第22話 移動という鍛錬
南の森を出てから一旦王都に向けて走り出した。ショートカットして直接西の湖に向かっても良かったが、明確な目印がない状態で進んでも目的地に着けるのか確証がなかったので、安全に王都から西に向かうことにした。
こうして皆で走っているが特に遅れる人物がいないので順調に進んでいる。日本でのイメージだと普通は後衛がこういう持久力関連では遅れをとりそうなものだが、俺のパーティで明確な後衛と言えるのはフォノンだが、元気に走っている。まあ一番防具とかも軽いけどな。
一番重いのはプレートアーマーを着て走っている俺とリリーではあるが、俺は更に背中に重しを背負って走っている。走り始める前に俺が荷物を背負っているのを見て、今更だが気になったリリーが聞いてきたのだが、内容を聞いて興味を持ったのか自分も持つと言い出した。もちろんそんな準備はしてないので我慢してもらった。その代わり、王都からはリリーが背負うことを約束させられた。さすがにリリーでもこれを背負って走るとバテると思うんだが、やりたいならやらせるのもいいだろう。別に急いでいるわけではないから、バテたら休んでもいいしな。
防具をチェーンアーマーに変更したエレノアは今のところ問題なく走っている。でも一番きついのはエレノアだと思っているから、ペースはエレノアに合わせた感じにしている。
王都から西の湖へと続く道を進んでいるが、2つの冒険者パーティが歩いているのを追い抜いた。追い抜くたびに何事だっと警戒させていたが、無視してそのまま走り続けている。背後からいきなり近づいてくる集団がいたらビックリするのも当然か。俺としては走る鍛錬って重要だと思うんだがな。いざというとき逃げるにしても、戦闘にしても体力があって困ることはない。他の冒険者はどう考えているんだろうな。
「少し休憩しようか」
南の森から王都、王都から西の湖への道と続けて走っているが、エレノアとリリーがバテてきたのが分かったので休憩することにした。
さすがに疲れたのか、エレノアもリリーも座り込んで息を整えている。そんな2人にクリーンを掛けてからコップに水を注ぎ渡す。
「・・・ありがとう、ございます。シオン様」
息が荒く苦しそうな様子でエレノアが受け取った。
「主殿は・・・よくこれを背負って、・・・平気だったな」
同じく苦しそうにリリーも受け取った。
「スキルのおかげもあるが、鍛錬の時はいつも背負って走ってたからな、俺は」
リリーも俺と同じでプレートアーマーの時点で十分に重いのに、大きな石を詰め込んだ袋を背負ったら、それはきついと思うぞ。
まだまだ元気そうなフォノンにもクリーンを掛けてから水を渡した。
「フォノンはまだまだ平気そうだな」
「私は装備も軽いし、よく山の中を駆け回っていましたからね」
しっぽも、それだけぶんぶん揺れているのを見ると本当に余裕がありそうだ。
皆が落ち着いてきたのを見て、昼食代わりに干し肉と果物を食べることにした。こういう時に気軽に食べられるということで、エレノアとフォノンが結構な量を買ってマジッグバッグに収納している。
「あんまり冒険者が走ったりして鍛えているの見たことないんだが、そういうことはしてないのか?」
さっき疑問に思ったことを聞いてみる。
「そういえば、私が知る範囲ですけど、見かけたことはありませんね」
エレノアが少し考えながら答えてくれた。
「冒険者は知らないが、騎士学校では結構走らされた記憶がある」
リリーが冒険者のことをよく知らないのは当然か。そして騎士を目指すやつは当然鍛えられていると。
「村の子供は、駆け回って育ちますけどね」
フォノンが冒険者の事を詳しく話し出したら逆に驚く。それは置いといて、獣人は生まれ持った身体能力も含めて小さい頃から能力を鍛えてそうだな。
「さっきも何人かの冒険者を追い抜いたが、移動は普通に歩いてるんだな」
「そうですね。体力を消耗してしまうと何か起こったときに対処できないというのもあるかもしれません」
確かにそういう考えもあるんだろうけど、そのためにも日頃から鍛えた方がいいと思うんだがな。
「私は今みたいに走って移動するのは好きだぞ」
「私も体動かすの嫌いじゃないです」
「そうだな。俺も鍛えながら目的地に行けるし、時間の節約になって都合がいい」
休憩の後は、再度西の湖目指して走り出した。
さっきまでは2人の様子を見ながら走っていたこともあって普通に走っていたが、これからは魔法を使いながら走ろう。
なるべく目立たないように、両手に風と雷を纏わせながら走る。ひょっとしたらピカピカ光って逆に目立っていたかもしれないが、見ている人がいないので気にしないことにした。それを見て触発されたのかフォノンも風を纏わせながら走ろうとしていた。さすがに慣れていないこともあって、途切れ途切れになりがちだったが、その都度発動し直していた。
その様子が見えたのも魔力視のおかげか? これまでは風魔法は見えなかった。今もしっかりとは見えないのだが、空気に少し色が付いたような微妙な感じだ。これは魔力視の熟練度が上がれば進展するのだろうか。
それから3時間が経った頃、進行方向に大きな樹海が見えてきた。
たぶん、あれがサムソンが言っていた湖の周りの樹海だろう。今の魔力視の熟練度でも樹海の周囲の空気が少し黒く澱んでいるのが見える。目に魔力を注いでいたのを止めて魔力視を切る。
樹海から少し離れたところではいくつかテントが張られている。テントを張ったままでも大丈夫なのか? もしかしたら留守番とかがいるのか? まあ他人のパーティのことを気にしても仕方ないか。
「あんまり他のパーティがいる近くに拠点を置きたくないな。少し南方向に移動しよう」
「「「分かりました(分かった)」」」
そこから更に30分程南に移動する。走っていて思ったが、この樹海、想像していたよりずっと広いぞ。別に湖に行くことが目的じゃないが、湖に行くとしたらどれくらい掛かるんだ?
