第16話 グラスウルフ狩り


今日からはグラスウルフと大猪を狙うために、南門から出て走って1時間ぐらい先にある森を目指している。グラスウルフは森手前の平原によく出没している。そして大猪はこの森からの出没例が多いらしい。今回この2種類をターゲットにしたのも狩場が近いという理由が大きい。

グラスウルフは遭遇数も多く、単体での売却額は普通だが数で稼げるのが良い。逆に大猪は遭遇数は少ないものの、何と言っても売却額が大きい。まあ1体で何kgあるんだというぐらいデカイのが理由だが。



グラスウルフを探していると当然平原ウサギも見つかる。平原ウサギはエレノアとフォノンの良い鍛錬相手になるので、その都度相手をしている。グラスウルフはこの平原ウサギを追ってよく出現するのだが、用心深い性格のため町にはほとんど近寄らないらしい。ただ例外として、平原ウサギが大量発生したり、グラスウルフが飢えていたりすると町の近くまで出没する。


そんな用心深いグラスウルフを探しているのだが、さっきから見つかるのは平原ウサギばっかりだな。こっちは3人なので間違いなく獲物として判断されるので、近くに居れば襲い掛かってくるはずだ。そんな事を思いながら6体目となる平原ウサギを倒す。


「さっきから平原ウサギばかりだな」


「そうですね。ですがこれぐらい獲物となる平原ウサギがいるなら、間違いなくグラスウルフもいると思います」


エレノアは確信を持って言った。


「案外、大きい群れが現れる前触れかもしれませんね」


フォノンは何気なく言ったのかもしれないが、それはちょっと怖いパターンだ。


「もし多数のグラスウルフと遭遇したらできれば回避したいが、速さは向こうが上なので逃げられないと考えたほうがいい。なのでエレノアは守りを重点においてフォノンをフォローしてくれ。フォノンはウォールで牽制したり、手加減する余裕が無ければアローを撃って攻撃しても構わない」


「はい、お任せください」


「私の火魔法で灰にしてやります」


いや、フォノン灰は勘弁してくれ。一応素材は売るんだからな。メイジスタッフを振り上げてしっぽ振り振りで意気揚々としてるのに水を差したくないから言わないけどな。



それから少し森に近づいてきた頃、軽く数えただけでも20を超える気配を捉えた。初めて感じる気配だ。俺の気配感知は★2になって範囲が広くなっているが、間違いなく俺より先に気付かれてるな。扇状に広がりながら、ゆっくりこちらに近づいてきている。


「20を超える数のグラスウルフらしき敵に捕捉されたみたいだ」


「分かりました」


エレノアが冷静に答えた。

フォノンもしっかりメイジスタッフを握って周囲を伺っている。


大剣を構えながら、このまま包囲されるのは嬉しくないので、土魔法で複数のバレットの準備を始める。相手との距離を計りながら急いで魔力を注ぎ込む。


”バレット”


そろそろ射程に入りそうな段階で牽制の意味も込めて、扇の両端に複数のバレットを撃ち込む。


「ギャンギャン」

「ガルルルッ」


倒せたのは2、3体か。他の両端にいたグラスウルフは、それ以上広がるのを止めて中央と合わせて突っ込んで来た。


”クイック”


「うぉらっ」


先頭を切って突っ込んで来た中央の集団に思いっきり大剣を振って牽制した。ほとんどの敵は寸前で避けたが、何体かは避け切れずに浅く斬られている。すぐに踏み込んで、浅く斬られて怯んでいる2体に近寄り素早く斬り捨てる。


これだけ多いと後ろに抜ける敵も出てきて、エレノアがフォノンの前でメイスと盾を構えて牽制している。フォノンはファイアウォールを出して近づこうとした集団を足止めしている。


それを見て、エレノアに向き合っている敵に近づいて斬って倒すと、すぐに背後から掛かってきた3体に向き直るが、何とか大剣を向けたところで手首に噛みつかれた。幸い防具の上からなので痛くはないが鬱陶しいので振り回して外す。


エレノアは2体に近寄られて噛みつかれても慌てずに盾とメイスで対処している。フォノンは地道にエレノアが牽制している個体に狙いをつけてファイアアローを突き刺して倒しているようだ。

