な刃は、ゴブリンリーダーを中心に襲い掛かった。突然の見えない攻撃に、ゴブリンリーダーを含めて攻撃を受けた数体はパニックを起こしているのか、何か喚きながらその場を動けないでいた。


その間にリリーは走り込んで1体を斬り捨てた後に、もう1体に斬りかかろうとしていた。エレノアも1体にメイスを叩きつけていた。俺もその列に加わるべく、クイックを自分に掛けてから、ゴブリンリーダーの周辺から掃除しようと走り出した。

未だ浮足立っている杖を持っているゴブリンに走って斬り捨てていると、俺とは反対側のゴブリンがファイアアローで倒れたところだった。どうやら反対側の2体はフォノンが倒したようだ。


俺は残ったゴブリンリーダーに向き合うと、今更に俺を威嚇し始めた。ただ、最初のカッターで手足に相当なダメージがあるらしく、やっと動けている状態のようだ。

俺はその状態を見て、すぐに大剣でゴブリンリーダーを一閃した。

ゴブリンリーダーの指示がないゴブリンなど何の問題もなく、リリーとエレノアで残りのゴブリンは倒した後だった。


倒した後のゴブリンたちを確認すると、ゴブリンリーダーの周辺にいたのは、たぶんゴブリンメイジと呼ばれる1体と、これまでも見たことがあるゴブリンアーチャー2体だった。もしかすると遠距離攻撃が機能すると、苦戦はしないにしても嫌らしい敵だったのかもな。



それからもゴブリンを倒しながら進んでいると、これまでに感じたことの無い大きな気配を捉えた。気配の大きさで言えば、ゴブリンリーダーよりも大きく力強い。見てみなければ分からないが、これがオークだろう。


「たぶんだが、この先にいるのはオーク2体だ。慎重に姿を確認して、前には俺とリリーが出る。エレノアとフォノンは隙を見て足を攻撃してみてくれ」


「了解した」


「お任せください」


「頑張ります!」


全員に伝えた後は、気配希薄を意識して対象に向けて歩き出した。


ゆっくり進んだ先に見えてきたのは、2mは超えるだろう背丈とデカイ樽のような胴体に、太い手足がついている。確かに口には牙も見えるが想像していた豚が大きくなったようなものじゃなく、その筋肉質の体はゴリラが大きくなったようなイメージだ。そしてその手にはゴブリンの持っていたような、なんちゃって棍棒ではなく、直径20cmはありそうな太さの棍棒だ。


大猪とは違った迫力に少し緊張するが、覚悟を決める。

オークの寸前にまで進んだから、自分にクイックを掛けた後に、隣のリリーにもクイックを掛ける。そしてリリーに頷いてからオークに走り寄る。


オークはこちらが近寄りきる前には気付いて、雄たけびを上げて棍棒を振り上げていた。俺に向けて振り下ろしてきた棍棒を直前に横に避ける。棍棒は大きな音を響かせて地面に叩きつけられた。

そのまま横殴りにしてきた棍棒を大剣で抑えた。グイグイと押し込まれてくる棍棒に対抗して力を込めていると、逆の手で殴りつけてきた。咄嗟に棍棒の勢いを使って後ろに飛んだ。

思ったよりも動きが速い。力が強いのは見た目で分かるが。


一旦少し後ろに下がってから、もう1体とリリーの方の様子を伺う。

リリーは下手に踏み込むことはせず、ヒット&アウェーの要領で対処しているようだ。避けることに重点を置いてそうだし大丈夫かな。それにエレノアもそれに合わせて膝を攻撃しているようだ。たぶんもうすぐオークも動けなくなるだろう。


さて、俺の方も負けていられないな。

目の前のオークに意識を集中して、自分にクイックを掛ける。オークは棍棒を振り上げて俺に叩きつけてきた。俺はそれをクイックが掛かっているのを活かして、オークの真後ろに素早く移動した。そして膝に大剣で斬りつけた。大剣はその重量と振り切った速さが相乗してオークの膝を壊した。


「グギャ~」


オークがあまりの痛みに絶叫して膝を抱え込んだ。それを待っていたのかフォノンのファイアアローがオークの顔に突き刺さった。俺はオークが顔を押さえるのを見て後ろに立つと、首に大剣を叩きつけてトドメを刺した。


すぐにもう1体へと思ったが、その時見たのはリリーとエレノアがオークの顔を容赦なく責めている姿だった。あれは終ってるな。


敵が近寄ってこないか用心して気配感知で探りながら、急いでオークの魔石を抜き取る。ゴブリンの魔石とは違う魔力の強さだ。オークの体はラノベでは食用として食べるのをよく見かけたが、この世界でオークを食べる人はいない。そこはゴブリンと一緒だ。



オークとの初顔合わせも済んだことだし、そろそろ樹海を出ようか。


それからは双間方位魔器の方向を確認しつつ、来た道を戻り始めた。数回ほどゴブリンの集団とは遭遇したが、オークと遭遇することは無かった事もあり早く樹海を出ることができた。来た道を戻っただけだし、敵が少ないのは当然か。

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