第19話 リリーとの鍛錬(1)
「リリー。今後の予定だが、俺たちはダンジョン都市に行って活動するつもりだ。だがその前に、この王都近くで鍛錬ついでに少し稼ぐことにしている。問題ないか?」
「ああ、鍛錬は望むところだ。私はこの先どんなことが起きようとも、自分の力で切り抜けられるぐらいに鍛え上げたい」
凄い気合が入ってるな。俺としては波乱万丈な生活は遠慮したいのだが、自力で切り抜けられる力が欲しいというところは同意だ。俺も何者にも邪魔されないほど鍛え上げたいからな。
「俺も同じ考えだ。鍛錬については俺も色々考えているが、もし今後他に良い方法があったら、どんどん提案してくれ」
「分かった。そうさせて貰う」
「それでだ、直近の予定として、王都の西にある魔力溜まりの湖で野営をしに行くんだが、その前に野営の準備と、リリーの装備と身の回りの物を買いに行く」
「良いのか。私はまだ何もしていない奴隷だが」
「これはエレノアにもフォノンにも言っていることだがな。リリーは奴隷だがもう俺のパーティメンバーだ。遠慮はいらない。何でも思ったことは言ってくれ」
「分かった。主殿」
「今ので思い出した。買い物の前にリリーの冒険者登録とパーティ登録が必要だったな」
「それでは、まずは冒険者ギルドからですか」
エレノアが行先を聞いてくるが、人数も増えたし役割を分けるか。
「料理器具と食材の買い付けはエレノアとフォノンに任せていいか? 俺とリリーで冒険者ギルドの方に行ってくる。そして集合場所は武器屋にする」
「はい。お任せください」
「ちゃんと良い物を買ってきますね」
エレノアとフォロンからキューブだけ預かって、リリーと2人で冒険者ギルドへ向かった。
冒険者ギルドでは2人で受付に並んだが登録は自分でしてもらう。リリーは貴族だったので読書きについては心配してないし、先だってマジックバッグと登録料は渡してあるので、俺が用事があるのはパーティ登録の件だけだ。
リリーの手続きを見ながら思った。そういえばサルビナでもリアでも冒険者ギルドには報告に来ているが、フェリスさんみたいに親しく話したことないな。まあロマナは結構長く居たのもあって、フェリスさんやルイスさんみたいに仲良くなったからというのもある。何時になるかは分からないけど、また訪れたい町ではあるな。
色々考えているとリリーの登録は終わったようなので、追加でリリーのパーティ登録と、3人分のキューブの更新をお願いした。
「どうやら俺たちのほうが早く着いたようだな」
冒険者ギルドを出て武器屋の方に来たが、先に着いたのは俺たちだったようだ。
普通に考えたら当たり前だな。こっちはギルドで登録だけしかしてないし、向こうは買う物が多い。だがリリーの装備を買う事を考えるとちょうど良かったかもな。
「リリー、希望の装備はあるか。あまり高価な物は無理だが遠慮なしで」
「私は片手剣と盾、そして主殿と同じでプレートアーマーにしたいと思う」
リリーはいい感じだな、へんな遠慮が無くて。
「分かった。じゃあこの辺りの鋼鉄製の装備の中から合うやつを選んでくれ」
少し重そうだがリリーも筋力強化が有るし大丈夫だろう。この際だからエレノアもハードレザーからチェーンアーマーあたりに変更してみるか? 守備重視だからいいかもしれない。
リリーが選んだのは、俺が最初に買った鉄剣よりも少し短いブロードソードと、少し大き目なカイトシールド、そして白銀のプレートアーマーだ。リリーに似合ってるな。
「シオン様、戻りました」
「お待たせしました、主さま」
エレノアとフォノンが武器屋に入って来た。
「ちょうどいいタイミングだったな。今リリーが装備を揃え終わったところだ」
リリーの姿を見た2人が感想を言った。
「騎士様という感じがしますね」
「おお、カッコいいですね」
「いや実力が伴わなければ意味がない」
ステータスを見たら普通に強いとは思うが、リリーは現状に満足してないんだろう。
「話が変わるが、エレノアはフォノンを守ることが多くなるから、今のハードレザーからチェーンアーマーに変えるのはどうかと思うんだが」
「チェーンアーマーですか」
「本当はプレートアーマーでもいいんだが、少し重いからな」
エレノアは少し考えてから頷いた。
「分かりました。お任せいたします」
エレノアの許可を貰ったので、なるべく軽く頑丈そうな物を選んでエレノアに着用してもらった。着た感じは十分に動けそうだ。
「重さは大丈夫そうか?」
「はい。これぐらいなら問題ないかと」
「じゃあ、これにしよう」
エレノアのチェーンアーマーを買って、これでここの用事も終わりかと思っていたが、リリーから呼ばれていくと、目の前には木剣が置かれている場所だった。
「主殿、木剣を買っても良いか?」
「木剣?」
「パーティ内での鍛錬用に使いたいのだ。さすがに普通の武器を使う訳にもいくまい」
なるほどな。パーティメンバーが増えてきたから仲間内での実戦も可能になったのか。
「分かった。人数分買うか。いや、エレノアとフォノンは武器が違うからな。とりあえず予備も含めて4本と、エレノア用に木製の棍棒を代わりに買うか」
