第21話 食材集め


目が覚めて一番に感じたのは両腕が痺れていたことだ。腕にかかる重さから両方に誰かの頭が乗っているのが分かる。ライトをつけると、右にエレノア、左にリリーの顔が見える。


「おはようございます。シオン様」


「おはよう。エレノア」


ちょっと動けそうもないのでそのままの体勢でいると、エレノアが上に覆いかぶさってきて口づけてきた。何度も口づけを交わしてから離れた。

右腕のほうが少し動かせるようになってきたので、起き上がろうとするとリリーも目を開いた。


「おはよう。リリー」


「・・・おはよう。主殿」


リリーは少しぽ~っとした表情で挨拶を返してきた。昨日はリリーは大変だったからな。

初めてなのもあるし、色恋関係には縁がなかったのもあると思うが、それがいきなり裸にされてからエレノアの容赦が無かった。「待ってくれ、そんなところを・・・」「そんなこと無理だ。あぁぁ」色々な叫びを上げつつ責められて喘いでいたからな。まあ、俺も人のことは言えなく同罪ではあるが。


「大丈夫か?」


「ああ、別に主殿とこうなることが嫌だったとかではない。その、心の準備がまだ整っていなかったので取り乱してしまった」


リリーは顔を真っ赤にしつつもそう言った。そんなリリーを抱き寄せつつ、そっと口づけた。リリーは少し緊張していたが普通に応えてくれた。

リリーから離れて周囲を見ると、エレノアの向こう側でフォノンが気持ち良さそうに眠っていた。


「フォノンったら。もう朝ですよ」


エレノアが隣のフォノンを揺すりながら声を掛けた。


「おはようございます。エレノアさん。主さまも、おはようございます」


ほんわかとさせられる声でフォノンが挨拶してきた。別に決まった時間とかないから寝てても寝坊ではないんだけどな。



「特に問題も無さそうなので、今日魔力溜まりの湖に向かうことにする。目的地に向かう前に南の森に行って大猪を狩るつもりだけどな。もし森に行く前に平原ウサギも近くにいたら、ついでに狩るかな」


朝食を食べつつ、今日予定通り野営に行くことを告げた。


「大猪か。平原ウサギはともかく大猪を倒すのは初めてだから楽しみだな」


リリーが食事の手を止めて少し考えながら呟いた。騎士学校に通っていたみたいだから、基本は人相手だろうしな。


「今日は南の森以外は移動のみということでしょうか?」


エレノアが行程の確認をしてきた。


「そうだな。短い時間で探索してもそんなに進めないし、移動した後は樹海の外で野営する」


「分かりました」


「向こうでの獲物は見当を付けているのか?」


「冒険者ギルドの依頼から、ゴブリン、オークを狩ることを考えている。メインはオークだな。様子を見てオーガが狩れるのか判断できればやってみたい気持ちもあるが、これは余談だ」


「良い鍛錬になりそうだな」


リリーが良い笑顔で言った。


「私も的に当てる鍛錬になるので頑張ります」


フォノンの場合は鍛錬という気持ちもあるのだろうが、魔法をぶっ放したいだけに聞こえる。狩りに入る前に火事にならないようにもう一度注意をしておこう。




南門から出て森を目指して走っていたが、幸いなのかどうか分からないが進行方向に何か所か平原ウサギを捉えた。あれだけ平原ウサギ目的で来たときは見つけるのに探し回ったのに。


「数か所、平原ウサギを見つけた。鍛錬にもなるし狩っていくか」


「一番最初に私にやらせてくれないか?」


さすがヤル気が漲っているな。


「分かった。最初はリリーに任せる。3体の集団だ」


あ、何か忘れてると思ったら、リリーも気配感知取得したよな。


「リリー。忘れてたが気配感知と気配希薄のスキルを取得したから、なるべく使うようにしてくれ。良い鍛錬になる」


「分かった」


暫くリリーはじっとしていたが、どうやらスキルの感触を試しているみたいだ。


「気配希薄はともかく、気配感知はすぐに使いこなすのは難しそうだ。なるべく意識して使って慣れていこうと思う」


「ああ、それでいい」


気配感知は熟練度が上がれば便利になるから、俺以外が持つことになるとより安全になるだろう。


リリーは俺が示した場所にゆっくりと進んでいく。

反応を見ると平原ウサギの方もリリーに気付いて動き出したようだ。


正面から2体の平原ウサギが飛び出し、リリーに体当たりしてきた。リリーは最初の1体を盾で弾くと、後からきた1体には剣で突き刺すことで対処した。突き刺さった剣を引き抜き、遅れて飛び出した1体の首を斬り裂く。弾いた1体を気にして周囲を伺っているところに、左方向から突っ込んでくるのが見えた。リリーは再度盾で真下に弾き飛ばし、剣で首を突き刺した。