樹海からある程度離れたところに携帯ルームを置いた。あんまり近すぎるとすぐに魔物が出てきそうだからな。
エレノアとフォノンは早速夕食作りに掛かるそうなので、俺とリリーで大猪の解体をした。この組み合わせは見て分かる通り、料理がある程度できる組とできない組だ。
大猪と平原ウサギの解体が終ると少し時間があったので、リリーと2人で立ち合い稽古を軽くしながら時間を潰した。
ピコン。頭の中で音が鳴ったと思ったら、いきなり木剣の振りが鋭くなった。それまでリリーにはほとんど躱されていた木剣が、リリーの腕を掠めた。
リリーが少し離れて動きを止めた。
「主殿。今、剣が鋭くなった気がするんだが」
「ああ、そうだな。たぶん剣術の熟練度が上がった」
それから立ち合いを続けたが、リリーを完璧に捉えることは出来なかった。だが、以前よりも追い込むことが出来るようになったのは、剣術スキルのおかげか、それとも鍛えられた成果が出てきたのか。
携帯ルームに入る前に聖域を発動していく。大きさで言えば半径30mぐらいで、ドームのような形状で作られている。一応試作を何回か試したので、これで様子を見ようと思う。
携帯ルームの中に敷かれた毛布に座り込み、ステータスを確認する。
ステータス
================
名前 シオン
種族 人間
年齢 16
スキル
戦闘 短剣術☆0 ( 0.64 )
剣術★2 ( 0.01 ) △0.03
大剣術★1 ( 0.46 ) △0.01
盾術☆0 ( 0.30 )
身体 体力強化★1 ( 0.79 ) △0.04
頑健強化☆0 ( 0.87 ) △0.03
筋力強化★2 ( 0.33 ) △0.02
器用強化★1 ( 0.39 ) △0.02
敏捷強化★1 ( 0.81 ) △0.02
魔力強化☆0 ( 0.10 ) △0.01
魔抗強化☆0 ( 0.00 )
特殊 気配感知★2 ( 0.61 ) △0.02
気配希薄☆0 ( 0.86 ) △0.02
解体★2 ( 0.03 ) △0.01
並列思考★1 ( 0.97 ) △0.02
魔法威力☆0 ( 0.48 ) △0.02
魔力回復速度向上☆0 ( 0.20 ) △0.02
魔力視☆0 ( 0.01 ) △0.01
命中精度☆0 ( 0.46 ) △0.02
遠見☆0 ( 0.24 ) △0.01
魔法 生活魔法★2 ( 0.65 ) △0.01
土魔法★1 ( 0.33 )
水魔法★1 ( 0.25 )
火魔法★1 ( 0.25 )
風魔法★1 ( 0.32 ) △0.04
氷魔法☆0 ( 0.28 )
雷魔法☆0 ( 0.22 ) △0.02
回復魔法★1 ( 0.28 ) △0.01
時空魔法★1 ( 0.82 ) △0.02
加護 転移ランダム特典 金一封
転移特典 言語理解
転生ランダム特典 生体掌握網
転生特典 成長促進
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予想した通り、剣術が★2に上がっている。それでもリリーとの立ち合いで勝負に勝てなかったことからも、スキルだけで勝てるようになるほど甘くはないということか。それでも明らかに★2に上がった分の効果は出てるから、後はこれを使いこなすことができるかか。先は長いな。
剣術の実力も上げたいが魔法も上げたいところだ。今日の大猪を倒したウィンドボールからも、それぞれの属性魔法も工夫次第だということが分かった。リリーが俺と一緒に前線を支えてくれれば、魔法を撃てる機会も増えるとは思う。いやリリー頼みはダメだな。それよりも発動時間を短くして、いつでも魔法を撃てるようにするのが先だ。
全員にクリーンを掛けてから並んで寝る。出来れば朝まで何も来ないでくれると助かるが。
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