「感謝する。主殿」
武器屋を出ると早速リリーは、装備の確認や新しく取得したスキルの感触を確認するために、鍛錬に向かいたかったみたいだが、エレノアに引っ張られて行った。
「リリーはシオン様の奴隷となりました。シオン様のためにも身だしなみにも注意しなければなりません。着替えの服や身の回りの物を買いに行きますよ」
「そうだな。済まない」
リリーは確かに元貴族令嬢という感じではないな。容姿はしっかり貴族令嬢なんだが。リグルドが言っていた通り気持ちは騎士だったのだろう。何にせよ、女性の日用品関連はエレノアに任せよう。俺では手が出せない分野だ。
リリーではないがこの後少し鍛錬するかな。こんな早く宿屋に戻ってもすることがない。
「予想よりかなり早く用事が済んだから、外で少し体を動かすか」
「お任せいたします」
「大丈夫です」
「望むところだ」
反対意見はないだろうと思っていたが予想通りか。みんな結構鍛錬に対して肯定的だよな。ある意味俺のモチベーションが下がらなくて助かる。もしイヤイヤ鍛錬するメンバーがいたら悩むところだろう。
◇ ◇ ◇
まずはリリーの体力を確認する目的でみんなで走った。結構手を抜かず走ったつもりだったんだが、リリーは問題なくついてこれた。俺と同じくプレートアーマーを着たうえでだ。これまでも十分鍛えていたんだろう。これで移動に関しても心配は無くなった。
生活魔法に関しても、エレノアが実際に鍛え方を教えるとすぐに理解して実践していった。エレノアとリリーが地味に魔法鍛錬をしている隣で、俺とフォノンは的に向かってどんどん魔法を撃っていった。
その後、みんなが魔法鍛錬を続ける中で、俺は例の聖域の改良に取り掛かっている。今のところ、聖域内に侵入者が入った場合、寝ていても気付けるようにはなった。ただ、小さな虫が通るたびに起こされることになるため、工夫したいところだ。害意を持たない者はすり抜ける仕組みとか? それいったいどうやるんだ。気配感知で害意の有る無しは判別できても、それを取り入れるなんてことできるのか?
試しだ。やってみるか。
「エレノア、前にやってた実験だ。またこの辺りを触ってくれないか」
「はい。行きます」
またパリンっと割れる様子を見せながら聖域は壊れて、俺に知らせが来る。
やっぱり割れるか。
「シオン様。今は何が問題になっているんですか?」
「そうだな。フォノンとリリーは意味が分からないだろうから説明するとだな、野営したときに寝ていても、敵が侵入したら知らせで起きられるような透明な膜で覆う魔法を作っているんだ。で、問題になっているのは、虫などが通っても膜が割れて知らせがきてしまうから、害意ある者だけを通らせない膜ができないかと考えていたんだ」
みんなが少し考え込む顔をしていると。フォノンが言った。
「主さま。それって逆に虫ぐらいでは割れない膜を作れないんですか?」
確かにそうだ。俺は膜は割れても問題ない。強度は必要ないってことを前提に考えていたが、逆に強度を上げて虫を通らせないようにすればいいのか。
「フォノン、それだ。ちょっと試して見る」
いつもと違って、少し膜を強くするイメージで聖域を作ってみた。
「エレノア。今度は軽く触ってくれないか」
「はい」
エレノアはゆっくり手を動かして膜に触ってきた。今までと違って少し触っても割れなくなっている。
「いい感じだな。ひょっとしたらまだ改良する必要が出てくるかもしれないが、今はこれで十分だ」
これで野営の時にも使えるようになった。
「主殿。では手合わせをお願いする」
「ああ、手加減なしでいいぞ」
魔法の鍛錬が終わった後に、木剣を使った立ち合い稽古になっている。最初はプレートアーマーを着てやろうとしたが、それでは鍛錬にならないというリリーの言葉に納得して、装備は全て外している。
お互いに木剣を構えて向かい合う。
リリーの動きを見ながらじりっじりっと近寄っていく。間合いに入ったところで上段から振り下ろしたが、綺麗に木剣で受け流された後に、肩に一撃入れられた。
これはマジに痛いな。リリーが本当に容赦ない。いや手加減するなと言ったのは俺か。
そして、やっぱりちゃんと剣術を習ってきた者と、スキル頼りの者との差か。技術による差が大きい感じがするな。
「大丈夫か、主殿」
「ああ、問題ない。この調子でどんどん頼む」
こうして立ち合い稽古をするのもレオナルドさんとやって以来か。この際だ。徹底的にやろう。
剣術が★1になって確かに剣筋は良くなったのかもしれない。だが、こうして剣術をしっかり学んだ者が相手だと、どうしても粗が出てしまう。
それからも何度も受け流されては打ち込まれ、フェイントに引っかかっては打ち込まれ、それでもリリーは手を抜かず相手をしてくれた。
さすがに何度も打たれた手が剣を握れなくなってきたのもあり、一旦治療休憩することにした。
叩かれまくった俺も疲れていたが、相手を務めたリリーも疲れた様子だったので、少しやり過ぎだったのかもしれない。
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