とりあえず大丈夫そうだ。


意識を自分の前方へと移して、俺と向き合っている複数のグラスウルフに大剣を向けた。俺は生憎プレートアーマーを着ているので攻撃される箇所は限定されている。本当のところ敵中に突っ込んで暴れてもいいんだが、前に出すぎると後ろに敵が行き過ぎて、エレノアとフォノンが大変なことになりそうなので、後ろには向かいにくいように牽制多めにしている。


お互い牽制みたいになっているのは俺にとっては都合がいいので、魔力を込め始めていたのだが、その気配に気付いたのか2体がこちらに突っ込んで来た。こういうところに魔法発動が遅いのがネックになってくる。愚痴りたい気持ちを抑えて、大剣を連続で振った。1体は見事に斬り裂けたが、もう1体には躱された。


残り半分と少しぐらいか。エレノアとフォノンのコンビも確実に倒していっているのを見て、前に出て攻めることを決める。


”クイック”


クイックを自分に掛けてから、集団の真ん中に突っ込んだ。

当然相手も噛みついたり、離れたりしているが、気にせず斬り裂くことだけを意識して暴れまわった。首を斬り裂き、こちらに噛みついてきた相手には肘を叩き込んだ。目についた相手から大剣を振り斬り裂く。


目の前にいる最後の敵を斬り捨てたのを見てから、エレノアとフォノンの方を確認すると、そちらでも戦闘は終わったようで、エレノアは周囲を警戒しているが、フォノンは地面に座り込んでいた。


「二人とも大丈夫か?」


「少し嚙まれたりもしましたが、動けないほどではありません」


どうやらエレノアだけではなくフォノンも少し噛まれていたようで傷が見て取れた。二人にヒールを掛けて治療する。


「さすがにこれぐらいの集団になると倒すのも簡単ではないな」


「申し訳ございません。私がもう少しお役に立てれば」


エレノアが少し目線を下げて言った。


「エレノア、これは慰めで言っているわけじゃないから聞いてくれ。鍛錬を始めてからこの短い間で、驚くほど成長している。今回だってしっかり役立ってくれた。本当に感謝している」


「ありがとうございます。シオン様」


「フォノンもよく戦ったな。十分な活躍だ」


「はい、そう言って貰えて嬉しいです。主さま」


本当に2人ともよく戦ってくれたって思っている。平原ウサギとは全然違う敵だからな。

倒したグラスウルフをマジックバッグに収納して分かったが、全部で25体もいた。ちょっと多すぎたな。これぐらい多くなると2人に危険なこともあるから避けたいところだが、明らかに俺の気配感知より先に気付いていた。嗅覚か、それとも聴覚か?



それからは更に気配感知に集中しつつ、慎重に狩りを続けていった。

平原ウサギを狩りつつ、グラスウルフを狩る。グラスウルフは以降は10体前後の集団ばかりで、最初に遠距離魔法で数を減らしてから相対しているので危険は減った。それぐらいの数なら、フォノンの守りはエレノアに任せることが出来るので、俺は集団に突っ込んで倒すことが出来た。



思ったより多くグラスウルフを倒すことができたので、遅くなる前に切り上げて安全な所まで戻ってきた。

マジックバッグに収納した数を調べると、平原ウサギが18体、グラスウルフが72体にもなっていたので、2人だけに任せずに俺も解体を行った。

平原ウサギはそのままで解体していったが、グラスウルフは5体ずつ吊り台に吊るしてから素早く解体していった。俺とエレノアは慣れたものでどんどん処理していくが、フォノンはまだ慣れていないので時間が掛かっている。それでも俺の最初の頃みたいに気分が悪くなることはなかった。やはりこっちの世界では獲物を解体することは普通のことのようだ。



町に戻ってからは冒険者ギルドに依頼の報告に行った。

平原ウサギもグラスウルフも単価自体はそこまで高くないが、全部納品すると大銀貨3枚、小銀貨7枚、大銅貨8枚の稼ぎとなった。グラスウルフの毛皮が査定が低くなった個体もあったが、さすがに数が多いのでそれなりには稼げた方だろう。


冒険者ギルドから宿屋に帰りながら明日の予定を考える。このままグラスウルフを狩るのも鍛錬的には有りだろう。だが少し貯金を増やしたい気もするので、明日は大猪を狙ってみてどれくらい稼げるか見てみるかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る