第18話 ミナサリアリリー


目が覚めると部屋は薄っすらと見えるぐらいの明るさだ。日本と違って夜更かしをしないこともあって、朝早くに目が覚めるのは普通になりつつある。はっきりとは思い出せないが、ゲームで朝方まで起きていることが多かった気がする。

両腕にはしっかりとエレノアとフォノンの素肌の感触を感じる。早い時間にベッドに入って2人の相手をして朝こうして目が覚めるのも日常になりつつあるな。よく俺の体が持っているものだ。


何だったか。昔、誰かと話したことがあるな。もし異世界に行けてハーレムを築こうとしたら、まず体が持たないんじゃないか、とかなんとか。そんな冗談交じりな話をしたような気がする。まさか現実になるとは思わなかったけど、俺の体結構余裕あるな?


寝惚けた頭でそんなことを考えていたが、起きることにして天井にライトをつけた。

すぐにエレノアが動いた気配がした。


「おはようございます。シオン様」


「おはよう。エレノア」


エレノアが手を俺の首に巻きつけて抱きしめてくるのに応えて、そっと腰を抱いて口づけを交わす。だんだんエレノアの行動が大胆になってきている気がしないでもないが、気にしないことにする。しっかりと口づけを交わした後にお互い離れた。

隣では声を掛けるタイミングを待っていたのか、フォノンが待機していた。


「おはようございます。主さま」


「おはよう。フォノン」


フォノンを抱き寄せてから口づけを交わす。口づけを交わしながら、こっそりしっぽも触る。俺は別にケモナーではないのだが、フォノンのしっぽは好きだ。腰からしっぽまで撫でていると凄く手触りがよくて気持ちがいい。その間フォノンは大変そうだが。




「今日新たにパーティメンバーが増えた後は、サムソンから教えてもらった西の方にある湖で野営をして狩りをしようと思っている。そういえばフォノンは知らないか。サムソンというのは以前に知り合った冒険者のことだ」


宿屋で朝食を食べつつ今後の予定を話していたが、フォノンが怪訝な顔をしたのを見て、サムソンと知り合った時はフォノンがまだいなかったのを思い出した。


「すぐに出発するのでしょうか?」


エレノアが食べるのを止めて聞いてきた。


「いや新しいメンバー次第だが、少なくとも明日までは宿屋に泊まる予定だ」


さすがに買われてすぐに野営に出発は鬼畜すぎる気がする。それとも他はそうでもないのだろうか?