さすがに平原ウサギ3体ぐらいでは慌てることもないか。


「さすがに何も問題なかったな」


俺はリリーに近寄りながら話し掛けた。


「平原ウサギは攻撃自体は単調だから予測がつけやすい」


「その通りだが、戦い慣れていないとそこまで簡単じゃないと思うがな」


戦闘スキルが未熟だった頃は俺も苦戦した。



3体の平原ウサギを収納した後は、次の集団に向けて進んだ。


「次は4体なんだがどうするかな」


俺が狩っておこうかな。


「私とフォノンで狩らせてください」


「任せてください」


リリーが入ってから2人とも戦うことに積極的になってきたな。別にリリーと仲が悪いとかではないから、かなりリリーに触発されているみたいだ。


「分かった。2人に任せる」



2人にだいたいの位置を指示して、俺とリリーは後をついていった。

2人に気付いた平原ウサギが二手に別れて襲ってきた。エレノアは右方向から突っ込んできた2体を少し体をずらして回避して、フォノンに来た2体の正面に立って盾で防いだ。盾にぶつかった1体は真下に落ちて動きが止まったのを見てメイスを叩きつけた。

すぐに背後を気にしたエレノアに、真正面から2体が続けて体当たりしてきた。エレノアは冷静に1体を避けた後に、もう1体の方へ盾を叩きつけて足止めした。


「フォノン」


「ニードル」


余計な事をせずに準備していたフォノンが魔法を撃って仕留めた。


2体になって少し余裕が出てきた2人は、エレノアが足止めしてフォノンが仕留めるという連携で残り2体を倒した。



「2人とも、平原ウサギは慣れてきたな」


2人ともそろそろ平原ウサギ卒業かな。2人とも頑健強化の良い鍛錬になっていたんだが。


「まだ慣れたとは言えません。正直今の攻撃を受けなかったのはたまたまだと思います」


「私一人だったら、何度も体当たりされる自信あります」


まだ確実に狩れるって感じではないんだろうな。今後もお世話になる可能性はあるか。



残り1箇所ある場所は回避して森に向かった。平原ウサギも7体取れたし、本命の大猪を探すのに時間が掛かるので、先に進むことにした。




「ようやく1体見つけた」


森に入ってから30分。やっと大猪らしき1体を発見した。


「ここから確認できるところまで慎重に行くから、なるべく気配希薄を意識しながら歩いてくれ」


「「「分かりました(分かった)」」」


ゆっくり近づいていくと遠目に大猪の巨体を確認することができた。


「それじゃあ、倒しに行くから少し後ろでついてきてくれ」


「主殿だけで行くのか?」


「ああ、狩りは一瞬で終る。失敗しなければだがな」


「シオン様、お気をつけて」


「応援してます」


3人から離れてゆっくり進みながら狩りやすい場所を目指す。

ある程度近くにあった大剣を振っても問題ない場所まで来ると、土魔法でこちらに呼び寄せる。


「ブルルッ」


不機嫌そうにこちらを向いた大猪は、ゆっくりした動作からいきなり突進してきた。未だにその巨体に少し緊張しながらも、突っ込んでくるのに大剣を叩き込む瞬間を見極める。ほんの寸前というところで大剣を大猪の頭に叩き込む。

毎度のことながら大猪に弾き飛ばされそうになるのを足に力を入れて押さえる。本当にこの狩りは瞬間の勝負だな。


「お見事、主殿」


「そう褒められるような戦いではないと思うがな」


「「お疲れ様でした」」


大猪を収納してから次を探し始める。



「主殿、次の大猪、私にやらせてもらえないか?」


何だかリリーが言いそうだと思ってたんだよな。そう思ってたから特に驚きもなかったが。


「ああ、いいぞ。任せる」


まあリリーなら何とかしそうではあるな。さすがにエレノアとフォノンは言ってこなかったな。



また大猪探索に暫く歩くことになったが見つけることが出来た。出来たが。


「大猪を見つけたが2体一緒にいる」


「2体ですか?」


エレノアが心配そうに聞いてきた。リリーが注目を集めてくれそうだから大丈夫だとは思うんだよな。


「そうだな。とりあえずリリーが仕掛けてくれるか。俺はもう1体を魔法で止める」


「分かった。任せてくれ」



リリーがゆっくり進むのに合わせて、俺は少し斜め後ろでついて行く。少し斜めを行くのは魔法の射線を考えてだ。


リリーは、もう少しで大猪の視界に入りそうな位置で一旦止まり俺に振り向いた。俺は頷いてから急いで魔力を注いでいく。リリーが持っていた石を大猪に投げつけた。


「ブルっ?」


「ブモオゥ」


先にリリーに気付いた1体が猛然と突っ込んで来た。

俺はもう一方の1体に意識を集中して魔法を発動した。


”ウィンドボール”


鍛錬のときに3人に撃ったのとは桁違いに魔力を込めて撃ったウィンドボールは大猪の顔にバンという大きな音を立ててぶち当たった。その大猪はドシンっという音とともに倒れた。


急いでリリーに向かった方を確認すると、リリーの剣が目から頭の方へ突き刺さって倒れているのが見えた。


「大丈夫だったようだな」


「さすがに主殿のように、この巨体を受け止める自信は無かったから回避しながらだったが、何とか上手く刺さってくれた」


謙遜しているがよく目に剣を刺せたもんだ。


「お二人とも、怪我はありませんか?」


「ああ、大丈夫だ」


「私も怪我はない」


「お二人ともお疲れ様でした」


「リリーさん、すごいです」


エレノアとフォノンが集まってきたのを見て、大猪の収納に向かう。リリーのほうは確実に死んでるだろうが、俺のほうは気絶してるだけかもしれないからトドメを刺しておかないとな。



大猪3体もあれば食材としては十分だろう。さっさと森を出て目的地に向かうか。

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