「では、野営に備えて準備する必要がありますね」


たぶんエレノアの頭では何が必要か考えているのだろう。


「まあ携帯ルームと携帯トイレはあるし、後は食事の問題か」


「食事は料理器具と食材を購入して私がお作りしても大丈夫でしょうか?」


そういえばエレノアは料理★2を持ってるだけに料理は好きなのか。俺としては作ってあるのをアイテムボックスに入れて持っていこうと思っていたんだが。


「エレノアが大変じゃなければ問題ないが大丈夫か?」


「いえ、料理はそれほど苦にしませんのでお任せください」


「それなら頼む。じゃあ料理器具と食材も買わないといけないな。他に何かあるか?」


「食材なのですが、お肉についてはできれば買うよりは平原ウサギか大猪を狩って持っていきたいと思うのですが」


「そうだな。買うのは勿体ないし、今後のこともあるから野営に行く前に大猪を狩ってから行くか」


野営に必要そうなものを相談したが、どちらにしろ新しいメンバーの身の回りの物を買わないといけないので一緒に買い物をすることに決めた。




「シオン様、本日はお越し頂きありがとうございます」


先日の奴隷商館を訪れるとリグルドが出迎えてくれた。


「いえ、俺もメンバーの増員は必要なので」


「それではこちらの部屋でお待ちいただけますか」


部屋の中に入り3人でソファーに座って待っていると、リグルドが1人の女性奴隷と思われる人物を連れて戻ってきた。


その女性奴隷は、身長は少し高く170cmはある感じで、ショートボブの銀色の髪と少し暗めな赤の目を持った、怜悧な非常に整った容姿のスレンダー美人だった。


これは・・・


「リグルドさん、少し外にいいでしょうか? みんなはここで待っていてくれ」


「はい、構いません」


「「はい」」


リグルドと一緒に部屋の外に出て話をする。


「彼女は明らかに普通の奴隷ではないんじゃないですか? 見ただけで高貴な出じゃないかって感じがしたんですが。高級奴隷とかは支払いできないですよ、俺は」


「さすがですな。その通りで彼女は元男爵家令嬢で、もっとも本人は令嬢じゃなく騎士だって言うかもしれませんな。ははは」


はははって。俺はそういう貴族とかのしがらみになるものとは関わりたくないんだけどな。


「俺としては貴族絡みの厄介事とは無関係でいたいんですが」


「そこはご安心ください。彼女の祖国はロレーヌ王国でしてもう存在しません」


ロレーヌ王国? 何か最近耳にしたような名前だな。


「しかもご心配されていた金額ですが大金貨2枚で大丈夫でございます」


「大金貨2枚って。普通だともっと高額になるんじゃないですか、彼女の場合」


「そうですな。例えばオークションなどに掛けられれば金額は跳ね上がるでしょうな」


やっぱりオークションなんてあるんだな。ただリグルドの場合、絶対にオークションなんかに出す気がないんだろうな。


「それにしても大金貨2枚だとかなり損をするんじゃないですか?」


俺が心配することじゃないだろうが。


「これは本来お客様にお教えするようなことではありませんが、彼女は戦争奴隷なのです。戦争奴隷は少し特殊ではありますが伝手があれば、元手が少ししか掛からない場合があります。今回はそのパターンということでございます」


「それ、本当に客に話していいような話ではないですよね」


「はっはっは。そうですな。シオン様は直感スキル繋がりで特別とお考えください」


俺は別にリグルドにここまで特別扱いされるような事してないんだけどな。


「分かりました。色々ありがとうございます。彼女を買わせてもらいます」


ここで支払いは済ませておくことにした。大金貨2枚をリグルドに渡す。


「ありがとうございます。では、部屋でお待ちください。契約結晶を持って参りますので」


リグルドが奥へと向かうのを見て、俺は部屋の中に入った。


「俺が君の主になるシオンだ。よろしく」


「私はミナサリアリリー・ルイーゼ・ファラ・・・、いや違うな。私はもう貴族ではない。私はミナサリアリリーという。よろしくお願いする、主殿」


長いな・・・


「リリーと呼んで構わないか?」


「ああ、構わない」


「こっちの2人が俺の奴隷で同じパーティメンバーのエレノアとフォノンだ」


「エレノアといいます。これからよろしくお願いしますね」


「フォノンです。お願いします」


「ミナサリアリリーだ。リリーと呼んで構わない。これからよろしくお願いする」


挨拶を済ませているとリグルドが戻ってきた。


「シオン様。それでは契約紋の刻印をお願いいたします」


契約結晶を渡されたので、リリーの正面へと移動する。


「リリー。契約紋を刻印するんだが、エレノアとフォノンは目立たないように太腿に刻印したが、同じ所でいいか?」


「同じ場所で問題ない」


少し恥ずかしいのか、白い頬を薄っすら赤く染めてスカートを捲ってくれたので、契約結晶に魔力を注いで刻印した。



これで用事は済んだので奴隷商館を出ることにした。


「シオン様、本日はありがとうございました。今後も奴隷がご入用の際は当奴隷商をご利用ください」


「はい。またお願いします」


ダンジョン都市に行って活動を始めてからになるが、もしメンバーを増やす場合はこの奴隷商を利用したいとは思うな。王都まで来るのが問題になるが。


奴隷商を出てどうしようか考えていたが、一度宿屋に戻ってリリーのステータスを見てみたい。それから装備も合わせて買い物に行くか。


「一度宿屋に戻ろうと思う。少し考えたいからな」


「分かりました」


「はい」


「分かった」



そんなに長期宿泊するわけではないので、泊まる宿屋については変更しない。


「お客様、今日もこちらでお泊りですか?」


「はい。とりあえず1泊だけ追加なんですが、人数が4人でお願いします」


「はい。大丈夫ですよ」


「シオン様、少しよろしいでしょうか?」


「ん? 何かあったか?」


「はい。あの、すみません。ベッドが大きい部屋は可能でしょうか?」


エレノアがベッドの大きさについて尋ねてきたってことは夜のことだろうな。まあ文句があるわけではないからいいが。


「はい。ございますよ。大きいサイズのベッドが2つある部屋で構いませんか?」


エレノアがこちらを見て確認してきたので、俺が答えた。


「その部屋でお願いします」


「では一泊で大銀貨2枚、小銀貨4枚となります」



案内された部屋に入ると、確かに大きなベッドが2つ配置されている。たぶん4人で寝ても平気そうだ。まあそれは後でいいか。


「みんな座ってくれ」


エレノアとフォノンは迷わずベッドに座ったが、リリーは一瞬迷った後、2人に倣ってベッドに座った。


「この後の予定を話すが、その前にリリーに説明することがある。少しリリーに触るがいいか?」


「問題ない」


リリーの顔を見ると少し緊張した面持ちだが、別にそういうことじゃないが。

触れた後にリリーをリンクさせる。


「んっ。今何かが」


なんか色っぽい声が漏れたが無事リンクできたようだ。


「リリー。今のは俺のスキルだ。俺には自分の持ってるスキルを見ることができるスキルがあるんだが、それをリリーも見れるようにした」


「そんなことが・・・」


「俺はそれをステータスと呼んでいるんだが、試しに頭の中でステータスを表示すると考えてみてくれないか」


「分かった」


うん、無事表示されたな。



ステータス

================


名前  ミナサリアリリー・ルイーゼ・ファラダム

種族  人間

年齢  17


スキル

 戦闘 剣術★1 ( 0.33 )

    盾術★1 ( 0.50 )


 身体 体力強化★1 ( 0.15 )

    筋力強化★1 ( 0.04 )


 特殊 


魔法  


加護  生体掌握網 (スレーブ動作中)

    成長促進 (スレーブ動作中)


================



凄いな。最初から4つのスキルが★1だ。


「こんなスキルがあるのか」


リリーは驚いているが、そんなスキルはない。俺の加護だからな。


「さっきは分かりやすくスキルと言ったが、そのステータスにも表示されているが加護の力だ。リリーを俺と繋げたことで恩恵を受けているんだ」


「凄い力だな」


そういえばエレノアとフォノンから加護について聞かれたことがないな。そこまで目がいっていないのか、俺の力だと思って聞く必要を感じなかったのか。大事なのはスキルと魔法の方だから放置でもいいか。


「それでリリーに追加でスキルと魔法を取得できる可能性があるんだが、取ってもいいか?」


「そんなことも出来るのか。もちろん問題ない」


どんなスキルと魔法が取れるかは個人差あるんだけどな。



◎取得可能スキルリスト

 短剣術

 大剣術

 槌術

 頑健強化

 器用強化

 敏捷強化

 気配感知

 気配希薄

 解体

 遠見


◎取得可能魔法リスト

 生活魔法



魔法系は生活魔法以外はダメか。こればっかりは相性だからな。


「リリー。今取得できるものは全部取った。もう一度ステータスを表示して見てくれ」


「ああ。これが私が取得できたスキルなのか・・・」



ステータス

================


名前  ミナサリアリリー・ルイーゼ・ファラダム

種族  人間

年齢  17


スキル

 戦闘 短剣術☆0 ( 0.00 )

    剣術★1 ( 0.33 )

    大剣術☆0 ( 0.00 )

    槌術☆0 ( 0.00 )

    盾術★1 ( 0.50 )


 身体 体力強化★1 ( 0.15 )

    頑健強化☆0 ( 0.00 )

    筋力強化★1 ( 0.04 )

    器用強化☆0 ( 0.00 )

    敏捷強化☆0 ( 0.00 )


 特殊 気配感知☆0 ( 0.00 )

    気配希薄☆0 ( 0.00 )

    解体☆0 ( 0.00 )

    遠見☆0 ( 0.00 )


魔法  生活魔法☆0 ( 0.00 )


加護  生体掌握網 (スレーブ動作中)

    成長促進 (スレーブ動作中)


================



ある意味シンプルだな。生活魔法は鍛える必要があるが、基本前衛に全振りだ。鍛錬内容が近接だけなので、その分熟練度が上がりやすいかもしれないな。

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